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全部、僕のせいだ

 月曜日。

最も憂鬱な日。

つらいドイツ語の授業がある日だ。


まずは点呼。

最悪なことに、私の名前は最初に呼ばれる。


「○○さん」


喉に力を入れる。

しかし、筋肉が完全に硬直している。


またダメか…


「○○さん?」


諦めて、さっと手を挙げる。


「はいはい、いるね。」


 
 二週間ほど前に、発表や発言を求める授業の先生にメールを送ったけど、この先生も気づいてないのかな。


その日は3、4回当てられた。

宿題の答え合わせの日だったのだ。

最初は語順と日本語訳を答える問題。

「○○さん」

これまで声は出せても誰にも聞こえていないということばっかりだったから、怖くて1文字も言えない。

もう、半分、諦めていた。


2巡目。

「○○さん」

また何も言えない。

私なんか、早く飛ばして。

と思っていたら、

「ああ、君は当てたらダメなのか。」

と言われ、飛ばしてもらえた。

どうやら、その先生は私が送ったメールのことを思い出してくれたようだ。


授業後、先生に呼ばれて教卓に向かう。



「どうしたらいいの?当てるなっていうなら当てないし。」

「どうして欲しいの?君のことを誰からも何も聞いてないからわからないんだけど?」

と、困っているのか、怒っているのか分からない声で言われる。

教室には数人の学生がまだ残っている。

皆、こちらをチラチラ見ている。

前から3列目に座っていた女子が、異物を見るかのようにギラギラした目でこちらを見ているのが目の端に映る。

先生に問い詰められるのは仕方のないことだし、私がやんわりではなくもっとはっきりこうして欲しいと書けば良かっただけのことだ。

でも、もう少し小声で話すとかして欲しかったなとは思う。


ああいう目を見ると、私はニンゲンではないのだなと改めて思い知らされるのだ。



誰もが、異物を見つけて自分の愚かさを慰めている。


私がジョウジンになれるのは、犯罪者に対してくらいなのではないか。





 


ちょっと見られたくらいでこんなことまで考えだしちゃうからダメなんだろうな。





つづきはまた別の記事に書きます。




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