堀正岳 『知的生活の設計』—2019年注目の情報整理ツールはScrapbox

新年らしく、「プランニング」に関する本を取り上げてみます。堀正岳 『知的生活の設計』です。

「10年後」を豊かにするために今なにをすべきか?

堀さんと聞くと、仕事や家事の効率化をはかる「ライフハック」の話を期待される方も多いかと思います。

しかしこの本はそれとは対極の、「10年後」の自分をかたち作るための日々の生活を今からどう積み上げていくべきかという、骨太なテーマを扱った本になっています。

 『ライフハック大全』が「5分で人生を変える」ことについてまとめた本であるのに対して、本書はより長期的に「10年後を目指して今できること」を中心にまとめています。(No.6 / 3685)
 ライフハックで“初速”を与えた人生に、“中長期的な軌道”を与えるのが、本書で目指す「知的生活」の「設計」なのです。(No.33 / 3685)

物理的な「書斎」の必要性

ギュギュッと本書の要点をまとめてみました。以下2点が本書の主張となっています。

・10年後の人生を豊かにするには、知的積み上げの習慣化が重要だ(1〜2章、7章)
・その習慣化に必要なものは、「書斎」と「ツール」、そしてそれらを手に入れて維持するための「お金」である(3〜6章)

この手の書籍の中で特に新しいのは、「書斎」の必要性について、かなりのページ数を割いて説いているところ。

みなさんは、自宅に書斎をお持ちでしょうか?

大量に蔵書できる本棚や、集中して調べ物や物書きができる机とイス、ハイスペックなコンピュータ……。いざ用意しようとなると、その一部屋のぶんの家賃をはじめ、それなりにお金がかかります。

本書では、特に都市部でこれを用意することの難しさにも配慮しながらも、いかに書斎を確保すべきかを述べています。本棚の選び方や、堀さんの得意分野ともいうべきデジタルスキャナ等のツールも駆使した、アナログ・デジタルいいところどりのハイブリッド書斎論は、本書の大きな見どころです。

堀さんが必要と説く「書斎」には、バーチャルなオフィススペース、たとえばどこでもメモや記録が取れるスマートフォンや、Oculus GoなどのVRガジェット、クラウド上のツールやデータストレージなども含まれています。これらの利点や使い方が学べる点も、本書の魅力の一つでしょう。

しかしながら、デジタルツール・ガジェットをどれだけ揃えたとしてもそれだけではダメで、知的生活の実践のためには、物理的にも最低限本棚一つ・小さな机一つある書斎は用意すべきと、堀さんは力説します。

Evernote→Scrapboxの時代へ

ところで、私が本書で知りたかったこと、それは最近の堀さんが情報整理ツールとしてどんなサービスや手法に注目しているのか、という点です。

というのも、堀さんがこれまでエバンジェリストとして長年に渡って支持していたEvernoteが、最近になってかなり元気がないように見えるから(デジタルツールが好きな私の知人達も、そろそろサービス終了もありうるのではないかと、心配をしています。杞憂であることを祈りますが)。

そんな空気を察してか、Evernoteと併せて堀さんが今後有望な情報ツールとして本書で大きく紹介しているのが、知る人ぞ知るScrapboxでした。私も、1年前に慶應義塾大学SFCオープン・ラボのセッションでScrapboxの存在を知り、感銘を受けたツールです。

Scrapboxとは、
・アナログの情報カードをデジタル化し検索可能にしたようなUIをもち
・wikiにも似た拡張性ある記法・入力方法を備え
・Google Docsのようにリアルタイム複数人編集も可能な
情報整理ツールです。

上図で表現されているとおり、Evernoteよりさらに検索性とランダムアクセス性が高い、エッジの効いた玄人向けのツールとして紹介されています。

ブラウザベースのサービスということもあって、まだUI・UXに多少の難はあるものの、タグによってカード同士を横串に刺した情報が一覧でき、相互にアクセスを促す独特の作りは、これまでにないスタイルで情報の活用・共有を実現するもので、新たなアイデアが生まれやすくなります。

また、一つ一つ情報を積み上げた結果を俯瞰できるのは、「10年後」の大局観をもって情報を整理するのにぴったりではないでしょうか。

なお、著者の堀さん自身は、Evernoteの代替・サルベージ先としてScrapboxを紹介しているわけではありません。はいうものの、私個人の肌感としては、iPadなどで利用できるメモアプリとクラウドストレージの高機能化(PDFファイルの全文OCR&検索機能の提供など)・低価格化に伴い、Evernoteのようなクリッピング&メモサービスはそろそろ役目を終えて、こうしたウェブでなければできない情報整理の手法へと置き換えられていく時期にあるのかなと思っています。

2019年は私もこのScrapboxを仕事でもプライベートでも本格的に使っていこうと思っていますが、本書の紹介からは少しはみ出てしまうので、その話はまた改めて書きます。


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