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フレームとホイールとスキルの話

最近は機材が進歩して、レース会場ではクロモリ・スチール・アルミ等の金属フレームの自転車をあまり見かけなくなりました。自分はロードを始めてから選手を退くまで、クロモリから始まり、アルミ・カーボン・スチール・アルミ・アルミ・アルミ・チタン・アルミ・マグネシウム・そしてカーボンと、いろいろな素材のフレームに乗り継いできました。当時は金属チューブが全盛で、同じバイクブランドでもいろんな会社のチューブを使っていたので、それによって乗り味が違ったり、違うブランドだけどパイプが同じなので乗り味が同じだ、なんてこともありました。おかげさまでいろいろなバイクに乗れたので、いろんなチューブの乗り味も知ることができました。その中でも注目したいのは時代の先端を行っていたイタリアのCOLUMBUS社とDEDACCIAI社ですね。

今でも衝撃的だったのはU23の2年目に乗っていたDedacciai ZEROというスチールチューブのフレーム。最初はアルミかと思ったくらいスチールなのに薄くて硬い。今までのスチールバイクのイメージとはかけ離れていました。その前の年はカーボンフレームに乗っていたのですが、当時のカーボンは乗り味がマイルドなものが多く、このスチールになってアルミとカーボンの間くらいの剛性感になり、自分の感覚にとても合っていました。その後に乗ったマグネシウムも同じ感覚で自己採点では高評価でした。硬すぎず柔らかすぎずがよいみたいです。

フレームのチュービングに関して話すと、当時は憧れのチュービングもあり、アルミだとCOLOMBUSのAIR PLANEやSTARSHIP、DEDACCIAのSC61.10Aなど乗ってみたかったですね。アルミチューブの世界はグレードが低いと重く柔らかく、グレードが高くなると軽く硬くなっていく流れがあったので、そのグレードアップ感がレベルアップしているようで期待値をあげてくれていたのだと思います。それと、あのフレームに貼ってあるモデル名の入ったデカールが所有感を満たすというか、誇り高い気持ちにさせてくれて、今でもそういうやり方はすごく好きです。だから最近のカーボンはいろいろ種類がある割に自己主張が少なく、名前も覚えれないので正直そこまで興味が湧いてきません。ただオッサンになって、アイドルグループのメンバーが覚えられないように、名前を覚えられなくなっただけという話もありますが・・・。ただいろんな素材に触れ合えたいい時代を過ごせたことは感謝しかありません。(COLUMBUSとDEDACCIAIは共にinstagramアカウントがあります。Dedacciaiはだいぶカーボンになってしまいましたが、ZEROは悔しいことにまだ現行(しかもアヘッド仕様!)で存在しているし、COLUMBUSはいまだにトラディショナルな感じで超クール。)

それはホイールにも同じことが言えます。当時は金属リム・ハブ・スポーツの組み合わせで、「どこのリムとどこのスポークを合わせて・・・でもこのハブだとホール数が合わない」とか、「エアロスポーツを付けたいけど、スリットが入ってない」とかそんなことがありました。フランスのブランドのレースの名前がついたリムやイタリアのブランドのオリンピックの名前が入ったリムなんてかなり興奮アイテムでしたね。90年代のリムのカタログがあったら、1週間くらいそれを見ているだけで過ごせそうです。(昔のサイクルスポーツのオールカタログなんて最高ですね!)今は完組ホイールになったので組み付けをしなくてよいし、組み合わせを考える必要もなくなったので自転車ショップやユーザーも楽になったと思います。それに完組ホイールは完成度が高く、すぐにつけて走り出せるところもよいですね。人は選択肢が少ない方がシンプルな考え方ができて幸せという話もあります。

ホイールの話では当時主流だった平リムのホイールは平坦でも上りでも扱いやすいので、そのナチュラルな使用感を好む選手は多かったようです。イタリアでもベルギーでもカーボンホイールの時代になっても手組みの平リムを使っている選手がいました。でも金属リムって軽いモデルだとすぐに振れが出てしまうので、長く使うにはそこそこ重量のあるモノを使わないといけない。ここはジレンマですが、大抵の場合練習でも決戦でも使える頑丈で振れないリムを32~36ホールで組んで使うのが定番でしたね。

ところで、僕らの時代は若い時はとにかく回転練習が重要!と教えられてきました。なので、高校時代のトレーニングはほぼアウターを使ったことがありません。大袈裟ではなく使っていませんでした。(実際にはアウターが重くて踏めなかったという話もあります。)軽いギヤで回して走ることは、当時のバイクは重くてバイク自体の推進力もそんなになかったので、回転力を鍛えるには都合がよかったのかもしれません。ホイールもハイトが低いものしかなかったので、速く回してもバイクがバタつかないし、力の小さな中高生には基礎を鍛える上ではとてもよかったと思います。そのおかげでだいぶ回転力をつけることができました。

ここからはおじさんの戯言ですが、最近若い選手たちが乗り始めから軽量のカーボンフレームとカーボンホイールを使っているのを見て危惧していることがあります。それはペダリングスキルについて。身体能力が高ければそんなに気にすることもないのでしょうが、自分はそんなに高くなかったので特にペダリングスキルの重要性を感じます。要は始めからすべて軽いものを使っていると、推進力でバイクが勝手に進んでしまうので、ペダルに体重を乗せるだけでかなり進みます。それで自分が速くなったと勘違いしがちなんですが、スムーズなペダリング運動ができていないと、どこかでスピードの頭打ちがきます。

例えば、踏めば進むのでギヤをかけて常に80回転から90回転くらいで走っている人がいるとします。スピード域が低い時はそれでも十分に対応できますが、実は平地の集団の中って軽めのギヤにすると普通に130回転くらい回ってしまうくらい風の抵抗がありません。その人は回転のスキルがないから自分の回転数で走っているとスピードが上がるにつれてギヤがどんどん重くなっていきます。そして集団が1列になるくらい高速になるとギヤが足りないのでそれ以上のスピードが出せなくなる。でもギヤは重いのでペダリングにかかってる負荷はかなりのものになり、それで筋力もスタミナも頭打ち。ついていくことはできますが、そこで力を使いすぎているので後半に脚が残せない。こうなるとずっと余裕がなく、いずれは集団から遅れてしまうでしょう。しかし高回転に対応できるペダリングスキルがあれば、余裕を持ってギヤを使うことができ、後半にむけて力を温存することが可能だと思います。

よく車に例えるのですが、車の最大出力が出るところは回転数が高い時。低い回転数でパワーが出る車は大抵の場合ターボ付き。そう思うと効率的に高い出力を出したいなら、高い回転数を身に付けた方がよいですよね。加速する時はギヤを重くするのではなく軽くします。その辺りに真理があるのではないかと思います。

自分の話だと自転車のプロ選手になって、ようやくカーボンホイールを使える日が来たとき、(実は時代も時代ということもありましたが、日本のチームに入るまでカーボンホイールを使ったことがありませんでした。しかもそのホイールもアルミリムにカーボンが貼り付けてある重量の重いもの。)感じたのは、ホイールの重量が軽くなると予想外にギヤを踏めてしまうこと。走行感が軽いから知らず知らずに使わなくてもよい力を使い続けてしまっていて、いつも通りに走っているのに後半に急に脚が重くなり、失速することが多々ありました。それに気付いてからはカーボンホイールを使用する時はより脚を回すように心がけていました。時にはより自然な感覚で走れるアルミリムを選ぶこともありました。軽量で進みそうなカーボンホイールですが、使いこなせないとただのエナジーイーターになってしまいます。しかしカーボンホイールの有用性は誰もが認めるものでもあるので、要は使い方と慣れということですね。

で、結局何が言いたかったかというと、特に中学生や高校生のライダーに向けてですが、始めから軽いモノばっかり使っているとペダリングスキルが未熟になるんじゃないかな、ということです。しっかりとトレーニングをしていても山でも平坦でも少し速度が上るとすぐに苦しくなってしまう人。そういう人は原因がそこにあるかもしれません。普通に走っている分にはよいのですが、平坦でも上りでも速く走ろうと思うと最低でも100回転キープは必要で、120回転が持続できるくらいのスキルがあれば、より集団の中で休め、よりスピードの変化にも対応できるようになります。さっきも少し触れましたが、身体能力が高くて長時間重いギヤをガシガシ踏めて、ブン回せる脚力があれば問題ないのですが、そんな人はなかなかいません。重いギヤをを高速で回すことのできるトラック競技の選手やBMXの選手が、ロードに転向しても速い選手が多いのは、ペダリングスキルが高いからとも言えそうです。

これも自己流ですがペダリング練習をする上で手っ取り早いのは、重量のあるホイールを付けて100回転くらいで走り続けること。フランス帰りの弟からもらったヤバイチューブを持っているのですが、それを入れたホイールは前後で約3kgになります。それをつけて外を走ると本当に脚を回さないと進まない上に体力が削りとられていく。人の後ろについてもレースを走っているような強度になるし、ちょっと遠くにいったものなら家に帰れるかどうか不安になるくらいの重さ。でもそれを付けた後はBB壊れるんじゃないかくらい脚が回るようになる。それはちょっと極端な話ですが、機材が重要なスポーツですが、機材を使うスポーツだからこそ、機材だけじゃなくてスキルでも差が付けられるんじゃないかな、という話でした。

いつの時代でも機材の格差問題はあります。そして当然競争なので順位も重要です。ですが1位でなくても、100点満点でなくても、その努力した過程で何を得たのかというのも大事だと思います。努力しているのは皆同じで、結果とは才能や機材の条件プラスその努力の過程の差だと思います。その過程で何を得て、どのくらいステップアップできていて、これからそれをどのように生かしていくか、などということを試行錯誤できれば、たとえ結果がすぐについてこなくてもそのうちワンチャンあると思いますよ。

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富士ヒルクライムでヒルクライムなのに後輪だけカーボンディープ使ってました。(2004年 Photo by 綾野さん)

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