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東北大学教育学部の挑戦

 今回は東北大学教育学部の挑戦とその結末について述べます。

新制東北大学教育学部の設立 

 旧制師範学校を合併した唯一の旧制帝国大学が東北大学です。東北大学では、旧制の法文学部にあった教育学講座と宮城師範学校、宮城青年師範学校を合併して教育学部を設立します。

 これは、旧制大学が主体となった他の新制大学でもあった話です。ところが、主体が旧制東北帝国大学であった事が、その後教育学部に不幸な結果をもたらすことになります。

旧制帝国大学の越えられない壁

 合併する段階で、師範学校が旧制専門学校程度であった事から、同じく合併された旧制第二高等学校と同様の教養教育の分校とされ、基本的に前期2年間の教育を担当して、後期2年間の専門教育については、所属は教育学部のままで、文学部や理学部などの専門学部での履修によって賄われる事になりました。

 この事は、新制大学で想定された、教員養成を大学レベルでの教育によって行うという原則としては、理想的な形でした。実際に、高いレベルでの教育実践の研究がなされていた事が当時の資料から分かっています。このまま成功していれば、新制大学での教員養成のモデルとなっていたと思われます。

 しかし、旧制帝国大学から続く、教授を頂点としたピラミッド型の講座制である本校に対して、専門学部に講座がない実技系の教科については、教育のみを担当する教員が置かれる学科目制である分校で、後期の2年間もそのまま行われるという、専門教育への移行後も分校と本校の2分された状態が続きます。

 また、当初教育学部が予定していた、学部全体を講座制へ移行する事が難しくなり、教育学部には講座制学科目制が並列する事になります。

 教員養成の分校は学科目制で教育学研究の本校は講座制という、当時の文部行政上の越えられない壁が、同じ学部内に出来る事になり、同じ学部でありながら、教員間の人事や予算などでの格差を生む事になります。

分校の反乱

 新制大学の東北大学教育学部では、以前の師範学校時代と比べて、宮城県以外で教員になる学生が増えて、地元の宮城県の教育界からは地元軽視との不満の声が出てきました。

 また、特に小学校教員の養成に関しては、本校と分校の間の役割分担が次第に曖昧になります。それは、教育学部の専門教育を担当する教員の増加分を分校が引き受ける事で、専門学部のある本校での履修ではなく、分校で専門教育を履修する学生が、小学校教員の養成部門を中心に増加する様になって来たからです。分校が実質的に教員養成学部化して来たのです。

 分校の教員養成学部化の現状と、本校より学科目制であることから格下とされた分校の教員の不満、地元教育界の不満という様々な要因の結果として、分校の独立大学化が画策されることになります。分校の反乱です。

 全国の大学でも、教養教育を基本とした学芸大学・学芸学部を、教員養成目的化する事で、教育大学・教育学部へ名称変更するという、文教政策の転換が行われていましたが、この動きと連動して、独立大学化の動きが加速する事になります。

 学内での議論も、伯仲しながらも次第に独立容認に傾き、昭和40年に、東北大学教育学部の分校であった教員養成部門は、宮城教育大学として独立を果たし、ここで、研究教育と教員養成の融合という、東北大学教育学部の実験は潰える事となります。

宮城教育大学の未来

 独立後も、東北大学時代の教員と学生を繋ぐゼミを重視するなどの、独特の教育方法は一部引き継がれましたが、年々他の教員養成大学・学部と同一のカリキュラムに変更され、現在は、東北大学時代の特徴は弱くなっています。

 宮城県の教育界への人材供給の点では、地元重視の方向に転換したので、良い面もありました。しかし、現在国立大学法人化による民営化により、教員養成大学がどこも苦境に陥っている実情から考えると、果たして独立が良かったのか疑問も残ります。

 東北の教員養成の中核として独立して生き残る方法もあるかと思いますが、場合によっては、東北大学の法人に再統合する可能性も否定できません。他地区で一つの国立大学法人が複数の大学を持つケースが増加して来ているので、宮城教育大学も大学はそのままで、法人は東北大学の法人の傘下に入るというのはありえる話かと思います。そうなれば、過去の教育実践の研究の様な、優れた共同研究が復活するかもしれません。

 一度は分かれた関係ですので、再統合への方向には向かいにくいのは当然ありますが、国立大学全体の現状から考えると、同一法人化により、教員養成の機能を強化する方法も、選択肢として考えても良いのではないでしょうか。

 今後再統合の議論が、過去の因縁から脱却して行われる様になり、将来的に研究教育と教員養成の融合が再び成されて、優れた研究事例が出てくる事を期待しています。


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