熱素の満ちる透明で原始的な部屋

『子供の時から雲を見るのが好きだった私は空に対していつ頃からか酷くノスタルジーを覚えるようになっていた。子供の頃の私にとっては、さながら彼らは浮かび上がる一つの城趾であり、巨象、鯨、亀、はたまた龍、しかも虚ろである。時にグロテスクな事象を引き起こす者共は、神話の事物に等しい、圧倒的な存在で、しかし現実感が希薄だった。

空を見上げなくなったのはいつだろうか。箱の中に囚われた猿には所詮過ぎたスケールの物であって目を合わせられなくなったのか、それとも彼らと触れあうことが単純に少なくなったのか、確信を以て答えることは能わない。けれども見上げなくなり、そして分断された、それだけは紛うことなき、事実だ。

夏の空とは感情の波間。開放的でありながらも一度狂えば畏れをもたらし、人間の弱さを自覚させる物だ。せり上がった雲はまるで騎士の住まう城であり、荘厳にたちそびえながらも睨みあっている。』

ここまで書いて、私は空のような無垢な物にまで争いを見出す愚かしさを思い知り、原稿用紙を破り捨てた。紙片はどこかへ飛んでいった。それらはまるで都市に見える浮雲のようだった。

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