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第一回内田拓海作曲個展「詩と歌」作品解説

初個展に向けて

この度、12月2日(土)に亀戸文化センターカメリアホールにて、初の主催コンサート「第一回内田拓海作曲個展『詩と歌』」を開催させていただくこととなりました。

そこで、コンサートをよりお楽しみいただくためにも、noteを使い特別企画として、個展で演奏する作品の解説記事を掲載することにいたしました。個展で演奏される曲順に合わせて各楽曲を解説いたします。

3つの詩と3つのピアノ独奏曲 (2020-2022)

1.朗読
2.Prayer for Piano
3.朗読
4.Intermezzo for Piano
5.朗読
6.Postlude for Piano

作品解説

 本作品は、詩の朗読とピアノの演奏が交互にされる作品です。2020-21年に作曲した「Prayer for Piano」「Intermezzo for Piano」「Postlude for Piano」という3曲のピアノ独奏曲をもとに、コロナ禍での生活を描いた三篇の詩が朗読されます。
 詩を作ったきっかけは、2022年11月に友人のピアニスト・渡辺由里香さんから「『詩とともに楽しむピアノコンサート』というコンサートで『Prayer』を演奏したい、そしてそれに合う詩を作ってほしい」と依頼されたことが始まりでした。当時まだまだコロナの明けない時期で、今の時代を生きる者として「この時期だからこそできる表現がないか?」という思いで書き上げた詩です。
 以下演奏会に先駆けて、詩を公開いたします。

1.
ぽちゃん、と一粒のしずくが落ちる
通りを吹き抜ける風は冷たくて
交差点は閑散としていた
ざらざらとしたアスファルトの路面は
霧ですこし濡れていて
いまにも、わたしを飲み込もうとするかのように
きらりと光っている
時刻は午後の13時
この街には、まだ誰もいない

3.
コーヒーをくるくるとかき混ぜる
ミルクやガムシロップはいれずに
くるくるとスプーンでかき混ぜて
コーヒーカップの底を、そっと見つめる
波紋、交差、螺旋
部屋に立ち込める香りは
わたしの瞳をするりと抜けて
ゆっくりと、鍵盤を撫でるように、ゆっくりと
インテルメッツォを奏で始めた

5.
ぽつぽつ、と雨の降る
雨のふる、庭で
わたしは土を握る
ここで、土は湿っていて
ほのかなぬくもりと
少しばかりの水分が
まざり、そしてさらさらと
さらさらと両手から流れ落ちていく
草木の隙間から差し込む光
ポケットからひと粒の種を取り出して
その影が、包み込む場所へ
わたしは一粒の種を植える
もう見えなくなってしまった街
いま、ここでわたしは
かつて思い出した、
風のなかの唄に手を伸ばして
いま、ここで
わたしは
ひとすじの光を植える

Refrain and Recollection(2023)

作品解説

 本演奏会のために新たに書き上げた作品です。コンサートのコンセプトである「詩と音楽」の関係性を模索した作品で、フルート、ヴァイオリン、ピアノそして朗読の4つの奏者によって演奏されます。この楽曲のコンセプトは、タイトルにもある通りRefrain(反復)とRecollection(記憶)です。
 全体は、ミニマルミュージックの様式で出来ており、短い音形が反復されることによって音楽が進行していきます。音楽が進行するにつれ、時折朗読が挿入されるようになり、断片的な言葉を語っていきます。一貫した反復によって生み出されるホール全体の響きと、言葉の融合に注目してお聴きください。

春の雨(2021)

作品解説

 2022年に羽田空港のSKY GALLERYにて行われた「第2回 美×音 うたをみる」という、東京藝術大学の美術学部、音楽学部の有志による学生主催のコラボレーション展示会のために作曲した作品です。

「木の芽がふくらんだ
窓のさきの木の芽
木の芽のさアきに
雫が一つ生れた」

 このような書き出しで始まる若山の瑞々しい感性を、雫をみたときに若山が感じた静けさのなかの美しさを、そのまま音楽に反映させるために、全体を最小限の反復(ミニマル)の技法で構成し、少しずつ変わりゆく和声を使い、静けさの中で移ろう色彩を表現しました。

金子みすゞの詩による歌曲集「私と小鳥と鈴と」(2019)

1.ながい夢
2.草の名
3.私と小鳥と鈴と

作品解説

 「金子みすゞの詩による歌曲集『私と小鳥と鈴と』」は、2019年に藝祭2019で演奏するために作曲した作品です。当時は合唱版として初演を行い、本演奏会のために独唱版に編曲しました。
 全体は3曲からなる組曲で、金子みすゞの持っている言葉の持つ力、やさしく儚くも、真理を悟っているかのような世界を、音楽で表現するよう作曲しました。この組曲が、金子みすゞの語った言葉、人それぞれの持つ美しさを、表すことができることを心から願っています。

竹内浩三の詩による歌曲集「うたうたいが……」(2020)

1.うたうたいが……
2.金が来たら
3.おもちゃの汽車
4.兵営の桜
5.雲

作品解説

「竹内浩三の詩による歌曲集『うたうたいが……』」は2020年に作曲した作品で、5曲からなる組曲です。第二次世界大戦で戦死した詩人、竹内浩三の詩に付曲しています。
 2020年、コロナ禍の最中で、音楽活動ができなくなってしまった日々を送っていた私にとって、詩を読むことが慰めを得る一つの方法でした。そんな詩を読む生活を数ヶ月続けていく中で、ある日、竹内浩三の詩に出会います。彼の書いた詩は瑞々しく、作品を読み進める中で彼の人生について知っていきました。23歳という若さで戦死したこと、映画監督を夢見る青年だったこと、数奇な運命によってその夢が叶うことがなかったこと。当時22歳だった私は、彼のことを知るにつれ、深い共感を覚えるようになりました。会ったこともない竹内が友人のように感じられるようになったのです。そこで、私は彼の詩を用いて歌曲を書くことを決めました。彼の詩の持つ世界を、世の中に伝えたいと思ったからです。
 この組曲を、本演奏会の最後に演奏したいと思います。

第一回内田拓海作曲個展「詩と歌」

チケット・詳細はこちらからご覧いただけます。
https://takumiuchida-1stconcert.peatix.com

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