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カナダで教育関係の仕事に就く(インタビューその1)

カナダで本気で先生になりたい人たちの相談サロンを運営しだしてから早4か月。様々なバックグラウンドを持った方が徐々にカナダで教育関係の仕事につく準備を進めています。

一口に教育関係と言っても、そこに行きつくまでの道のりには様々なドラマがあるもので、そこから一人でも多くの人に可能性を見出してもらえたらと思います。

今日は最近知り合いになったエミさんを紹介したいと思います。エミさんは日本で6年ほど特別支援学校教員をされ、一昨年、学生ビザを使って渡加。就労ビザ(ワーキングホリデー)に切り替え、現在カナダでEA(教育アシスタント)の仕事をされています。

EAの仕事内容について:

これから先はインタビュー形式で書いていきたいと思います。僕の部分は梅木のU。エミさんはEで表記します。

なぜカナダで教育に関わったのか

U:そもそもなぜカナダで教育に関わろうと思われたのですか?

E:私の場合、とにかく現地のインクルーシブ教育を学びたくてきました。日本の学校で働いている中で、インクルーシブ教育について、とくに現場での実践について具体的なイメージを持てるようになりたいと思いました。カナダでは、教員たちがどのような意識や知識を持って取り組んでいるのか、また、それを支える制度や文化はどのようなものなのか等々。

E:日本では2007年度より「特殊教育」から「特別支援教育」へと制度が変わり、発達障害も支援の対象に含まれるようになりました。「インクルーシブ教育」という言葉を耳にする機会も増えましたが、一方で、特別支援学級や特別支援学校に通う児童・生徒数も増加しています。このようなことから、海外の実践に関心が高まりました。

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U:インクルーシブ教育とは逆行する動きですね。より分けて普通学級の生徒からは見えない存在になってしまいますし、本来適切なサポートを受けることで普通学級でもやっていける生徒が少なからずいることが懸念されます。

E:そうですね。日本は、政府が特別支援学級や特別支援学校を含めて「インクルーシブ教育システム」と定義しているため、「インクルーシブ」の概念について、国際的な認識と大きな隔たりが生じていると思います。カナダBC州の教育は、国連の障害者権利条約と同様の認識で取り組まれていると思います。

U:また一度特別支援が必要と決まると普通学級に戻ることが非常に難しいとも聞きました。普通学級と特別支援学級の壁の分厚さを感じます。

E:2014年以降、就学にあたっては本人や保護者の意向を尊重するとなったものの、実際は教育委員会や学校が特別支援学級/学校を強く勧めたり、通常級を希望した家族が批判されてしまう現状があり、残念ながら通常級へのアクセスはかなり制限されていると思います。

E:通常級で支援の手立てや担任をサポートするシステム等がない状態では、子どもも当然辛い環境に身を置くことになりますから、そうなると本人も保護者も通常学級へとはなりにくいですよね。教員として現場からできることって何だろうという思いから、渡加を決めました。

カナダでEA(教育アシスタント)になるまでの道のり

U:学生ビザを使って入国し、その後どのようにしてEAになったんですか?

E:もともとの予定では、語学学校等を修了した後、留学エージェントを利用して、ある教育委員会で教育実習のような形で現地の教育に触れる機会を持つ計画でした。でもコロナの影響でなくなってしまい、学校に通いながらどうしようかなと思っていました。

E:そんな中、ご縁で他の教育委員会の方と繋がることができました。「インクルーシブ教育を学びたいならEA育成プログラムに参加してみたらどうか」と、教育委員会の方々が面接の機会を設けてくれました。

E:日本での経歴やインクルーシブ教育に対する思いを伝えたところ、Auditor(聴講生で単位は取らない)として受け入れてくれることになりました。もうプログラムは始まっていたので途中から、約半年ほどのプログラムに参加することができました。

U:面白い縁もありますね。移民権や市民権も持たずにAuditとはいえそんな裏技があるんですね!

E:教育委員会の方たちがやはり「インクルーシブ教育」にプライドをもって取り組んでいらっしゃるからこそ、「自分たちの実践が日本の教育に役立つのであれば」という好意で受け入れてくださったんですね。本来は留学生の立場では参加できないプログラムです。

E:教育委員会の方たちにとっても初めての試みで、「私たちのインクルーシブの在り方が試されているということだね!」と、柔軟にいろいろ検討して下さった結果なので、感謝しています。聴講生としての参加なのでCertificateは発行されませんが、私は参加して本当によかったなと思います。

U:そのあとはどうなったんですか?

E:プログラムを終えた後、これもやはり縁なのですが、その頃知り合った人がたまたま教員をしていて、もちろん教育の話で盛り上がり、「その経験や知識があるなら申し込んでみなよ」と採用募集を送ってくれました。それまで働くという発想はなかったのですが、オンコール(非常勤)のポジションに申し込んだ結果、すぐに面接の連絡があり、その2週間後には仕事をはじめていました。

U:なんと。僕自身もEAをオンコールで5年ほどやっていましたが、確かにEAの正式な資格なしにそれまでの経験と週末の研修会などの経緯を汲んで雇ってもらいました。やはり経験重視ですね。

E:EAの資格が必要なところがほとんどですが、地区によってはそれに見合う経験を認めるところも少数あるようです。英語はまだまだ不安でしたが、仕事内容はこれまでの経験が生かせると思いました。

U:(ちなみにエミさんは謙遜されていますが、最低限の受け答えがスムーズにできないと面接で落とされていたはずです。ここまでを読んでカナダでは紙面上の資格よりどれだけ経験が重視されているかが伝われば幸いです。)

インクルーシブ教育へのイメージはつかめたのか

U:カナダに来られた理由の一つ、インクルーシブ教育へのイメージはつかめましたか?

E:そうですね。スタッフとして働いて感じたのは、学校全体にウェルカムな雰囲気があることです。それは学生たちに対してだけでなく、スタッフに対してもです。お互いを大切にするコミュニティをつくるためには、大人たちがまず子どもたちのモデルになろうという意識があると感じました。

E:そして、そうしたコミュニティを支える仕組みとして大きいなと思ったのは、カナダの教育現場の人員の多さです。一クラスのサイズは20人程度。障害をもつ学生がいるクラスにはEAが配置されます。

E:EAは障害をもつ学生の個別サポートもしますが、それ以上に学生同士の関わりに気を配ることが大事だということも、実践面での重要な要素だと実感しました。EA養成コースでも学びましたが、EAがずっとついていたら学生同士の関わりは生まれにくいですよね。

E:障害の有無にかかわらず普段から関わり合うことで、お互いの違いに目を向けるというより、その違いを認め合ったり、そこから学び合ったりすることができるのだなと感じました。

U:例えばどんな時にそう思いましたか?

E:ある高校でサイエンスのクラスに入ったとき、私がサポートすることになっていた生徒の隣にはクラスメイトが座っていました。グループで色々な物質を観察してワークシートに答えていく課題でしたが、クラスメイトがその子にわかりやすく質問するなど自然にサポートしていました。

E:それは日常的に関わっているからこそできますよね。なので、私は先生とアイコンタクトをとり、クラス全体を周ることに。質問を受けたり、スマホを使っている生徒に「見えてるよ」ってこそっと言ったり(笑)

E:印象に残っているのは、小学校である低学年の女の子と一緒に廊下を歩いていたのですが、彼女が突然方向を変え、図書室にぴゅーんと走っていってしまったときです。あせって追いかけていくと、中では高学年のクラスが授業中でした。

E:先生や高学年の子たちは、急に入ってきたその子に驚くこともなく、にこにこと「やぁ、○○(生徒の名前)」と気さくに声をかけていたんですね。私が「すみませ〜ん!」というと、先生も「大丈夫よ〜」と笑ってくれて、安心感がありました。

U:担当された生徒さんは普段からほかのクラスにも出没するんでしょうが、それが受け入れられる環境がもうすでにできているということですね。

E:そうですね。学年に関わらずお互いを知っている。インクルーシブ教育の一つの姿を見ました。

今後の予定

U:今後はどうされるんですか?

E:EAとして半年ほど働きました。もうあと1か月ほどでワーキングホリデービザは切れるので、こちらに残る方法を探すか、帰国してこちらで学んだことを生かして現場に復帰するか考え中です。

U:特別支援の先生はカナダでは全然足りていないので僕としてはこちらで先生になってほしいですが、日本でもカナダでも引く手あまたであることは間違いないですね。

E:ありがとうございます。

まとめ

インタビュー記事を書くのは初めてでしたが、行動力と縁がつながって素敵な経験をされているエミさんについて書かせていただきました。これを読んで自分にもカナダで教育関係の仕事や経験を得られるチャンスがある、そしてそのために踏むべき道筋が少しでもイメージできれば幸いです。最後まで読んでいただいてありがとうございます。

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