『両利きの経営』についてまとめ

スタンフォード大学のジェームズ・マーチ教授が発表した論文『Exploration and Exploitation in Organizational Learning』で発表した知の探索と深化という考え方がもとになっている。この概念を実務に適用する形で研究を続けたチャールズ・オライリー教授とマイケル・タッシュマン教授が書き上げたのが本書である。

ざっくりとまとめると、「企業がイノベーションを起こして生存をしていくためには、既存事業の深堀だけでなく、新しい分野を開拓することが大事」という考えを前提として、その2つを実践していく(日本においては特に新分野の開拓)には、どうすれば良いかについて提言をしてくれている。

まず、この理論が前提としている "企業が生存するためには新しい分野の開拓が必要" という考えはどこから来るのだろうか。それは、クレイトン・クリステンセン教授著の『イノベーションのジレンマ』が土台となっている。この中で大企業が新興企業によって淘汰されていく現象を挙げて、企業の規模に関わらずイノベーションによる事業開発が重要であることを訴えている。

そのため『両利きの経営』を読むにあたっては、『イノベーションのジレンマ』に書かれているイノベーションの影響力について認識しておいた方が理解しやすくなるはずだ。

両利きの経営が活かされるのは、特に既存事業ですでに成果を出している企業である。そういった企業は、知の深化が非常に得意で日々の研究開発や改善を通して、結果を出してきた。しかし、知の探索という点に絞ると弱点が並ぶ。そもそも知の探索においては、今までの常識をすべて捨て去り、ゼロベースでの思考法が要求されるためだ。すでに結果を出している組織にとってその常識やルールを捨てるということは、不可能に近い。そして、結果の出方の違いである。知の深化における分野では、線形グラフ的な結果が前提とされているため、日々何かしらの結果を出し続けることが求められる。結果がなければ成長していないことと同義と考えられている。

一方で、知の探索における分野では毎日何かしらの結果を出すことは期待できない。結果がでない時期が長く続き、ある時突然何倍もの結果として出現するのである。いわば、対数グラフに近い形が前提とされる。

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そもそもの前提とされる結果の出方が異なるため、知の深化型組織が知の探索型へ移ろうとするのは至難の業なのだ。

そのための処方箋として、『両利きの経営』では、知の探索を行うためには、評価軸が全く異なる新しい組織を作ることを提言している。深化と探索をそれぞれ別のグループが担いながら、会社という組織全体を成長させていくのである。そして、組織を分けただけではうまくいかない。なぜか。知の深化型が優位な組織では、知の探索型グループを作ったとしてもパワーバランスによって潰されてしまうからである。その点まで踏み込んだ提言をしていることに、この著書の有用性があると言える。

両利きの組織を実現するためには、知の探索のためにトップのテコ入れが欠かせないのだ。先ほど述べたように、知の探索型はすぐには結果が出ない。そして、往々にして失敗もする。そんなときに長期的視点を持って継続させるにはトツプ肝いりのプロジェクトとして力強く推し進めることなのだ。それがなければ、知の深化型グループによってすぐに潰されてしまうのだ。

両利きの経営とは、まさに人の利き腕と同じように苦手な腕を意識的に使うような「トレーニング」が必要であることを意味している。



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