そもそも存在しなかった美しい青春は取り戻せない ー塩素臭い汗が洗い流した青春コンプレックスー 1
青春を取り戻したい。若い頃できなかったことやり直したい。
と話しかけてきた同僚の女性は、その後、僕に対して業務以外の話をしなくなった。彼女は連休後におみやげだと同じ部署の人達に配っていた生八つ橋は僕のところにだけまわってこなかった。
当時まだ独身で自分の正しさを主張するのに一生懸命だった僕は彼女を追い詰めまくったのだ。
「いい年して何をマヌケなことを言ってんだ。その取り戻したい青春って何?まずそこ具体的にしろ。青春じゃわかんねーよ。でさあ、できなかったことて何?そもそも若いときに、行動にうつせなくてできなかったくせして、取り戻すもクソもねーよな。取り戻せるのは持っていたものだけ。もともと持ってなかったものは取り戻すって言わねえんだよ。
ていうか、今、目の前の仕事やらなんやらをほんとに頑張ってたら、そんな昔のことどうでもいいはずじゃん。ちょっと余裕かましてんじゃねえか。」
ちょっと一服の時間に、自販機の前のベンチでたまたま私とふたりになり、黙っているのも気まずいので、おそらく彼女は気を遣ってちょっとした話題を提供してくれてただけ。そんなニュアンスも読み取れずに、僕は正しい理屈でガンガン彼女を追い詰めた。
彼女にとってみたらなんで休憩中になんでそこまで言われなくちゃいけないのかとよくわからない状況だっただろう。
今となっては僕が間違っていたことがよく分かる。距離を縮めたいんだったら彼女が話をするのをただ聞いて理解すればよかったはず。でも、反射的に女子に対してもっともらしい正論で打ち負かして嫌われるという激しく間違ったことをしてしまった。やっている時点でそれが間違ってると自分で気がつけなかった。
本当は彼女にお近づきになりたいのについいじめてしまうという僕の態度はほとんど小学生。
十代の頃の記憶は一瞬でも思い出すと恥ずかしすぎて死にそうになるので封印して抑え込んでいた。それが、思わぬところで突然刺激された。その時点で僕は理性を失い、正しさで人を攻撃し始めた。
なぜ自分がそうなっていたのか、今ならよく分かる。
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