『「つながり」の創りかた: 新時代の収益化戦略 リカーリングモデル』ーサブスクリプション、カスタマーサクセス、メンバーシップ
買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その13冊目。
サブスクリプションはリカーリング(継続的)なマネタイズ手法の1つに過ぎないが、その変化の大きさは理解されていない
マネタイズを専門とする経営学者の手による、サブスクリプション論。全く期待せずに読み始めたのですが、これはアタリでした。
リカーリングモデルとは、リカーリングレビューを実現する収益化モデルのことです。リカーリングレベニュー(recurring revenue)とは文字どおり、継続的に収益が入ってくる「状態」を表しています。(P15)
リカーリングモデルの中で最も注目を浴びているのが、サブスクリプションです。(中略)一般にサブスクリプションは、定額制課金と認識されていますが、本来的な意味はそうではありません。そもそもサブスクリプション(subscription)とは、「申し込む」や「購読する」という意味を持つ“subscribe”の名詞形です。消費者と事業者が一定期間において契約関係にあり、その間に利用に対する料金の支払いがある状態を指します。(P33)
このように、丁寧に定義に定義を積み重ねていくことで、「サブスクリプション」がこれまでも存在したさまざまなマネタイズ手法の一つにすぎないことを解き明かすのが、前半第3章までの110ページ。
それだけであれば、すでに紹介した本家『サブスクリプション』を読めばすみます。本書がその本領を発揮するのは、続く第4章からの後半です。
これまでのプロダクト志向、それに基づくポーター的バリューチェーンの考え方に基づくマーケティング論がいかに古びた考えとなりつつあるのか、そしてリカーリング(継続的)に顧客を引き付ける力の源泉である「つながり」はどうやって作るのか。それを解き明かしていくところにあります。
ユーザーはプロダクトなど欲しくはないのです。利用時代を迎え、その傾向がさらに強くなっています。結果的に、プロダクトを薦めるほどに、ユーザーは興ざめしてしまい、企業との関係性が悪化することすらあるのです。
ユーザーの目的は、あくまでプロダクトを使って得られる自らの生活のアップデートです。つながりを強化するために取り組むべきことは、ここです。いかにユーザーの生活をアップデートできるかを考えることなのです。(P125)
ユーザーの生活のアップデートに最適なものは何かを考え、既存のプロダクト以外のソリューションも検討材料にする。それを考える企業こそが、真にユーザーに寄り添った企業になり、両者のつながりは強くなるのです。(P132)
カスタマーサクセスとは、「ユーザーの生活のアップデート・アップグレード方法を提案」する仕事
つながりを強くする、もっと具体的に言えば、プロダクトを購入した後もユーザーと関係をもつには、どうすればいいのか。
著者は、ポーターの“バリューチェーン”に代わり、「アップデート」と「アップグレード」の提案に重心を置いた“活動チェーン”の概念をあらたに提唱します。
サブスクリプションの概念と必ずセットで紹介されるのが、「カスタマーサクセス」という仕事です。この仕事がなにをするものなのか、具体的な言語化に成功している文献はなかななかないのですが、本書では、このアップデートとアップグレードの方法を提案する仕事がカスタマーサクセスであると定義しています。
カスタマーに寄り添うことではじめて、企業目線のマーケティングでは取りこぼしがちな「アンタッチドポイント」をカバーできるようになり、ここに寄り添うことではじめて、「つながり」が生まれ、リカーリングなお付き合いができるようになる。
自分の中でうまく言語化できていなかったカスタマーサクセスとマーケティングの接続が、この本でようやく整理できた気がします。
サブスクリプションの成否は「メンバーシップ」の構築にかかっている
ラストは、そうして生まれた顧客とのつながりをどう仕組み化するかについて。著者は、たんなるポイントカード会員とは違う、
①メンバーの情報の正確性
②メンバーシップを自覚するための手続き
③成果達成のための双方向性
④加入し続けることによるアップデート認識
⑤価格以外の排他的なサービスによる優越感
この5つが担保された「メンバーシップ」を構築することが重要だと説きます。
そして、この章に限っては、実際にメンバーシップ構築に成功している企業事例が多数紹介されています。具体的には、
・でんかのヤマグチ
・アドビシステムズ
・ネットフリックス
・テスラ
・セールスフォース
といった企業達。
セールスフォースについては、私が今たずさわっているBtoB領域のサブスクリプション企業のお手本であり、よく知っている話ばかりではありましたが、BtoCのサブスクと並べて眺めることで、共通するマーケティングのエッセンスを言語化できました。
サブスクリプションすらコモディティしつつある今の時代のマーケティング論としては、ポーターもコトラーももう古い
「おわりに」から、サブスクリプション企業に居て従来のマーケティング理論を学んでもどうもピンときていなかった私がおもわず「シビれた」一節をご紹介して、本書のご紹介を終わりたいと思います。
売り切りを代表するこれまでのものづくり企業やもの売り企業は、ほんの少しでもユーザーに寄り添う姿勢を見せれば、褒められてきました。それができていれば、差別化が利いたホスピタリティ抜群の企業として評価されてきましたが、サブスクリプション企業にとってはそれが当たり前です。こうしてサブスクリプション企業が拡大するほど、従来型の企業の「寄り添い」はコモディティ化してしまったのです。(P267)
私が本書を書くに至った理由は、まさにこうした点にあります。「売り切り」に最適化された経営学をアップデートする必要があると感じたからです。皆さんがフレームワークとして活用するマイケル・ポーターの競争戦略論(バリューチェーン)も、フィリップ・コトラーのマーケテイング論も(STPやマーケティングミックスなどの体系)も、消費者行動論(AIDAやAIDMA)も、すべては売り切り型企業が支配的であった時代のものです。あるいは、一見ユーザーに寄り添った概念である「カスタマージャーニー」ですら、プロダクトを前提にした考え方です。
(中略)
これからは、サブスクリプションをはじめとするリカーリングモデルが拡大する時代に対応する、経営のあり方を示す必要があるのです。(P268)
サポートをご検討くださるなんて、神様のような方ですね…。