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忘れられない生徒たち 〜親の期待に応えたかったK君の悲劇

こんにちは。
元大手進学塾トップクラス担当講師で、現在はニュージーランド在住の受験&国際教育コンサルタントのTakuです。

これまでの30年にわたる指導の中には、
決して忘れることのできない生徒がいます。

今日はその中で「親の期待時応えようと頑張った」K君が、
受験を通して味わった悲しみと苦しみについて、
ご紹介してみたいと思います。

出身教室の期待を一身に

私がK君に出会ったのはある年の、
受験学年のトップクラスででした。

その年に私が担当していたのは、
地域の拠点だった大教室のトップクラスで、
周囲の教室から優秀な生徒が集められていました。

K君はそんな地方教室からやってきた1人で、
移動元の教室の期待を一身に集めていました。

快活な性格で成績も優秀。
真面目に課題に取り組んで理解力も高く、
御三家中に合格する可能性も高い。

元の教室からの引き継ぎ書には、
元担当教師だけでなく教室長からも、
期待溢れる推薦文が添えられていました。

そんな彼の第一印象は、
「真面目で従順な優等生」。

でもそんな彼の授業姿勢を見て、
私は何となく嫌な予感がしました。

そしてそれは残念ながら、的中してしまいました。

トップクラスでの挫折

私の中に浮かんだ嫌な予感は、
彼のその真面目で従順な学習姿勢でした。

ちょっと意地悪な言い方をするならば、
「言うことを聞くだけ」の生徒に見えたのです。

つまり言われたことはしっかりこなせるけれど、
それ以上は自分でできない「受け身の生徒」。

これはトップクラスに長く在籍している生徒が、
当たり前にできる「自主的な学習」姿勢が、
身についていないことを意味していました。

また彼は元の教室ではぶっちぎりトップで、
周囲から常に注目を受ける立場だったので、
自分より優秀な生徒との戦いに慣れていませんでした。

そのため厳しい環境での競争慣れしておらず、
メンタル的には強くはなかったのです。

そんな彼はトップクラスでの授業を受けるようになってから、
徐々に成績が下がり始めました。

彼は必死に努力を重ねましたが、
成績の下落に歯止めはかかりません。

その理由はトップクラスの授業が、
彼がいた教室の授業とは本質的に、
異なっていたからだと思います。

通常のクラスは基礎レベルから丁寧に説明し、
テストが近づくとポイントをまとめたりして、
スコアアップの対策をしてくれます。

しかしトップクラスは以上のことは、
基本的に個人に任されていて、
授業ではトップ校にフォーカスした内容がメイン。

つまり塾の定期的なテスト対策は自己責任で、
それが自分でできることが前提で、
トップ校対策が行われていたのです。

こうなると言われたことだけやっていたK君が、
混乱するのは仕方がないことです。

授業中の彼の態度はどんどん落ち込んでいき、
途中から発言もほとんどせず、
俯いてノートを取るだけになっていきました。

その結果は予想した通り。

すぐに偏差値急落という形で現れ、
トップクラス昇格からまもなく、
クラス変更対象者にリストアップされました。

優秀な親の期待

明らかにクラスのミスマッチでしたし、
このままでは彼自身がつぶれてしまうと思ったので、
教室責任者とも相談して彼の親に伝えました。

しかし彼の父親は私のこの提案に、
激しく抗議をしてきました。

これまでうちの子はいい成績だったのに、
それが下がったのはお前たちの指導が悪いからだ。

それにまだクラスが上がったばかりで、
授業に慣れていなかったこともあったはずなのに、
すぐに降格とは納得いかない。

そう抗議してきた父親は超高学歴のエリートで、
自分の息子の能力に絶対の自信があったのでしょう。

いくら授業中の彼の様子を話しても、
一向に聞く耳を持ちませんでした。

結局もう一回だけ様子を見ることになり、
彼のクラス変更は見送られました。

彼の暗い様子はずっと変わらずでしたが、
成績の下降は一旦収まり、
上がらないまでもギリギリクラス基準をキープ。

私たちも基準を満たしている以上、
クラス変更を強要できないので、
彼の在籍はしばらく続きました。

しかし過去問演習を始めた秋口以降になって、
彼の成績維持の秘密が明らかになりました。

それは父親が彼に、
4名の家庭教師(各教科1名ずつ)をつけて、
塾のテスト対策をしていたのです。

塾のテストは途中までは各科目に範囲があるので、
その範囲をしっかり対策すれば、
ある程度の程度の成績は取れるものです。

しかし過去問とも慣れば範囲がなくなり、
つけ刃的な対策は通用しなくなります。

彼の学習方法ではトップ校の過去問には、
悲しいくらい通用しないことが、
この段階で改めて明らかになったのです。

そこで保護者面談の時そのことを告げると、
彼の父親はまた激怒しました。

うちは両親とも名門大学出身で、
子供もそうなるのが当然だと思っているのだから、
トップ校以外に行かせる選択肢はない。

トップ校に合格させるために、
お前たちにお金を払っているのだから、
どうやったら合格できるかを教えろ。

まぁ高学歴保護者のあるあるパターンですが、
自分ができる=子供もできて当然という、
かなり歪んだ発想を地で行く方でした。

そしてK君はその期待になんとか応えたいと、
心から願ってしまうような優しい子だったのです。

失われた自分

K君は文字通り死に物狂いで学習をしました。

単科も含めて週4回の通塾に加えて、
週3回の家庭教師とのレッスン。

1日も休みなく学習し続けていたせいか、
塾では疲れて眠ってしまうことも。

それでも塾の宿題は全てこなし、
黙々と学習を続けながら入試を迎えました。

しかしそんな彼を待っていたのは、
私たちですら想像できない結果でした。

トップ校を受験する生徒は大抵、
地域の人気校レベルを滑り止めとして、
まずは練習も兼ねて受験していきます。

そしてその滑り止め校の結果を見て、
2月1日を本命校で行くのか次善校で行くのか、
判断することが多いものです。

通常トップ校受験生はこうした滑り止め校は、
全て問題なく合格を勝ち取りますが、
K君は一番入りやすい学校以外全滅だったのです。

もちろん同じクラスの他の生徒は全員、
全て合格していました。

この状況では次善校すら危うかったのですが、
父親はトップ校受験以外はあり得ないと、
2月1日の本命校受験を強行しました。

その結果はもちろん、不合格でした。

彼が得たものは?

受験が終わった後、
彼は父親と一緒に塾に挨拶にきました。

私たちの顔を見た彼は、
目にたくさんの涙を抱えながら、
こう絞り出すように私に言いました。

僕がバカだったから、
先生のクラスで教えてもらったのに、
みんなみたいに合格できなくてごめんなさい。

そう言って頭を下げたK君を見て、
私は返す言葉を失いました。

この受験でK君が得たもの、
それは挫折感・無力感・自己否定感でしょう。


こんなものを手にするために、
彼は1年間歯を食いしばって頑張ってきた。

あり得ない。
その言葉以外、私には思いつきませんでした。

この年の私はクラスの女子全員が御三家に合格し、
クラスの男子も大半がトップ校に受かっていました。

でもそんな喜びなどK君のこの言葉で、
全て吹き飛んでしまいました。

自分は一体なんのために塾講師をしているんだろう。
受験って本当に子供を幸せにするのか?

自分の生き方そのものを再考られた、
そんな出来事だったように思います。

まとめ

さて、いかがだったでしょうか。

長年受験を指導してくると、
たくさんのストーリーを目撃します。

そしてその中には今回のような、
目を背けたくなるようなものも存在します。

こんな例はレアケースだと、
一笑に付すのは誰にでもできることです。

でも忘れてはいけないのは、
こうした悲劇が我が子にも起こる可能性は、
常に存在しているということです。

そしてその悲劇がもし我が子を襲った時、
取り返しがつかない結果を招くこともあることは、
親として決して忘れないでいたいものですね。

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