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優しく広がる波紋

老人ホームでの楽しいエピソードを綴っています。


以前書いたガラケーさん(身体が二つに折れ曲がっているのでそう呼んでいる)が、耳に謎の変換装置を付けた。


ガラケーさんの記事はこちら
(2分もあれば読めます)


その謎の変換装置というのは、ある言葉を入れると全然違った言葉になって帰ってくるというもので、お金を入れてカプセルを取り出すガチャガチャに似ている。
以前から備え付けてあったのかもしれないが、最近になってその性能を上げた。
元々べらんめえ調で喋るので言い方も面白いんだけどね。

例えば、「トイレに行きますか?」と、入れると
『なに? 靴下が脱げた?』

「少し休みますか?」と、入れると
『えっ、サンマが焼けた?』

「お昼ご飯ですよ」
『なに?警察が来た?』

『今日は何曜日だ』
「今日は木曜日です」
『なに?火曜日、火曜日は歯医者こね~じゃね~か?』
「今日は木曜日だから歯医者さんが来る日ですよ」
『えっ、饅頭が、どうしたってんだ』
「饅頭じゃなくて、歯医者さん!」
『えっ、社会事業?・・・』
「今日、木曜日だから歯医者さんが来ますよ」
『何だって?連れてきゃいいじゃね~かよ。ああ~連れてってくれ~』
こんな感じの会話が続く。

耳元ではっきりと大きな声で話し掛けるのに、95%違った様に聞こえるらしい。
何が飛び出すか分からない。
正にガチャガチャを回す時のワクワク感がある。

でも最近そんな悠長な事を言ってられなくなった。

それに加えて、度々何処かへ行こうとして何度も、ねばーる君(突然ビヨ~ンと立ち上がる)をやって見せるので、危なくて仕方ない。

こうなるともう落ち着く薬を飲んで貰うしかなくなる。

変換装置の性能が上がる度に認知症が進む現実を、確り受け止めなければならないのだ。


認知症が進むと何かを失った分、人に与える影響力が増す。

私は、その影響力って、その人を中心として波紋のように広がって行くような気がしていて、いつもデイルームの真ん中に居るガラケーさんは、じわじわと優しい波紋を周りに広げているように感じるのだ。

もしも、ガラケーさんが居なくなったその時の喪失感は半端ないだろうな。

だから、今を楽しむぞ~
今日はどんな言葉が飛び出すか?楽しみで仕方無い。

私はワクワクしながら、言葉を挿入してみる。







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