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「意味はないけど、面白い物」の存在が空間に深みを与える

長年、コツコツと続けているCraft Hotel Collectiveというホテルレポートのinstagramアカウントがある。

「クラフトホテル:その土地ならではのローカルな魅力、つくり手の思想が滲み出た、唯一無二のホテル」をテーマに、自分が泊まったホテルをレビューするアカウント。

久しぶりに投稿しようと思い、去年行ったホテルの写真を見返していて、ロンドンで泊まったThe Standard Londonで受けた衝撃を思い出した。

このホテルのデザイン、そして空間へのゴージャスすぎる投資には度肝を抜かれてしまい、強く記憶に残っている。

The Standardはアメリカ発のホテルチェーン。
Andre Balazs (アンドレ・バラス)という有名なホテリエが手掛けていて、アメリカを中心に世界中に展開している。

個人的にはNYハイラインにあるクラブを併設したThe Standardのイメージが強く、なんとなく自分にはハイエンド&パリピ向け過ぎる気がして泊まったことがなかった。

この時はロンドンにあまり好みのホテルがなかったこともあり、「一回Standardにも行ってみるか〜」くらいのノリで予約。
結果、ものすごく刺激的な滞在になった。

「機能を主体としない物への空間投資」には、作り手の想いやこだわりが垣間見える

このホテル、外構やファサードデザインから始まり、フロントから廊下、エレベーター、各レストラン、トイレまで、とにかく全てのスペースのデザインが抜かりなさすぎる程作り込まれている。

ポコポコした窓枠が特徴的な外構。各部屋の天井とリンクする形状。
抜かり無くデザインされたファサード。かっこいい。
コズミックで近未来的なデザイン。外壁と天井がリンクする。
夜は一気にドリーミーな空間に。照明とライティング完璧。
クロゼットもこのディティール。
ワークデスクの細かい部分まで行き届いたデザイン
キャッチーなカラーリングのタイルは、貼り方のルールが独特で一手間かけたこだわりが垣間見える。
レストラン。壁には円形のアートディティール。意匠的な役割。

本当に、「あるもの全てに理由がある」という印象。
空間の全スペースに、「なぜこれがここにあるのか」が考え尽くされていると感じた。

空間を作る際、予想外の事象が起きたり準備不足が発生し、オープン前にドタバタで既製品を買い足したりDIYで作ったりしてなんとか揃えたりする事がよくある。
ただこのホテルにはそんな背景は一切見当たらない。

レストランのインテリアも、隅から隅まで既製品と思わしき家具は見当たらず、全てがオリジナル。

壁のラグのようなアートワークも直接施工されている。

色に関しても素材に関しても、抜け感は無くバチバチなデザインの組み合わせ。
居住を考えたらもう少し馴染み深いデザインが良いのかも知れないが、1泊滞在のホテルだったらこういう刺激がある場所に泊まりたい。

どうしたら、どう生きてきたらこんなデザインが思いつくんだろう。
まさにデザインのディズニーランドみたいなホテルだった。

機能的であり意匠も美しい家具をベースにしているのはもちろん、「機能的な意味はないが、面白い物、美しい物」も所々に発見できる。
というか、その数が凄まじい。

この「機能を主体としない物への空間投資」には、短期的な利益回収は計算できない作り手の想いやこだわりが自ずと垣間見えてしまう。

もちろん、空間を良くすることで、中長期的には来客数が増えたり再訪に繋がり、ビジネスを後押しするという狙いが背景にあると思うが、数字で読み尽くせないからこそ、この意思決定はアートの領域になる。

デザイナーはもちろん、運営主体者や投資家全員が「面白いね」と合意出来なければ、VEという予算を削る工程で削ぎ落とされてしまうはずだ。

だからこそ、この大規模プロジェクトでここまで遊び心や意匠性に振り切った空間作りができることがすごいし羨ましいし、憧れる。

「意味はないけど、面白い物。」
良い空間にはこの存在が大事だとしみじみ感じるとてつもない空間だった。

(それにしても、このホテルはどういう意思決定のプロセスで作られるのだろうか。空間の全スペースに図面があってそれを判断する人がいるのか、デザイナーに全ての全権限が委ねられているのか。日本の意思決定プロセスでは作れない空間だと感じる。)

「意味はないけど、面白い物」の存在が空間に深みを与える

こんなことを考えながら、自分が好きなホテルを振り返って見ていると、「意味はないけど、面白い物」が数多く存在していた。

「意味はないけど、面白い物」は、機能的には必要が無い意匠や、感覚的な価値があるもの。アート等がわかりやすい。
レコードプレイヤーなんかも、機能面ではストリーミングを利用すれば良いだけなので、この概念に当てはまるだろう。

昔は、大規模プロジェクトじゃなくて小さいプレイヤーの空間が良いと思っていたが、The Standard Londonを見て、規模の大小は関係ないと気づいた。

意思決定者が少ない小規模プロジェクトの方が、意味がない物への投資はしやすい。「個人的に好き」な物の優先順位を一存で高められるからだ。

でも、大きなプロジェクトだからこそ、遊び心へ振り切ると決めたら、贅沢に作り込むことが出来る。

プロジェクトに関わるメンバー全員が一致団結して振り切ったときの空間は圧巻なはずで、それをThe Standardで感じた。
日本だと、K5に初めて泊まったときに同じ感想を抱いた。

思えば最近、「意味は無いけど、面白い物」を買わなくなっていた気がする。
昔はアートをよく買っていて、部屋にギャラリースペースみたいな場所があったが、最近全然買っていない。

それは物だけじゃなくて企画も同様で、自分達が何か企画するときに、短期的な利益だったり合理性を第一に考えすぎていたかも知れない。
クライアントワークのデザインにも、自分達が楽しい遊び心を入れるために粘るより、通りやすいデザイン案を作ってしまっていた。

それは会社が5年目になり、飲食店も3店舗を経営する中で、数字が読めるようになったからこそ、PL視点で物事を判断するようになった結果でもある。

お店を開いた当初は、右も左も全くわからなったから、「なんかこれ、良くね?」の観点で物を買ったり、選んだりしていた。
お店でやる企画も、利益目線というよりは、面白い事目線で打ち出していた気がする。

そんな観点で自分達が作った空間やアートワークを見直していたら、作った当時に込めた遊び心が改めてたくさん発見できた。

誰も気づかないだろう、自分達しかわからないギミックを詰め込んでいたり。
作るもの全てを、ちゃんと遊びながら、楽しみながら作っていた。
作り手が楽しんで作った空間は、やっぱり空間に介在する人達に伝わる。

だからこそ自分達の空間は支持されてきたと思うし、「機能的な意味はないけど、面白い物」を作ることは、今後も忘れてはいけない大事なこと。
短期的な利益やPLのダメージを考慮しても、重要視しなければいけないなと再認識した。

今年もGREEN ROOMやSUMMER SONICといった大規模フェスの装飾に携わることになり、今まさにチームでああだこうだ言いながら企画している。

この2つのフェスでは、工数やら合理性は一旦置いておいて、「意味わからないけど、なんかすごい楽しい空間だったね」と思ってもらえるアウトプットを目指していきたい。


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