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ツールドフランス2024 第20ステージ(Nice - Col de la Couillole) 考察

前日の第19ステージではポガチャル選手が全ての選手を飲み込んでの圧勝でした。レース後のインタビューでは「明日は逃げ切り優勝だね。」と発言していましたが、真相はいかに。

どんな展開だったのか見ていきましょう。

第20ステージは今年のツール・ド・フランス最後のロードレースであり、山岳ステージで、2級山岳を1回、1級山岳を3回上るステージでした。最後の1級山岳が頂上フィニッシュのCol de la Couilloleで、距離が132.8km、獲得標高が4600mの、こちらもタフなステージでした。

この日は開始5分で6名の逃げが決まりました。
コスタ、ポウレス(EF)
コート(UNO-X)
ウール(Israel Premier Tech)
チュルジス、ジュガ(TOTAL)
プロトンは逃げに入りたいRed Bull-BORAが牽引して逃がしません。

1つ目の2級のCol de Brausに入ってタイム差が5秒になり、逃げから遅れたチュルジス選手がプロトンに戻ります。しばらくして5名は吸収。レースが振り出しに戻ります。

山岳に入ってからEFがカラパス選手の山岳賞を確定させるためにペースを上げて逃げを作る動きをします。120km地点で中切れが起こり、17名の逃げが抜け出します。

逃げの17名
ヨルゲンセン、ケルデルマン、トラトニク(Visma)
A.イェーツ(UAE)
S.イェーツ(Jayco)
ドゥプラス(Ineos)
チッコーネ(Lidl-Trek)
ガル、アルミライル、プロドム(Decathlon-Ag2r)
ブイトラゴ(Bahrain)
ランダ(Soudal-Quickstep)
カラパス、ポウレス(EF)
ジー(Israel Premier Tech)
マス(Movister)
シャンポッサン(Arkea)

逃げにVismaが3名入ったことでちょっと危険になったので、総合争いの選手+アシスト選手で形成されたマイヨジョーヌグループが形成されてプロトンを抜け出して前を追い、しばらくして先頭グループに追いつきました。

ちょうどマイヨジョーヌグループが追いつくタイミングで逃げグループからVismaのケルデルマン選手がアタック。Israel Premier Techのジー選手が追いついて2名で抜け出します。そこに遅れてDecathlon-Ag2rのアルミライル選手が追走。アルミライル選手が追走している時にジー選手は踏むのをやめてイエロージャージグループに戻り、代わってアルミライル選手がケルデルマン選手に追いついて先頭が2名になります。この時点でUAEが引くマイヨジョーヌグループは15名まで人数が減ってしまいました。この展開にポガチャル選手の「今日は逃げグループからステージ優勝」宣言が不安になってきましたが、20名くらいマイヨジョーヌグループに追いついて人数が増えたので少し安心しました。最初の2級でレースが終わるところでした。

マイヨジョーヌグループの人数が増えると、そこからMovisterのマス選手がアタックして先頭の2名に追いつきます。マイヨジョーヌグループからカラパス選手がアタックして、グループのペースを上げます。山岳ポイントを狙いながら逃げを作り出す動きでしょう。その後、チッコーネ選手がアタックして、UAEがそのペースを維持してマイヨジョーヌグループが再び17名に絞られます。20秒くらいあった先頭3名とのタイム差も10秒まで縮まります。

山頂付近でマス選手がアタック。アルミライル選手が追走して、ケルデルマン選手はペースで追います。そのままの順番で山頂を通過してダウンヒルへ。マイヨジョーヌグループは先頭と約1分差で、ヨルゲンセン選手、カラパス選手の順で山頂を通過。

下りではEFカラパス選手がアタック。Arkeaシャンポッサン選手を引き連れてペースを上げます。そこにDSMバルデ選手、Vismaトラトニク選手、UAEソレル選手が追走して5名が抜け出して追走グループを形成します。プロトンはEFがダウンヒルでペースを落としてタイム差が開きます。UAEもソレル選手が入ったことで逃げを容認して、下りきった時には先頭とのタイム差が2分、カラパス選手のグループまで約40秒まで開いていました。

そして最初の1級山岳のCol de Turuniに入るとマイヨジョーヌグループからLidl-Trekのチッコーネ選手とジー選手がアタックしまいたが未遂に終わり、その後Groupma-FDJのジェニエツ選手がアタックをかけて抜け出します。その後ろからLidl-Trekストゥイヴェン選手、EFポウレス選手、Decathlon-Ag2rのペテルス選手、UNO-Xヨハネセン選手の4名もアタック。4名はジェニエツ選手を吸収して、5名で追走グループを追いかけます。プロトンはアタックを見送り、先頭とのタイム差が2分40秒まで広がります。

プロトンはUAEが前にまとまってタイム差を2分40秒ほどでコントロールしましたが、徐々にペースを落としてタイム差が3分まで広がりました。

追走ではカラパス選手がアタックをして追走のペースを上げます。一時バルデ選手と2名になりますが、ソレル選手とトラトニク選手が追いついて4名で先頭の3名とのタイム差を詰めていきます。しかし先頭3名は、マス選手がかなり速いペースで上っているのでなかなかタイムが詰まってきません。

追走はカラパス選手がペースを上げて、頂上まで9kmのところで先頭の3名に追いついて先頭が7名になりました。

先頭7名
ケルデルマン、トラトニク(Visma)
ソレル(UAE)
カラパス(EF)
バルデ(DSM)
マス(Movister)
アルミライル(Decathlon-Ag2r)

Vismaの人数が増えて、ケルデルマン選手のステージ優勝に向けてトラトニク選手が働きます。ソレル選手はリーダーチームのアシストなのであまりローテーションに入りません。ここはリーダーチームの特権ですね。

先頭から1分36秒差の5名の追走グループは、ジェニエツ選手のアタックで人数を3名に減らします。

追走3名
ストゥイヴェン(Lidl-Trek)
ジェニエツ(Groupma-FDJ)
ヨハネッセン(UNO-X)

そこから各グループは淡々と頂上を目指します。すると頂上まで1.2kmのところで追走の3名が先頭の7名に追いついて先頭は10名になります。ようやく全てのグループが落ち着きました。その頃には先頭とプロトンとのタイム差も4分50秒に広がりUAEも追う気がないので、ポガチャル選手が言っていたように、先頭20名の中からステージ優勝者が出るんだろうぁという雰囲気になりました。

Col de Turuniの山頂ではカラパス選手が1位通過して10ポイントを獲得してリードを広げます。10名はまとまってダウンヒルに入りました。一方、プロトンではSoudal-Quickstepがエヴェネプール選手が総合とステージで勝負をかけるために牽引を始めました。ここでこのレースを取り巻く状況が変わってきます。エヴェネプール選手がチームを使って勝負をかけるということは、今までUAEやVismaが攻めた時のように、最後の山でペースアップをするということです。UAEは逃げ切りを許すつもりでしたが、ここで逃げグループに黄信号が点灯しました。

87.8km地点のスプリントポイントは関係している選手がいないので、並び順のまま通過しました。コースプロフィールを見ると下り終わってからCol de la Colianeの頂上までは20kmくらい上っているのですが、山岳ポイントの距離としては7.5kmと記されているので、勾配がキツくなってから山岳のスタートということのようです。

Soudal-Quickstepは先頭とのタイム差を4分30秒でキープしてコントロールします。プロトンも俄然勝負する雰囲気になってきました。

先頭がプロトンと約4分差でCol de la Colmianeに入ります。 ここまでくると振るい落としが始まります。まずはMovisterマス選手がアタックをしてペースを上げます。先頭はマス選手、カラパス選手、ケルデルマン選手、バルデ選手の4名になりますが後続も諦めません。その後再び追いついて、次はトラトニク選手がアタック。少しばらけましたが、再びグループは一つに。

すると頂上まで2.3kmのところで、先ほどまできつそうだったソレル選手がアタック。不意を突かれてかなり差が開きましたが、再びグループは一つに。アルミライル選手だけが遅れてしまいますが追いつきます。画面で見てるとアタックはかなり速く見えるのですが、なかなか決まりません。アタックした後にペースが落ちているのか。

結局先頭はバラけることなくまとまって山頂を通過。カラパス選手が1位通過してさらに10ポイントを加算しました。続いてプロトンが2分47秒で山頂を通過しました。

先頭は10名のまま最後の1級山岳Col de la Couilloleに。麓からトラトニク選手がケルデルマン選手のためにペースを作ります。プロトンも2分50秒差で山岳に入ります。先頭はトラトニックが仕事を終えて、6名に絞られます。

先頭6名
ケルデルマン(Visma)
カラパス(EF)
マス(Movister)
ストゥイヴェン(Lidl-Trek)
バルデ(DSM)
ヨハネセン(UNO-X)

そこに麓で遅れたはずのソレル選手が追いついてきます。ペースが上がったり下がったりで不安定だから一定で踏んでいれば追いつくということなんでしょうか。この前の山でもそうだったのでソレル選手はこのステージの不思議なポイントでした。

フィニッシュまで残り11.5km地点でマス選手がアタック。カラパス選手が追従して、バルデ選手とケルデルマン選手、ヨハネセン選手は離れてしまいます。バルデ選手は追走からアタックして先頭2名に追いつきます。そこからカラパス選手が再度アタック。バルデ選手はついていけません。ここからカラパス選手とマス選手の一騎打ちが始まります。

その頃Souda-Quickstepが引くプロトンは先頭から2分10秒差まで迫り、残り10kmなので射程圏内に入っています。先頭がヒルト選手からランダ選手に変わるとプロトンはさらにペースアップしてタイム差が一気に詰まっていきます。総合で10位前後のBahrainブイトラゴ選手、Lidl-Trekチッコーネ選手、Israel Premier Techジー選手、UAEのA.イェーツ選手もたまらず遅れていきます。ランダ選手はダンシングで軽快に飛ばしていき、タイム差も一気に1分45分を切ります。追走は6名まで絞られました。ちょっと前までのクラシック重視のQuickstepでは総合のこの段階で展開に絡んでるなんて考えれない動きです。

追走6名
ポガチャル、アルメイダ(UAE)
ヴィンゲゴー、ヨルゲンセン(Visma)
エヴェネプール、ランダ(Soudal-Quickstep)

頂上まで残り7.2kmでカラパス選手がアタック。しかしマス選手は離れません。同じ頃に後続でエヴェネプール選手がアタックをしかけますが、ヴィンゲゴー選手とポガチャル選手がすぐに反応をしたのでエヴェネプール選手も踏むのをやめてしまいます。エヴェネプール選手はペースを上げずにランダ選手が来るのを待ちます。そして再び6名になり、ここからはアルメイダ選手が先頭を引きます。

するとランダ選手が遅れたので、アルメイダ選手はそのまま踏み続けます。アルメイダ選手は個人総合4位でランダ選手が総合5位で、2人のタイム差は27秒しかないので、最終日のタイムトライアルを前にここでアドバンテージを作っておけるとアルメイダ選手の総合4位も確実なものになるので良いムーブです。アルメイダ選手も良いペースで1分20秒だった先頭とのタイム差を1分まで縮めます。

先頭では残り5.4kmでマス選手がアタック。カラパス選手は離れません。再びカラパス選手がアタックをしますが、マス選手は離れません。まさに意地と意地とのぶつかり合いです。

また同じころにまたエヴェネプール選手が追走6名からアタックをかけます。ヴィンゲゴー選手とポガチャル選手は少し離れますが、ヴィンゲゴー選手が淡々と詰めて追いつき、その勢いでカウンターアタックを仕掛けます。これにはエヴェネプール選手も反応ができず、追走はヴィンゲゴー選手とポガチャル選手の2名になりました。ヴィンゲゴー選手はそのままの勢いで前を追います。

ここで不気味なのがポガチャル選手で、ヴィンゲゴー選手の後ろにつくだけで特にアクションを起こしません。ヴィンゲゴー選手も時折アタックをされないか後ろを確認しながら走ります。どこかでアタックをするのか、今日は大人しくするのか、無表情のため行動が読めません。そもそも逃げが逃げ切りでステージ優勝という発言もしていたので前を追う気はないのかもしれませんが。

追走は残り4kmで30秒差。先頭の2名には赤信号です。ヴィンゲゴー選手はペースを緩めずに先頭との差を詰めていきます。残り3kmで5秒になったところでカラパス選手がアタック。これにマス選手がついていき一時14秒差まで開きますが、すぐに追いつかれてしまいます。残り2.5kmで先頭4名になりますが、残り2kmでマス選手が遅れます。先頭はヴィンゲゴー選手固定で残り1kmをパス。残り900mでカラパス選手が遅れ、最後はポガチャル選手とヴィンゲゴー選手の2名になりました。

残り500mでポガチャル選手が前に出て、ヴィンゲゴー選手を引いていきます。ポガチャル選手はここまで何もせず、もしかしてここからも何もせずにフィニッシュするのかと思わせた場面ですが、残り200mで後ろを見て流し先行気味になり、そのままスプリントを開始。ポガチャル選手にしてみたら、ヴィンゲゴー選手も当然スプリントしてくるだろうと思って、合わせる感じでしたが、ヴィンゲゴー選手は全くスプリントがかからず。ポガチャル選手は残り100mでヴィンゲゴー選手がきてないことを確認して、そのまま独走でフィニッシュし、ステージ5勝目を飾りました。2位には残り200mで7秒差ついたヴィンゲゴー選手。3位には逃げから最後まで粘ったカラパス選手が入りました。エヴェネプール選手はポガチャル選手から53秒差の4位でした。

なんだかんだあって、結局ポガチャル選手のステージ優勝になりました。おそらくSoudal-Quickstepが先頭を追わなければ、逃げは逃げ切りでカラパス選手かマス選手がステージ優勝していたと思います。レースはわからないものですね。ポガチャル選手も「お前たちが追ったからこうなったんだ。」と、どこかのロボットアニメの主人公のようなことを思っていそうです。ですが各チーム最大限の作戦を遂行した結果こうなったので、最終的にはポガチャル選手とUAEが強かったという結論になりますね。

第19ステージが終わった時点でヴィンゲゴー選手とエヴェネプール選手のタイム差は2分でしたが、このステージで約3分に広がりました。前回の第7ステージの個人タイムトライアルでは25.3km獲得標高300mで37秒差をつけられているので、最終日の33.7km獲得標高650mでは下手したらもっとタイム差がつく可能性もあります。ヴィンゲゴー選手が総合2位を守る上で、この1分でかなり安心感が違うんじゃないかなと思います。

エヴェネプール選手はチームでペースを上げて、自らアタックして攻撃を仕掛けたことで、うまくはいきませんでしたが何か掴めたものがあったんじゃないかなと思いますし、チームも自信になったんじゃないかと思います。ランダ選手のあの引きの破壊力はかなりのものでした。エヴェネプール選手にしろ、Soudal-Quickstepにしろ総合系のチームとしてはまだ始まったばかりだと思うので、今後のレース、そして来年のツールまでどれくらいに仕上げてくるか、楽しみです。

そしてカラパス選手が個人総合山岳賞を決めました。エクアドルで初のポルカドットジャージということで、今年のツールにまた初が増えました。
(6割くらいがカラパス選手関係ですが。)連日のアグレッシブな走りにファンになった人も多いかと思います。残念ながらパリオリンピックには出場しないようですが、世界選手権や秋のクラシックではまた活躍する姿が見れそうです。

もう一つ、グリーンジャージのギルマイ選手も完走したことで、個人総合ポイント賞が確実になりました。今年はシャンゼリゼのパレードがないので、このステージでチームメイトとともに並んでフィニッシュして、アフリカ人初の個人総合ポイント賞の獲得を祝いました。今年のギルマイ選手の強さだったらシャンゼリゼでも勝てそうだったので、ぜひ来年リベンジでやってもらいたいです。

さらに明日のタイムトライアルでは、個人総合4位のアルメイダ選手と5位のランダ選手、6位〜11位までの争いが熾烈です。ここまで来たのに秒差の争いというのも酷な話ですが、彼らの本気のタイムトライアルで真の順位を決めてもらいたいです。

またAstanaのカヴェンディッシュ選手はこのステージもチームメイトと共にタイムカット前にフィニッシュして、自身最後のツールドフランスを最終ステージまで進めました。記録を達成して、ハードなステージをここまで完走して、最終ステージで走るタイムトライアルの気分はどんな感じなんでしょうか。ここまで来た道のりを考えるとあっという間の距離ですが、最後の1km1kmを楽しんで欲しいです。

と、このステージは距離は短かったのですが、スタート直後からフィニッシュまでの内容が濃く、どんどん長くなってしまいました。今年のツールドフランスの最後のロードレースを飾るにふさわしい、とにかくポガチャル選手は最強でした、という結論で幕を閉じたステージになりました。

さて、最後の第21ステージはモナコからニースに走る33.7km、獲得標高650mの途中に山のある個人タイムトライアルです。各選手が全開で走るだけのシンプルなレースですが、ちょっとしたミスで大きなタイムを失う可能性があります。新たなドラマは起こるのか、それとも凱旋タイムトライアルになるのか。

今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。

あっという間の3週間で、もう終わってしまうのは寂しいですが、最後までツールドフランスを満喫しましょう!

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