ツールドフランス2024 第9ステージ(Troyes - Troyes) 考察
いやー、第9ステージもなかなかエキサイティングなステージでした。見る前は「グラベルだけどパヴェじゃないし、そんなに高低差もないから山岳ステージほど展開盛り上がらないんじゃない?」と高を括っていましたが、全くそんなことはなく、気がついたら4時間モニターにがっつりかじりついていました。
そんな第9ステージを振り返ってみましょう。
第9ステージは199kmで14のグラベルセクターがあるステージでした。グラベルセクターは道が狭く、チームカーも簡単に上がってこれないし、遅れている選手で道が塞がってしまう可能性もあり、ワントラブルで致命的なタイム差がついてしまうことがあります。みんなできるだけトラブルは避けたいので、ツール・ド・フランス期間中ながらワンデーレースのように前へ前へアタックをしていく展開で、今までのフラットステージとは打って変わって激しいアタック合戦が繰り広げられました。そんなこともあり、最初のグラベルセクターに入るまでの平均時速は52km/hでした。
先頭は追いついて遅れてを繰り返し、集団からは追走に次ぐ追走、横風での分断、そしグラベルセクターなど、メンバーの入れ替わりの激しい展開で、一度は25人ほどに膨れ上がった先頭グループも、最終的に10名に落ち着きました。ステージレースでこんな入れ替わりの激しい展開のレースはなかなか見たことがありません。
メインプロトンでは基本総合争いのチームが前を固めて危険を回避するようにグラベルセクターをこなしていました。Vismaが先頭を引いたセクター13の区間では、Red Bull-BORAのログリッチ選手の位置が悪く、第3グループに取り残される瞬間がありました。しかし先頭もそこまでペースを上げなかったので、なんとかプロトンに復帰していました。追いつくのに結構時間がかかっていたので、本人たちはかなりヒヤヒヤしたんじゃないかなと思います。そのあとからはRed Bull-BORAもだいぶ位置を上げていました。この騒動でDSMのバルデ選手などがいた追走グループがしれっとメインプロトンに吸収されました。
そのあと、Vismaのヴィンゲゴー選手がパンクをしてバイク交換をしましたが、そのバイクというのがその時一緒に走っていたアシストのトラトニック選手のバイクでした。ヴィンゲゴー選手は最後までそのバイクに乗り、なんならクールダウンをしていたそうなので、ポジションがかなり近いということでしょう。もしかしたらトラトニック選手は初めからヴィンゲゴー選手のスペアバイクで走っていたのでは、と思わせるくらいでした。トラトニック選手との契約はここまで考えられていたのかと思うとVismaの本気度が伝わります。今回は再び自分のバイクに乗り換える時間もなかったくらい、最後までペースが緩むことがなかったので、いざという時の保険が功を奏した好例ですね。
そのあとはしばらく先頭グループ、追走グループ、メインプロトンの3グループでの追いかけっこが続きました。特に先頭グループと追走グループは同じようなタイム差をキープしていて、ずっと限界値で走っているんだなぁという感じが伝わってきました。また前半でアタック合戦に参加してプロトンに吸収された選手の多くが遅れていき、コースのタフさも伝わりました。
セクター12でUAEのポガチャル選手の一度目のアタックにSoudal-Quickstepのエヴェネプール選手が反応。そして一時は2名になりましたが、Vismaなどに牽引されたプロトンに吸収されました。
そしてセクター11ではレムコ選手がお返しとばかりにアタック。そこにポガチャル選手とヴィンゲゴー選手のみが追走して3名になりました。3名はそのまま先頭の10名に追いつきましたが、ヴィンゲゴー選手が先頭を引くことを拒否したので、3名はそのままお見合いになり、Red Bull-BORAとヴィスマに牽引されたメインプロトンに下がっていきました。そのアタックで割を食ったのが逃げの10名で、総合争いの3名が来たことでメインプロトンに逃げを潰される可能性があるので、それを嫌がった選手たちがそこからアタック。5名と5名に分かれてしまい、再び10名に戻るのに余計な力を使うことになりました。その動きがフィニッシュにも少なからず影響していると思います。
またヴィンゲゴー選手が消極的な理由を推測すると、自分のバイクに乗っていないからパフォーマンスが100%発揮できないこと(他人のバイクであそこまで走っている時点ですごい。)や、ポガチャル選手とエヴェネプール選手と3人での総合争いになると、彼らに比べると爆発力に欠けるヴィンゲゴー選手のタイプ的に不利になりそうなので、あえてログリッチ選手やロドリゲス選手を圏内に入れて、総合争いに関係のあるチームを増やすことで、逆転への選択肢を増やすこと、そしてアシストを十分に使うことで自分の力を後半戦までセーブするため、などが考えられます。実際Vismaのアシストは他のチームよりも多く残っているので、特に調子の上がっていない前半戦では使わない手はありません。消極的なので見ていてフラストレーションがたまる走りに見えますが、ポガチャル選手やレムコ選手のような規格外の選手たちに勝つための手段と言えば、確かに冷静な判断だと思います。(特に上位の2名は勢いでアタックしちゃうところありそうなので・・・)
そんなこともあり、上位3名はちょっとお見合いになっていたので、メインプロトンからグリーンジャージのIntermacheのギルマイ選手やAlpecinのヴァンデルプール選手、Jaycoのマシューズ選手らを含む7名がメインプロトンを抜け出しました。先頭に追いついてショーが始まると思ったんですが、タイム差がつまらず苦戦していました。ヴァンデルプール選手は他の目標のために力をセーブして、あまり追い込まないようにしているように見えるんですよね。ツールはあくまでトレーニングというか、ベース作りみたいな。今大会らしくない選手たちはもしかしたらみんなそんな感じかもしれませんね。今はトレーニングも管理されているので、春先から飛ばしすぎで疲れているというのは考えにくい。
Soudal-Quickstepの無線では、「ヴィンゲゴーはまだトラトニックのバイクに乗っているぞ!」と仕切りに煽っていましたが、その後の最後の難関セクターのセクター9でエヴェネプール選手がバイクを滑らせて、プロトンから少し遅れてしまいました。一人でかなりの時間追走してプロトンに復帰しました。誰もがあまり余裕のない状況ということでしょう。他を煽っていたら自分に来た時にちょっと悲しい。
そしてフィニッシュも近いセクター4でポガチャル選手がアタック。ポガチャル選手のアタックに反応できたのはVismaのヨルゲンセン選手のみで、ヴィンゲゴー選手がちょっと離れてしまいラポルト選手に牽引してもらうも左がつまらない。するとヨルゲンセン選手が下がってヴィンゲゴー選手をポガチャル選手まで引き上げました。ヨルゲンセン選手めちゃ強い!その後レムコ選手もUAEのアシスト2名を引き連れて、自力でポガチャル選手に合流しました。その後ポガチャル選手は何度かペースアップを図るも、致命的なギャップを開けることはできませんでした。そして遅れていた選手も復帰して、メインプロトンは再び50名ほどになってフィニッシュに向かいました。
一方で、先頭グループでは、残り11.3kmでLidl-Trekのストゥイヴェン選手がステージ優勝を目指した単独アタック。10秒差でしばらく粘りますが、アジア最強の男、Astanaのルチェンコ選手の一か八かの引きで敢えなく吸収。カウンターでEFのヒーリー選手がカウンターアタックをするも決まらず、最後は6名によるスプリントでTOTAL Energieのチュルジス選手がIneosのピドコック選手に先着して自身「初」のワールドツアー、そしてグランツールのステージ優勝を果たしました。
チュルジス選手はプロチームの所属ながら2022年のミラノ・サンレモで2位になっていて、今年のツールでもスプリントで上位に入っていたので、今回はスプリンターとしてきているのかなと思っていましたが、クラシックなどのワンデーレースが得意な選手なので、今回の結果は偶然ではなく実力通りですね。TOTAL Energieとしては2017年第8ステージのカルメジャーヌ選手以来のツールのステージ優勝になります。サガン選手が去ってから少し勢いがなかったTOTAL Energieでしたが、ツールのステージ優勝、しかもフランス人選手の活躍となると、GMのベルノドー氏もかなり嬉しいんじゃないでしょうか。
そんなわけで激しい展開だった第9ステージ。個人総合成績に動きはありませんでしたが、今後の展開を占う色々な動きがありました。そしてまた新たな「初」が生まれました。いろんなことが起こりすぎて2024年のツールドフランスは殿堂入り間違いなしですね。
そして本日はオルレアンでの休息日。初日から激しい展開だったので、選手たちはこの日を待ち侘びていたのではないでしょうか。しかしながら休息日を挟むと選手の体調が良くも悪くも変わることがあります。ここまで順調に仕上がってきて、休息日明けに調子が爆上がりする新しいスターは生まれるのか、個人総合成績に大きな動きはあるのか。火曜日の第10ステージもフラットステージながらスタートから目が離せません。
今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。
とりあえず今夜は自分たちもしっかりと睡眠をとって、また火曜日の第10ステージから観戦を楽しみましょう!
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