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層構造の不思議『ジオサイコロジー: 聖地の層構造とこころの古層』(中沢 新一、河合 俊雄)

『ジオサイコロジー: 聖地の層構造とこころの古層』(中沢 新一、河合 俊雄)

ジオロジー(地質学)とサイコロジー(心理学)の融合によるジオサイコロジー。言葉はわかりやすいが、でもそこにどんなつながりがあるのか、というのは一見とてもわかりにくい。まだ、地理と心とか、歴史と心であれば、もう少しつながりを見出すこともできるのではと感じるけど、地質学と心理学がどうつながっているのか。僕はまだ河合俊雄氏の『心理療法家がみた日本のこころ:いま、「こころの古層」を探る』を読んでいないし、中沢新一氏の『アースダイバー』もまだ読みかけだけど、でも、基本的なことはまさに地質学的な発想がベースで、人のこころにも層があり、そして、それはまさに地質学ともつながりがあるということである。

そんなのタイトルを見ればわかると言われそうであるが、こういった一見全く関係ない学問の融合というのはとても面白い。そして、やはり非常に興味深いつながりが見つかるのである。これまで日本に限らず世界では、その専門分野を探究する形になっていって、他の専門分野にもついて学ぶ機会というのは、ある種その人次第で、たまにそういう色々な学問を横断する天才的な人はいるものの、なかなか専門分野を横断して、または掛け合わせて新しい学問をつくるという機会は少ないのではないだろうか。むしろ今の世の中はどんどん細分化、分裂が進んでいく中で、統合していく、専門分野を掛け合わせていく、共通点を見出していく、そういうことが大切なのではないかと感じる。それはもうおそらくその細分化していくことの限界というのが見えてきているからではないだろうか。その限界というのは結局、社会に反映されるかどうかというところもあり、あまりに細分化されたものは、もう社会の方にフィードバックされなくなってしまう。そうなると何のための学問だということになってくる。特に学問の世界にも損得が入り込んで、研究予算は儲かる方へと流れていく。日本は研究予算がそもそも少ない。そんな中で、より細分化していく方法に限界が来ているのではないだろうか。

しかし、西洋では個というものが強く、それも歴史的、宗教的な背景もある。また日本では西洋化されたと言われても、本質が変わったわけではない。河合俊雄氏は実際に臨床心理士としてクライアントと接し、また海外の研究者たちと情報を交換する中で、海外と日本人の違いに気がつく。それは日本にユング心理学を持ち帰り、臨床心理学を発展させた河合隼雄氏もそれに気がついていたが、それを河合俊雄氏は「こころの古層」と表現しているのが面白い。心にも層がある、なんてことは誰が考えたことだろうか。でも、そう考えてみると色々なことが辻褄があってくるというのだから面白い。そして、それは地質学ともつながっているのだと。人はこころだけでは生きてはいけないし、体というものと合わさっている。そして、その体があるのは、この世界であり、この大地であると考えれば、その大地から影響を受けないわけはない。考えてみると当たり前のことであるのであるが、それが科学的にわかってきているということが非常に興味深い。詳しい内容は本を読んでみていただければ、これは講演録のような形なのでとてもわかりやすく書かれているので、彼らがどういうことを見出したのかというのはわかるだろう。

個人的にはそれよりも、そういった学問の融合が非常に面白いと思うし、いままさに必要とされていることなのではないだろうか。中沢新一氏は、民俗学、宗教学、量子力学、心理学…とさまざまな学問に精通していて、それを統合するような形で、「レンマ学」というのを打ち立てようとしている。分断された叡智を今は統合し、アップデートすることが必要なのではないだろうか。それは素人の僕にはうまく言えないけど、間違いなく人はそれを求めているし、今の学問の限界をみんながどこかで感じているのではないかと思うのである。そんな学問の融合のきっかけとなる非常に面白い本なのではないかと思う。たまたま僕は今心理学について勉強していたので、この本に出会うことができたが、そもそもそれに興味を持ったということが何かを示唆しているのではないかと思うのである。そして、中沢新一氏の「レンマ学」なんてものに興味を持つようになったのもまさに時がきたという感じがするのである。これ以上は長くなるので、この辺で。

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