『両利きの経営』から考えたオーナー企業の強さ

ひとつ前の記事でオライリー教授・タッシュマン教授著の『両利きの経営』についてまとめた。ここでは、それを実際のビジネス世界に当てはめて考えてみたいと思う。


両利きの経営に向いた組織の姿

物事を極めることが得意な日本社会においては、知の深化が歴史的にも強みである。そんな日本型組織が今後も生き残っていくためには、知の探索も併せて行っていく必要性が同書から読み取れる。

知の探索を上手く取り入れることができる組織とはどのようなものか。それは、オーナー企業ではないかと思うのだ。私が今勤めている企業は、創業家が社長を務める典型的なオーナー企業である。そんな実経験をもとに両利きの経営理論を深掘ってみたい。

知の探索を行うには、(1)従来からある知の深化型グループとは分離された新しいグループを作ること、そして(2)トップ直轄で知の探索を行うグループを後押しし、(3)長期的な視点で結果を追うことが重要である。この3点すべてを実現しやすいのがオーナー企業の特徴である。

(1)新組織の設立には、しばしば困難が伴う。ほとんどが人やカネなどのリソースの問題だ。誰を新組織にアサインするのか、予算はどの程度か、など。そんな困難も簡単に乗り越えられるのがオーナー企業なのだ。オーナー企業では決定さえしてしまえば、物事のスピードの速さは尋常ではない。極端に言えば、昨日まで社内で無理と思われていたことでも、決定さえされれば明日にでも実現できてしまう。要は、組織内のほとんどの物事は組織を構成する人々の意識の問題なのだ。

したがって、組織の設立などという大掛かりな仕事も右向け右で全員が取り組むので、あっという間に実現してしまう。

(2)トップ直轄に置くべき理由は、何もしないでいると知の探索という分野は既存部門に潰されるリスクが大きいからだ。オーナー企業においてトップ直轄にある部門を置くということは、ある意味で社内の最重要課題であることを意味する。つまりトップ直轄の組織にすることで、他部門のメンバーたちも会社としてどの方向に向いているかということが理解しやすく、結果が出ていないからというだけで、潰されるリスクは格段に減る。

(3)中でも最も大きなメリットが長期的な視点で物事を考えられるという点だ。上場会社との大きな違いは、たとえ業績が良くない(結果が出ていない)としても会社として存続できる限りは誰にも文句を言われないことだと思う。つまり、短期では結果が出ないとしても長期的に価値があると思われることは気長に実行することができるのである。上場会社では、そうはいかない。社長・役員の任期が決まっているので何としても数年で結果を出す必要がある。長期的に大事と思っていても後回しにしてしまうのが人の性ではないだろうか。

以上から、両利きの経営を実践できる組織とは、オーナー企業のような組織形態であると考えている。

オーナー企業でもうまくいかない場合とは

オーナー企業でもうまく機能しない場合がある。これは私の経験上から考える課題だ。一つ目は、知の探索を行うグループに実力がないこと。二つ目が組織全体に変革への危機感がないことである。

実力がないとは、知の探索を行う能力がないということ。同著で解説をしている富山和彦氏の言葉を借りれば、野球選手にサッカーをさせようとしている状態である。しかもチャンピオンズリーグに参加しようとしている。つまり、社内のリソースだけで補えると簡単に考えず、必要であれば社外からもタレントを連れてくるぐらいの意識が必要なのだ。

そして、変革への意識がないというのは、既存事業を担うメンバーたちがあまりにも変革・知の探索に無関心ということである。これでは、一つの組織体としてモチベーションを大きく欠いてしまう。

組織の意思統一が比較的容易なオーナー企業でさえ、フォロワーシップの力がなければ両利きの経営を実践することはできないのだ。

両利きの経営の難しさ

ここまで両利きの経営を実践しやすい組織体の典型例がオーナー企業であること、そしてオーナー企業であってもフォロワーの力がなければ成功に導くことが難しいことをまとめた。

この難しさゆえに多くの企業が実践に苦悩しているのであり、逆にこれを乗り越えられる企業は次の時代へ生き残ることができるのであろう。両利きの経営が注目を浴びる理由がよく分かる。



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