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北海道大学教養課程の試行錯誤 後編

前回は

実際の教養課程の実態

 初期においては、全学での協力とはいえ、実際には文系学部全部と理学部が責任を持つ事になり、それでも足りなかった講義は、学外の非常勤講師に頼っていました。理想が高かっただけに、現実の厳しさに唖然とさせられます。他の専門学部はそれほど協力的ではなかった様です。教員も設備も整備されないまま設置された教養課程は、理想とはかけ離れたものだったのでしょう。

事実上の教養部

 その後、年月をかけて徐々に教員や設備の整備が行われますが、それに従って、責任学部がありながらも、教養課程は実質的には他大学の教養部の様な体制に変化していきます。特に、学生運動が華やかだった昭和40年代を境に、分かれて所属していた教養課程担当教員が集まって、独立した学部を設立する方向の議論も起こっています。「北大方式」と言われた独特の方法も、講座と学科目の問題などに代表される、国立大学故の硬直化した制度の壁に阻まれて、内部では色々な問題があったのでしょう。

現在の教養教育

 大学設置基準の大綱化をきっかけに、今までの硬直化した制度が柔軟化したのに合わせて、北海道大学では全学の教育体制の刷新を行ないます。

 先ずは、入学試験での東京大学の様な教養での一括した募集から、他の大学と同様な学部別の募集に改めます。同時に、実質的に他の大学の教養部の様になっていた教養課程を一度解体して、新しい北大方式という方法へと転換します。

「進化するコアカリキュラム」のサイトでは以下の様に説明されています。

1995年の学部一貫教育の採用以後も、「教養教育・基礎教育の重視」「全学協力」「最良の専門家による最良の非専門教育」という方針は堅持されました。
 新しい北大方式は、教養教官団の解消のあと、教養教育・基礎教育を、教養部という組織によらず、もっぱら理念とシステムの力で維持・発展させることを目指して構想されました。 
 新しい北大方式の特色は、全学教育部を中心とした責任部局と全学協力による教育実施体制と、研究部によるFD・教授法開発・教育評価などの活動の、効果的な連携にあります。

 抽象的で分かりにくい説明ですが、理念先行で、実質が伴っていなかった全学における教養教育を、学部一貫で教養・専門教育を行なう事で実質化する方向にへと、取り合えず舵を切りました。

 そして、学部一貫での教養・専門教育の試行を行ないましたが、10年程の教育効果の結果、やはり、一度集中して教養教育を行なった方が良いとの結論に達した様です。現在の教育体制は以下の様にサイトで説明されています。

北海道大学の学生は、入学後の1年次を中心に、大学全体で協力して企画・実施する「全学教育」を受けます。専門教育が本格的にはじまる前のこの時期に、北海道大学ならではの特色ある教育を行おうと考えられたのが、「進化するコアカリキュラム」です。

 平成23年度からは、1年次は総合教育部に全学の学生を所属させ、2年次以降は専門学部で教育する方向へと再度変更しました。この制度の導入と同時に、総合入試という、以前の入試方法と同様の、教養レベルでの一括募集を一部で復活させています。

 最初から理念先行だった「北大方式」の教養教育ですが、長年の試行錯誤の末、やっと実態が伴ったものへと進化しつつあるようです。正に進化するカリキュラムです。

 大学院に研究教育が重点化されているので、大学院が拡大しているのに対して、学部自体には増設などの変化がない北海道大学ですが、今後も教養教育を中心に、内部で変化を続けていくものと思われます。

 クラーク博士の「青年よ大志を抱け」でも有名な札幌農学校を起源としているので、教養あっての専門の姿勢は、百年以上たった今でも、脈々と受け継がれていくのでしょう。

 


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