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もう大丈夫だよ『Dearママ』(吉川ひなの著)を読んで

「もう大丈夫だよ」

吉川ひなのさんの『Dearママ』を読んで浮かんできた言葉。彼女のライフストーリーをアルバムのようにめくっていくと、どうしても感情的になってしまう。もちろん、共感してくれたら嬉しいと彼女は言うかもしれないけれども、でも、彼女が本に書いているように、これは彼女と彼女の母親との出来事であって、それに対して慰めてほしいとも、極端な話、共感してほしいとも彼女は思ってはいないのではないだろうか。

それよりも、「もう大丈夫だよ」という彼女の心の声が聞こえる。誰に呼びかけているのか。彼女自身に呼びかけているのか、それとも、読者に呼びかけているのか。でも、その声はたしかに届いている。でも、「もう大丈夫だよ」というのは、「私は」もう大丈夫だよ、なのか、「あなたは」もう大丈夫だよ、なのかというのはわからない。きっとその両方なのだろう。私はあなたで、あなたは私。ありきたりな言葉かもしれないけれども、どこかでそれが起こっている。その時に彼女の(僕の)心の声が聞こえるのだ。重なるのだ。

そして、僕は彼女のような体験はしていないけれども、この本を読んでいると、それでも悲しみが共鳴してしまう。

そもそもわたしたちは、なんでセルフラブなんてことを意識しなくちゃ自分を大切にしたり優先したりできなくなってしまったんだろう

セルフラブというのはとても大切だけど、セルフラブという言葉を聞くたびにそのことを想う。悲しい気持ちになる。どうしてそこまでいってしまったのか。そうならない方法はなかったのだろうか、と。

「同調圧力」の章もそうだ。彼女の悲しみが伝わってくる。と言うよりも、自分の中で共鳴して鳴り響いてしまう。

自分に何が必要か。
深く考え、学び、全責任を負いながら選んで実践している自分の話をすることで無責任だと言われる社会はなんなのか
(中略)
 自分の責任の所在は曖昧にしながら、他人の無責任さを主張して、より人数が多い方の考え、いつの間にか一般的、常識と言われていること、そしてそれを選んでいる人が多いのだからそれこそが正義であるとでも言うような勢いで同調圧力という権力を振り翳している。
 わたしは批判もしたくない。できれば、今書いたことも、言いたくない。
 でも、言わなくちゃならない。
 それこそが社会を、わたしたちをがんじがらめにさせているのではないのか。
 人は人と違って当然。
 その違いを受け入れようとせず、世界に平和なんて訪れるのか。
 わたしは何かを否定したいわけでも、誰かを批判したいわけでもない。
 自分のことを言っただけ。
 その考えに辿り着くまで、自分なりに学び、考え、勇敢な心を磨き、全責任を負って自分の人生を生きている。
 愛する我が子に、一番いいと選んだことを信念と自信を持って提供している。
 それを、目に見えぬ誰かの責任まで背負わせてやめさせようとする世の中とは、なんなのか。
 こんな世界、わたしは悲しくて仕方がないです。
 だから誰も何も言わなくなってしまったんだと思う。

そう「誰も」批判したくない。
「誰も」言いたくもない。
でも、「誰か」が、言わなくちゃならない。
その「誰か」は自分じゃなくてもいいはず。でも、それを言うことが誠実であること、善いことであると感じたから、そう言ってしまう。言わざるを得ない。この葛藤と悲しみ。

でも、彼女はそれでも発言を続けると言う。

 誰かにとって「当たり前」でも、自分にとって「当たり前」じゃないならちゃんと発言して行きたい。
 自分と違う価値観を持っているからこそ魅力的な人たち、自分とは違う姿形をした動物たち、この地球上に暮らす生き物たちみんなが平和に暮らせる愛に溢れた幸せな世界を目指したい。
 そのためにできる一番簡単なことは、どんなに批判されたとしても自分の考えを発言していくことだと思ってる。
 同じ気持ちの人がいてくれたら、勇気を持って、頑張ろうね!

そのためにできることなんてみんな本当は言われなくてもわかっている。誰でもできることだともわかっている。だからこそできなくて、できない自分を責めてしまう。
でも、彼女のこの一言が、この言葉がきっと今まで言いたくても言えなくて、ただただ苦しんでいた人、悲しんでいた人たちに、勇気を与えてくれるのだ。

最後に、「わたしの役目」の章のこの言葉を取り上げて終わりにしたい。

 子どもたちが、小さかった頃のわたしを見せてくれる。
 ひとつひとつの結末が、今度は悲しみや寂しさではないように、わたしが欲しかったものを子どもたちに与えることで新しい次元を築いていく。悲しみはずっとは続かない。必ず終わらせる誰かが現れる。
 きっとわたしは、その役目を果たせるはずだ。

きっと終わらせられる。その役目を果たせる。
まだまだ子育ては続くし、人生いろいろあるだろうけど、
でも、「もう大丈夫だよ」

追伸

この最後の引用した言葉を聞いてより吉本ばななさんとの対談が楽しみになりました。とてもリスペクトしている二人の対談。どんなお話になるのか楽しみです!

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