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言葉のちから、言葉の不思議

『誰も知らないハワイ―25年暮らした楽園の素顔』ニック加藤

今週も哲学の本では『考える日々 全編』(池田晶子著)、引き続き『小林秀雄全作品』と古典小説『アンナ・カレーニナ』(トルストイ著)なんかを読んでいます。そして、今週もニック加藤氏の『誰も知らないハワイー25年暮らした楽園の素顔』を読みました。

ハワイのレジェンド、ニック加藤氏のフォト&エッセイですね。出版されたのは1998年ともう20年以上前になります。そして、その時にすでにニック加藤氏は25年間ハワイで暮らしているという。彼にとってはもうハワイでの生活が、人生の半分以上を過ごしたホームプレイスということでしょうか。そんな彼によるエッセイ。時には観光のこと。時には友人のこと。時には生活のこと。彼の人生というものを通して、過去のハワイをリアルに感じることができます。

今でこそ、ハワイと言えばリゾートアイランドのイメージですが、最初からそうであったわけではありません。当たり前のことですが、誰かが開発したから今のようなビルやホテルが立ち並ぶ都市となったのです。

彼の目を通して、その光景を眺める。僕が生まれた時にはもう東京は大都市になっており、それが当たり前でした。でも、彼の目を通した世界では、ハワイの都市化というのはすでにあったものではなく、自然を切り崩して都市をつくり、そして、そこへ観光客を呼び寄せるまでのその過程をみることができます。

僕が生まれ住んでいる北海道も地域によっては、大きく変わってしまったところもあります。まだリゾートと言えるほど観光の力も予算もなく、また人口も少ないので、その開発は一部の地域にとどまり、人口減少で逆に都市がこれからどんどんなくなっていくようなフェーズに突入しています。いつどうなるかというのはわかりませんし、もしかしたら沖縄のように一気に開発が進むこともあるのかもしれませんが、それでもまだ自然は残っています。

ハワイという小さな島での開発の歴史はきっとあっという間の出来事だったのでしょう。破壊されていく自然や歴史。それをみているのは辛いものです。でも、残すべきものは残すために努力し、そして、残せないものは心の中に記憶して大切に保管し続ける。もしかしたら、いつかまたその大切ものに気がつく人が現れるその時のために。

この本を観光ガイドブックとして読めば、もうほとんどのものがないかもしれません。でも、この本を読むことで、彼の目を通してたしかにその時の素敵なハワイを感じることができるのです。そして、きっといま現地に行ったならば、そこに住む人々が何を大切にしてきたかということがわかるのではないでしょうか。

「誰も知らないハワイ」というのは、それはいまはもうないものを愛しむことではなく、秘密の隠れ家を知ることではなく、そこにたしかにあったもの、たとえ目にみえなくても、それを感じること。歴史やそこに住む人々の生活を感じることなのではないでしょうか。

素敵な本をありがとうございます。僕たちはこうやって「誰も知らない」ハワイを旅することができるのです。

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