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うちの食器『鉄仙』シリーズがなぜ人気なのか、3つの要素から考えてみた。(その1)

宝石のような価値を生む“線刻”の器

こんにちは!
有田で陶芸家をやっています、辻拓眞と申します。
今回は私が所属している聡窯の定番食器『鉄仙』シリーズについていっしょに見ていきましょう。きっと新しい価値観が見えてくると思います。

先代・辻 毅彦が1978年に、有田国際陶磁展(旧 九州山口陶磁展)で最高賞を受賞した鉄仙の作品を元に生まれた鉄仙の器。毎年、有田陶器市が近づいてくると工房に咲く鉄仙が、モチーフとなっています。聡窯独自の技法である、線刻技法と下絵付で描いており、手作業ならではのちょっとした花の違いが魅力の1つです。花が咲くように、食卓に彩りをもたらしてくれます。

さて、ご覧いただきましたようにこの作品、私の祖父がデザインしたモチーフなんですよね。40年以上も前の作品なのに、なぜかいまだに人気がある。

うーん。。。

いや、もちろん個人的にも大好きな作品なんですが、、、なぜ売れているのかを考えることはうちにとっても無益ではないんですよね。

というのも今の時代、量販店やオンライン上には安くていいものが溢れています。そんな中この作品を選んでいただけるということはきっと、市場の器と差別化がなされているはずです。

売れ線を狙うのは作家としていかが…という議論はまた次の機会にするとして、この作品を3つの要素に因数分解して考察してみようと思います。(手前味噌ですが)そうすることで、新シリーズの作品も考案しやすいというものです。

『鉄仙』シリーズが人気の理由
・“線刻”技法を用いた独自性 ←今回はココ
・使用することで分かる満足感
・流行から少し外れたデザイン性


【その1】“線刻”技法を用いた独自性

東西東西。
このシリーズを説明する上で欠かせないのが祖父、毅彦が考案した“線刻”技法です。

これがどのような技法なのか。それを説明するにはまず、伝統的な器の“絵付け”を知ることが先決です。一般的にはどのようになされているのでしょうか?

写真: 線刻技法

まず、うちが窯を構える磁器の産地、有田では一般的に、「骨描き(こつがき)」、「濃み(だみ)」の2つのやり方があります。

誤解を恐れなければ、前者が「ドローイング」、後者が「ペインティング」と言い換えられるでしょうか。要するに線を描き、色を塗るという絵の工程に、有田ではそれぞれ名前がついているというわけなんですね。

一般的にはこれを、それぞれ適した筆で行います。「骨描き」では極細の筆で、細密な線を描くといった具合です。

ところが聡窯の場合、この「骨描き」にあたる工程を筆では行いません。ディバイダーと呼ばれる製図用の道具(巨大なコンパスのような道具。先端に針がついている。)で行っています。

では、どうするのか。まだ焼き物が焼かれる前の状態、土を成形して乾燥させた状態に、この巨大な針でガリガリと彫って行くのです。このディバイダーで、“線を刻む”工程から線刻と名が付きました。


…だから何?と思いますよね?
私も幼い頃は「筆で描けばいいじゃん」って思ってました笑。でも、これがよかったんですね。写真では、分かりにくいので少し想像してみてください。

焼き物の器の表面は釉薬という、被膜のようなガラスの層に覆われています。

このガラス層こそが器の魅力で、(別に釉薬がかかっていない器を批判している訳ではありません…)というのも、よく見るとガラスが微細な空気の泡を内包しています。

この気泡が、土の白さや絵の具の色彩を乱反射して、器を鮮やかに美しい光沢を見せているのです。

では、線刻した器はどうでしょう。

写真では伝わりにくいですが、器に彫りを入れているので、指で表面を撫でると分かるほどの細かな凹凸があります。

ミラーボールを例に出すと伝わりますでしょうか?この凹凸が、ツルンとした器より多くの光の乱反射を生み、より強く器に光沢を見せます。

光沢は鉄仙の青をより鮮やかに見せ、器に“エレガント”な印象を生んでいる。そして線刻は、作家がひとつひとつ手作業で行います。丁寧に線を刻んでいくその工程はまるで、宝石に細かいカットを刻んだときのように、美しい輝きを生むでしょう。

実際にこの器を使っている方々からは、満足のお声を聞くことが多いです。持ち主の所有する満足を満たす皿、これが1つ目の要素だろうと愚考いたします。

さて、長くなりそうなので次回に続きます。

辻 拓眞 略歴

1992年 佐賀県有田町に生まれる
2015年 佐賀大学 文化教育学部 美術・工芸課程 卒業、 有田国際陶磁展 初入選(以降4回入選)
2017年 佐賀大学 教育学研究科 教科教育専攻 美術教育 修了、佐賀県立有田窯業大学校/佐賀県窯業技術センター非常勤 就任
2019年 日本現代工芸美術展 初入選、現代工芸新人賞「築~KIZUKU~」

現在、父 聡彦のもとで作陶に励む
ー聡窯について

代々、日本磁器発祥の地である佐賀県有田町で作家として活躍している辻家。香蘭社の図案部で活躍していた先代・辻一堂が、1954年に前身である新興古伊万里研究所を設立し、12年後に「聡窯」と改名し、現在に至ります。

絵を得意とする聡窯では、日本や海外の風景・身近にある自然をモチーフを、先代から受け継ぐ線刻技法と呉須(青色の絵具)で描き、日々作陶に励んでおります。


【聡窯・辻 Sohyoh Tsuji】
〒844-0002
佐賀県西松浦郡有田町中樽1-5-14
営業時間:9:00~17:00(土日祝日/定休日)
Tel:0955-42-2653 Mail:artgallery@sohyoh.com



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