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『善の研究』西田幾多郎

善だろ。善。

今週は西田幾多郎『善の研究』を読みました。西田幾多郎(1870-1945)は、日本人の手による最初の哲学書と言われている『善の研究』の著者である。『善の研究』はもともと西田が30歳代の10年間を送った金沢の第四高等学校での講義の草案であったという。また京都学派(一般に西田幾多郎と田邊元および彼らに師事した哲学者たちが形成した哲学の学派のことを指す)の創始者であり、また、彼の哲学は「西田哲学」と呼ばれ、多くの哲学者たちに影響を与えた。

哲学を哲学史的に体系立てて学んだことはないのであるが、『善の研究』(1911)が書かれてから、100年ちょっと。まだ100年なのか、もう100年なのか・・・。なかなか日本では哲学というと学者が研究する小難しいものと捉えている人も多いのではないかと思うが、この『善の研究』はとても読みやすいので驚く。そもそも本が薄い! 多くの哲学書がまどろっこしい言葉で長々と書かれているイメージだが、この本は簡潔で、また読みやすい。

西洋哲学の本をそんなに読んだことはないので比較できないが、日本人が一から思索して積み上げたというだけでも、多くの西洋哲学の本よりも読みやすいというのはあるのかもしれない。僕の場合は、西田が影響を受けた禅に関するの本を読んだこともあり、禅にも興味があったので、西田の考え方に禅の要素が加わっていることも僕には読みやすい点になっているのかもしれない。逆に禅的な要素(思索方法など)が、かえって読みにくくしていると感じる人もいるだろう。

約2500年前にすでにソクラテス、プラトンなどによって、考えられてきたこの「善」。ソクラテスの言葉で言えば、「善く生きる」ということ。現代でもこの言葉に引っかかる人は多いのではないだろうか。一度は人生の中で誰もが躓いてしまう言葉かもしれない。別に、親や教師から「これは善」、「これは悪」という形で、いちいち全てのことについて善悪を教わったわけでもないし、裁判があるごとに、その結果をみんなで共有して、これは善、これは悪と確認しているわけでもない。でも、自分の中で、これは善いことだ、これは悪いことだ、というのははっきりと存在する。なぜだろうか? それは、自分の中にすでに善というものが存在するからではないだろうか。だから、それに対して、これは善い、これは悪いと感じることができる。

僕たちはいつでも善く生きたいと思っている。でも、社会通念(常識)、道徳は必ずしも自分にとって善ではない。この矛盾に苛まれる。それでも、僕たちは善く生きたいと思う。こんな時代だからこそ、善くありたい。それが善く生きるということなのかもしれない。きっとこのテーマは人間が生きている限り永遠に研究され続けるだろう。でも、すでに自分の中にあるということははっきりしている。では、どう生きるのか。さて、生きるとはどういうことか?

メタフィジカル・ジャーニーは続きます。

『善の研究』西田幾多郎

日本人の手による最初の哲学書と言われる『善の研究』。その著者は西田幾多郎(1870-1945)である。『善の研究』はもともと西田が三十歳代の10年間を送った金沢の第四高等学校での講義の草案であったという。それがまとめられて一冊の本として出版されるに至ったという経緯があり、その成り立ちも面白い。その当時の学生たちはどのような気持ちでこの文章を読んでいたのだろうか。

哲学と言えば、西洋哲学を意味するような時代に、日本人による日本生まれの哲学をつくることはとても大変なことであったろう。しかし、多くの日本人に望まれていたのではないだろうか。世界の端にある小さな島国。多様な文化が流れてくる中で、そして、単一民族というまた不思議な歴史を辿る中で、日本独自の文化に沿った哲学というのは、必要だったのではないだろうかと思うのである。

そして、それが求めらていたからこそ、今もこの本は読み続けられているのではないだろうか。ところどころ仏教に関する言葉も出てきており、より日本人の思索にあったものになっているのではないだろうか。また、高校の同級生であったという、鈴木大拙の影響により自身も禅に打ち込んでいた経緯もあり、その考え方、価値観も反映されているのではないだろうか。

西田の考え方を読み解くヒントに、「純粋経験」という言葉があるが、僕が面白いなと感じたのは、一番最後にある「知と愛」の部分なので、西田の言葉を引用しながら、そのことに触れたいと思う。

愛するということ、愛ということについては、西田はこう語る。

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