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書評:プロフェッショナル・ネゴシエーターの頭の中

本書の概要と著者

交渉術の本のメイン読者はビジネスパーソンだと思われるにもかかわらず、日本人のビジネス交渉の本当のプロが書いた交渉術の本があまり見当たらないのです。

はじめに より

この本を書かれた藤井一郎さんは大手総合商社に入社後、米国MBAを取得し、M&Aの仲介・アドバイザリー業界で経験を積んできたというキャリアの持ち主。ビジネス界のプロフェッショナル・ネゴシエーターです。著者自身も交渉術の勉強をしていく中で、このことに気がついたそうです。

私も交渉術の本をたくさん読んできましたが、確かに学者や弁護士の方が書いた書籍がほとんどでした。本書は、我々ビジネスパーソンのために、ビジネスの交渉のノウハウを伝えようと著者が書き上げてくれたありがたい一冊です。

著者の経験から、主にM&Aの交渉場面が想定されながら、売り手、買い手、仲介者という目線から、交渉スキルの意義、交渉の定義、交渉のテクニック、心理的側面などが解説されています。セールス・調達を担当されている方、仲介業の方といった売買の現場に立っている方には特におすすめです。

ここでは、その中でどんな交渉の場面にでも共通する3つのポイントについてご紹介します。価格交渉のノウハウを知りたい方は本書を手にとってみてください。

交渉力の7つの源泉

交渉力とは、わかりやすくいうと、強気で交渉できること、つまり、譲歩する必要がない状態(少なくとも、そのように交渉相手に思わせる)のことです。

第1章 「交渉」を知らなければビジネス界では生きていけない より

著者は、交渉力についてこのように定義付けています。数々の交渉を経験した人にしか辿りつけない、とてもシビアでリアルな定義だとわかります。そして、その交渉力の源泉となるものが以下の7つの要素だと書かれています。

①合意したいと思う温度差(惚れたほうが弱い)
②他の選択肢(結婚相手はひとりに絞るな)
③時間(結婚を焦ってはダメ)
④情報(本当に彼女(彼氏)のこと理解している?)
⑤演技力(ウソはダメだが、思わぶりはOK)
⑥客観的情報(親や友達はなんて言っている?)
⑦人間力(最後は男(女)の魅力)

第1章 「交渉」を知らなければビジネス界では生きていけない より

恋愛に例えられているところが面白いですね。惚れたほうが弱い、というのは誰もが納得のいく要素ではないでしょうか。その他の要素も、これを持っていれば譲歩する必要がないと感じられるものばかり。交渉に臨む前の準備段階で、この7要素をチェックしておくと、より良い交渉の戦術を立てられるのでないでしょうか。

よい交渉の2つの要素とは?

著者は、良い交渉には二つの要素があると言っています。一つ目は、交渉プロセスの中でお互いの信頼関係が醸成されること、二つ目は、交渉で取り決めた合意(約束)事項が問題なく履行されること、としています。

今回の交渉が決裂で終わってしまったとしても、別の機会で一緒に仕事をしたいな、と思う得るような信頼関係を構築できることをよい交渉と言える。逆に、合意したとしても不信感が大きいと、二つ目の要素が満たされない可能性を示唆しています。

「詰めが甘い」取り決めや「問題を先送りにする」交渉も履行プロセスのなかでトラブルが生じる原因

第2章 信頼ベースの交渉術 より

交渉の際に、全ての論点について議論できているかとあうこと、そして、クロージングの重要性がよくわかる一言です。業務提携などの案件では、合意案が実現可能なことはもちろんのこと提携がうまいくった時の利益配分だけはなく、失敗してしまった時の損失配分の部分まで、先送りにせず取り決めておくことが重要だということです。

成功することを前提に交渉を進めてしまいそうになることが、皆さんの経験でもあるのではないでしょうか。二つ目の要素、忘れないようにしたいです。

交渉術から交渉道へ

著者は、若い頃格闘家だったこともあり、柔術を柔道に発展させた例を取り上げ、交渉「術」というテクニック・勝ち負け・当事者の利益の追求という観点から、交渉「道」という精神(自他共栄や社会的価値の創出)に発展させることが大切だと唱えています。

私も交渉術の講座をする際に、テクニックに偏ることなく交渉人としてのマインドセットはとても大切だということを最初に伝えるようにしています。とても共感できるところでした。

「心技体」という言葉の通り、技を使うには心も成長しなければならないということです。

まとめ

ビジネスのプロフェッショナル・ネゴシエーターらしい、シビアな内容をしっかりお伝えしてくれています。一方で、人間的魅力や道という言葉が出てくるなど、術を使う人間の誠実さが大切だと改めて教えてくれるものでした。
私を含め、ビジネスパーソンの交渉道を指し示してくれる一冊だと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからも交渉やコミュニケーションに関わる本の紹介をしてきます。
スキ・フォローなどしてもらえると嬉しいです。

ではまた。

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