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「答えのない教室」が今すぐに日本の教育に取り入れられるべきワケ

こんにちは。カナダの現地高校で現役数学教師をしているミスターウメキこと梅木卓也(うめきたくや)です。今日は今年の2月に出版した「答えのない教室」への思い、そして日本での講演や模擬授業を通して気づいた日本の教育への危機感について考察してみたいと思います。

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先日「答えのない教室」の年一の研修会にアリゾナ州のフェニックスまで行ってきました。もともとカナダの数学教育学の教授ピーター・リリヤドール博士によって提唱された教え方Building Thinking Classrooms(邦訳「答えのない教室」)。今年で二回目のこの研修会は小中高大学の教員がカナダとアメリカ全土から参加し、その数なんと1300名。二日間にわたり「答えのない教室」だけについての研修会をしました!

アメリカのハワイ州やデンマークなどでもうすでに州や国単位でこの教え方が取り入れられていると聞いてはいたものの1300人の教員を目の当たりにすると実感がよりわいてきました。

実際に話してみるとアメリカの多くの州では、専属の教育コンサルタントやコーチがこの教え方を気に入り、学区や州レベルですぐ取り入れるという流れが一般的だとわかりました。

「答えのない教室」のアリゾナでの研修会

僕が日本ですでにこの教え方について講演会や模擬授業を小中高大でやり始めて2年以上が経とうとしています。関わった大人は軽く100名を超えているでしょう。それなのにカナダやアメリカではその違いにすぐ気づいて取り入れられているのに日本ではまだ老舗のインター(今年の三月より算数・数学のすべての授業で導入)を除いて全面的に取り入れると名乗り出た学校は一校としてありません。僕はここにとてつもない危機感を感じています。

「答えのない教室」が唯一無二である理由

ではなぜもうすでに国単位や州単位で正式に取り入れられ、原著である「Building Thinking Classrooms」の本は8か国語(スイス語、ノルウェー語、デンマーク語、ポーランド語、トルコ語、オランダ語、フランス語、中国語)に翻訳出版されているなか、またFacebook上では6万人を超える北米、西欧、北欧の教師が日々の実践報告や疑問質問を投げかけている中、日本には一校として取り入れようとする学校が出てこないのか。

そもそもなぜこれらの国ではすぐに翻訳をしようとする流れになったり、国や州全体で取り入れようとする流れになるのか。そこには「答えのない教室」が唯一無二であるいくつかの特徴があると思うのです。

特徴①論理的思考の育成

たとえ話をします。ここに言われるまで何をしていいかわからない人がいるとします。一つ一つ頼めば的確に仕事をしてくれます。でもそれが終わると次に何をすればいいかがわからない。なのでただ待っている。言われるまで待っている。

もう一人の人がいます。こちらは一つの仕事をするにしてもそこに普遍性や法則性がないかを考えながら仕事をしています。一つ一つの仕事をしながら全体的な流れも考えています。そして次に何をするべきかも考えながらまた時には相談しながら行動しています。常に次に何をすべきかを自分なりに考えているようです。

「Building Thinking Classrooms」の原著者であるリリヤドール教授は学びの前提条件に考えることをあげています。つまり考えることがあってはじめて学ぶことが発生する。人の記憶に残ることはその人の思考の軌跡だといいます。思考していないことは残りようがないのです。

既存の教え方では見せることが最優先され、ただまねるだけになっていました。自分で考えるためには極力見せることを減らし、例えば考えやすくなるタスク(問題)を与えることが大事になります。どのように導入し、どのような問題を与え、そこでどのように考えるのか。またどのような媒体であればより考えやすいのか。つまり考えることを最大化させる環境整備が必要なのです。この考えることを最大化させることに成功したのがまさにこの教え方なのです。

他の教え方との決定的な違いは考えることに特化したこと。内容重視から教科横断型のスキルやコンピテンシーを重視する各国の流れもあってこの教え方は大いに賛同を受けています。

さて日本ではどのような人材を求めているのでしょうか。冒頭の前者のような人間が社会にはあふれていないでしょうか。マニュアルにすべて書いてないと身動きできない人間であふれていないでしょうか。もしそうであるならこの流れを変えるにはこの教え方を取り入れるしかないと思うのです。

特徴②コミュ力

「Building Thinking Classrooms」では3人ずつのランダムなグループで縦掛けにしてあるホワイトボードに向かって問題を解いていきます。毎日ランダムなので、クラスのだれとでも話し合う機会を得ることになります。自分の意見を言い合える空間づくりのしかけが山ほどあるのです。

「Building Thinking Classrooms」の様子

だからこそ自分の知っていることを表現することを日々する中で言語化することが当たり前に身につきます。そして相手の意見を聞くという至極当たり前だがなかなか大人でもできないことができるようになってくるのです。

日本で模擬授業などを実践する中で一番よく聞かれた児童生徒からの感想は「久しぶりに自分の意見が言えた」ということ。思っていることを忖度なしに3人という空間の中で言う。相手の考えを聞いて理解しようとする。相手の視点を理解する中で算数・数学への理解だけでなく、幅広い理解の仕方があること、自分だけの理解が正しい理解でないことを認識していくのです。

社会性の発達。もうすでにこの教え方が広がっているどの国でもその国の教育の目的はと聞かれれば必ず上位に挙がってくる目的の一つです。多様な考えを認め合い、その中で話し合いを通してより深い理解を生み出していく。

このような言語化、聞く力、社会性の発達すべてが網羅されている教え方は他にはないのです。日本の教育現場においては言うまでもないと思います。もし授業の大半で児童生徒自身がグループワークを通して言語化し、お互いを理解するために聞きあい、お互いへの理解を深める活発な活動ができる教え方がほかにあるなら教えてください。

特徴③インクルーシブなマインドセット

毎日ランダムなグループで学ぶ中で、時間をかけて生徒同士の理解が生まれていきます。この空間ではある一定の仲良しグループの生徒だけが話をするということはありません。今までは話したことのないような生徒同士でも普通に話をしている。社会的な特殊な壁の崩壊が可能になるのです。だからこそ考えることも個人競技ではなく、また先生を中心としたものだけでもなく、各グループごとの、また各グループ間のシナジーとして広がっていくのです。

また先生のなかでもこのコントロールをしない教え方を通してどのようにすればより多くの生徒が参加しやすい環境になるのかという本当の意味での教えることへの理解が深まり、自然な形で今までの「こんなことできるはずがない」という固定観念がほぐれていきます。いままではこんなことできるわけないと思っていたような生徒がこの教え方の環境下でそうでなかったことを証明してくれます。

誰もがいやすい環境、誰もが自分らしくあれる環境、誰もが相手を認められる環境を作っていく過程がこの教え方には紹介されています。そうする中で生徒も先生もよりインクルーシブなマインドセットが醸成されていくのです。

日本は国連らからのお墨付きでインクルーシブな教育環境ではないと言われています。この教え方を通して30万人を超えると言われる不登校児童生徒も含めて誰もがいやすい社会を作っていきたいのです。学校だからできることがある。この教え方は社会性の育成からくるインクルーシブなマインドセットを可能にしている唯一無二の教え方なのです。

方向性の違い

以下の三点の「Building Thinking Classrooms」の特徴について話してきました。 
〇 論理的思考を磨き、与えられた状況を分析し、全体を俯瞰するメタ認知を身に着けられる教え方
〇 言語化し、聞く力が身につき、社会性も発達していく教え方
〇 インクルーシブなマインドセットも醸成できる

これはもしかしたら今の日本社会や経済界で求められていることかもしれません。もしかすると求められていないことかもしれません。確実に言えることはこの教え方が広がっている国ではこれらの特徴が教育の最優先課題だと認められているということです。そして日本では最優先課題ではないということです。

よく聞かれます。これらのエビデンスはあるんですかと。リリヤドール教授の研究を読めばそんなことはたやすく理解できることです。でもこのような質問をされる方が本当に聞きたいのは「このやり方でテストの点数はあがるんですか」ということだと思うのです。

テストの点数があがったかどうかはFacebookの「Building Thinking Classrooms」のグループ内でのやり取りを見ていただければ一目瞭然です。数々の成功体験が報告されています。

でももっと大事なのはこんな質問をすることです。テストの点数ごときで何が測れるでしょう。あんなパターンを覚えて人生にとって何が生まれるでしょう。またそんな点数で学びや教育の目的の何が測れるでしょう。テストという手段の一人歩きは滑稽でばかげています。そんなことばかりしていると、言われるまで何もできない人間を量産することになるのです。

理想の教育

児童生徒が、自分らしく忖度せず意見を言い合い、相手の意見を聞いて、お互いの考えを認め合い、より深めていく。そんな教育現場を想像してください。そこには障害があるからとかないからではなく、お互いをサポートしようとするマインドがあります。

どんな問題にも試行錯誤する中で光明が見えることをこの児童生徒たちは知っています。また互いに話し合う中でこそよりその光明が見えやすくなることも知っています。このような教育環境はもうすでに多くの国で実践・実現しているのです。

もしこのような教育現場を一日でも早く日本の教育現場で作りたい人がいれば一日でも早く「Building Thinking Classrooms」が翻訳されることに賛同してくれることを願います。またこの本のイントロとしての実践本はすでに「答えのない教室ー3人で『考える』算数・数学の授業」として新評論社から僕と有澤和歌子さんとの共著として出版しました。日本でも少しずつですが実践者が出てきています。本格的な日本への導入に向けて一日でも早く翻訳されることを願っています。翻訳が実現することでその研究内容や誰であ
っても明日から実現できる教授法をより詳しく知ることができます。

口を酸っぱくして言います。これらの教え方はもう世界中で広がっています。毎年最低でも6万人以上の教員が実践しているのです。つまり最低でも100万人以上の児童生徒がこのような教え方で育っているのです。危機感を感じているのは僕だけでしょうか。

もし興味のある方は僕か有澤さんに直接連絡ください。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

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