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ツールドフランス2024 第11ステージ(ÉVAUX-LES-BAINS - LE LIORAN) 考察
また「伝説」を見ることになってしまいました。今年のツールは息つく暇すら与えてくれません。しかも水曜日のステージでこんな展開になるなんて・・・。
何度も言いますが今年のコースを設計した人たちは大成功ですよ、本当に。
第11ステージは距離211kmで終盤に山岳ポイントが連続する獲得標高4335mのタフなステージでした。スタートから各チームが逃げに選手を送るためかなりアクティブな展開になりました。 そのせいもあり最初の平均時速が49.5km/と長距離の山岳ステージとは思えないほどの速さ。
何度か数人が抜け出すことがありましたが、プロトンとの差はずっと15秒くらいが維持され決定的になりません。結局まともな逃げが決まったのは79.8km地点の4級山岳で、先行していたEFカラパス選手とTOTALのヴェルシェール選手に追走のDecathlon-Ag2rのラペイラ選手、EFのヒーリー選手、Movisterのラスカノ選手、DSMのオンリー選手が追いついて6人になってから。しばらくプロトンも20秒差で追い続けていましたが、徐々に差が開き始めて1分30秒に開きました。特にEFは序盤からイケイケで、カラパス選手は意地でも逃げを決めるために心配になるほど踏んでいました。結果2名乗せることができたので、チームオーダーとしては成功でしょう。
その後、追走でLidl-Trekのベルナール選手と、Cofidisのマルタン選手、Decathlon-Ag2rのアルミライル選手とGroupma-FDJのグレゴワール選手がアタックして、残り109km地点で先頭に追いついて先頭は10名に。みんな別々のチームですが(別々のチームだからよい!)、フランスを代表する4選手のアタックに、フランス中が胸熱展開だったんじゃないでしょうか。その頃にはプロトンとの差も2分になっていて、ようやくそこでまともな逃げが決まったことになります。逃げが決まるまで平均約50km/hで100km走り続けるなんて、ツールドフランス、そして現代のロードレースは本当にレベルが高い!そこからレースは後半に向けた戦いの雰囲気になってきました。
その後、2級山岳のCol de Néronneに入ると、メインプロトンが加速します。それまでもずっと先頭固定で引いていたUAEのウェレンス選手とポリッツ選手がそこでもなお逃げグループとのタイム差を詰めていきます。今年のUAEはこの2人の強さのおかげで山岳でかなりアシストを残せる状態になっているといっても過言でないくらい。逃げ10人に対して2人で2分をキープして、それからタイム差を詰めるってどんな強さ?しかもほぼ連日なので、本人たちの結果には現れませんが彼らが超人なことには変わりありません。
逃げではラスカノ選手が単独になり、ヒーリー選手がチームリーダーのカラパス選手を引いてしましたが、カラパス選手はもうペースが上げられないので、リーダー交代でヒーリー選手が単独でラスカノ選手を追い、追いついて先頭は2名に。2名のまま山頂を通過していきした。カラパス選手もそのまま粘った走りでプロトンに追いつかれずに山頂を3位通過して前を追いました。
その後の下りでVismaがリードしている時に、ワウト選手が先頭でコースアウトして落車をしてしまいます。単独だったので他の選手には影響はありませんでしたが、バイクにトラブルがあったようですぐに復帰できずに戦線離脱になってしまいました。ここまで残っていたので何か活躍があるかなと思ってみていたので、残念な離脱になりました。ワウト選手はツールでは何かと起こるので、相性が悪いんでしょうか。
そして1級のPuy Mary Pas de Peyrolに入ると、下りで追いついたカラパス選手がヒーリー選手のために前を引きますが、メインプロトンが凄まじいスピードでタイム差を詰めてきます。UAEに牽引されたメインプロトン(と言ってももう30名もいないプロトンですが)は無情にも残り32km地点で逃げグループをキャッチ。そのままの勢いで1級山岳の頂上を目指します。
山頂近くで前に出てきたA.イェーツ選手の引きが速すぎて、Vismaのヨルゲンセン選手など、他のチームのアシストをドロップすることに成功しましたが、同じUAEのアユソ選手やアルメイダ選手も遅れてしまいました。この時点ではポガチャル選手のアタックでライバルを置き去りにして独走に持ち込んだので結果よかったですが、後々考えてみるともう少し満遍なくアシスト選手を使っていた方が、もっと余裕ができたんじゃないかなと思いました。A.イェーツ選手を残していたら補給ももらえていたかもしれないし、また別の攻撃ができたかもしれません。でも、実際はあのくらい引かないとライバルチームのアシストを落とせないということなんでしょうね。アユソ選手もアルメイダ選手も前を引く予定だったけど、思いのほかA.イェーツ選手が速くて、「え?マジこのペースで行くんですか、先輩!速くて前出れないですけど!!」なんて思っていたかもしれません。
あとは報道されている通りA.イェーツ選手の引きからポガチャル選手がアタック。誰もついていくことができず、ポガチャル選手が単独で山頂を1位通過、12秒遅れてヴィンゲゴー選手が2番手、3番手にRed Bull-BORAのログリッチ選手が20秒差、そしてエヴェネプール選手が35秒差の4番手でMary pas de Peyrolを越えます。下りでは相変わらずポガチャル選手が速く、ヴィンゲゴー選手とログリッチ選手は合流して元Jumbo-Visma同盟で追走するも、下りのうまいIneosロドリゲス選手やエヴェネプール選手のいる後続に吸収されて、ポガチャル選手と35秒差で2級山岳のCol de Pertusに入ります。
ここで思ったのが、第9ステージでログリッチ選手が総合から遅れそうになった時にヴィンゲゴー選手はあまりタイム差を広げようとしなかったのが功を奏したのかなと。もしログリッチ選手が総合争い圏外になってしまった場合、その状況でのモチベーションもよりますが、逆転の逃げを試みたり、最後まで勝負に加われない可能性がある。そうなると今回みたいに遅れた時に1人でも多く前を追うのを協力してくれる選手がいるのといないのではだいぶ違う。今総合でヴィンゲゴー選手の前にいるポガチャル選手とエヴェネプール選手は強力な独走力を持っているので、ヴィンゲゴー選手に協力してくれる(でも総合は逆転されない)ログリッチ選手の存在は大きかったのではないでしょうか。あくまで想像ですが。
そしてここからが本当のドラマの始まりで、ポガチャル選手は独走体制に入っていましたが、追い上げるヴィンゲゴー選手がみるみるタイム差を詰めていきました。一緒に追走していたログリッチ選手の止まりっぷりを見てその速さの違いが際立っていて、「もういいっすわ〜」って感じのダンシングになっていたのが印象的でした。
ヴィンゲゴー選手はそのままの勢いで35秒差を一気に埋めていきました。一方で、ポガチャル選手は独走モードに入っている割にペースが上がっていない様子。情報を見るとどうやら補給をミスしてしまったのではないか、という話がありました。確かにニュートラルカーに何かを要求しているのが映っていました。チームカーを呼びたくても後続が近すぎて、ポガチャル選手の所まで上がってこれなかった。または山道で狭くチームカーが上がれなかったからという理由もありそうです。さすがに211kmの長丁場でずっと速いペースだったので、通常よりも多く消耗していたということでしょうか。先に書いちゃいますが、この後の表彰式の時もずっとモグモグ食べまくっていたので、やはり補給不足とみてよさそうですね。
Pogacar is low on sugars. It always a problem if you have to ask the neutral service for a bottle. Huge mistake from UAE. They could have sealed the Tour today. #TDF2024
— Michael Rasmussen (@MRasmussen1974) July 10, 2024
そしてヴィンゲゴー選手が近づいてきたことがわかったポガチャル選手は、ちょっとヴィンゲゴー選手を待ちぎみになりました。彼はこの山岳ポイントにかかっているボーナスタイムを獲得したかったので、待ちながら休んで追いつかれてからスプリントをして山岳ポイントを1位通過しました。ここもそんなに加速しなくてもよくないか?くらい加速していたので、もしかしたら最後のところに影響していたかもしれません。
そして最後の3級、Col de Font de Cereはお互いに先頭交代しながら越えて、最後の勝負はスプリントになりました。残り1kmからポガチャル選手が先頭を引くのを拒否して、ヴィンゲゴーが後ろを確認しながら先行。残り150mくらいでヴィンゲゴー選手がスプリントを開始。ポガチャル選手はあわせましたが伸び切らず、ヴィンゲゴー選手が先着してステージ優勝!最初は一瞬ポガチャル選手が敬意を表して1位を譲ったのかと思いましたが、フィニッシュのボーナスタイムもあるし、彼の性格的にそんなことしないと思ったので、リアルに捲れなかったんだと思いました。(譲るくらいならあんなスプリントで山岳ポイントに設定されたボーナスタイムを取りにいかないですよね。てか、あそこでもがきすぎたから最後脚がなかったんじゃないの?とも思う)
ここでショートクランク小噺
通常スプリント中はダンシング状態ですが、脚があればダンシングのままフィニッシュラインまで踏み抜くことができますが、脚がないとそのペダリングを維持するのにサドルに腰を下ろさなければいけなくなります。ポガチャル選手は165mmのショートクランクを使っているのですが、クランクが短いことで170mmと同じギアでもテコの原理で踏み出しが少し重くなります。踏み出しを軽くするために軽いギアを使う場合はより回さないと1枚重いギアのスピードについていくことができません。そしてギアが軽いとスピードを出すには回転数を速くする必要があります。でもダンシングで出せる回転数には限界があるので、より速く回そうと思うと腰を下さなければいけなくなります。ポガチャル選手は2回腰を下ろしていたので、あのタイミングで加速をしようと思っていたと思うのですが、脚がなくてそれ以上早く回せないし、ギアもかからなかったのではと想像します。短いクランクは回ってしまえばスピードの維持がしやすいので、一度回ってしまえば速いのですが、重いギアでスプリントすると回り切るまでより大きなパワーがいるし、一方で軽すぎると回っている割に進まない。このあたりはショートクランクのメリットとデメリットだと思っています。
(最近こだわっているのでちょっと熱が入ってしまいましたが・・・)
そうしてヴィンゲゴー選手は4月の落車から約3ヶ月でツールの、しかも山岳ステージでポガチャル選手を下しステージ優勝を挙げるサプライズ勝利を上げました。ここまではレースにも出れず、ツールにも出場できるかわからないし、精神的に厳しい日々を送っていたに違いありません。フィニッシュ後はすぐに奥さんに電話をして勝利を報告、その後の大会インタビューでは涙を抑えることができませんでした。
一方でポガチャル選手はそこまで精神的にダメージを受けているわけではなく、もしろ「面白くなってきた!」とどこかの漫画のキャラクターのようなより強い選手と戦うことが生きがいのような発言をしていましたし、前出のマイヨジョーヌの表彰台ではモグモグしていたり、山岳リーダージャージの表彰ではジャンプして表彰台に乗るなど、相変わらずな感じでした。
エヴェネプール選手なんてフランスTVのインタビューには開口一番「昨日は残念だったね!」と言って、レポーターが何のことかと思ったら同時期に行われているサッカーのユーロの準決勝でフランスがスペインに負けた話だったなんてこともあり、厳しいレースが終わり、どちらも失ったものはあったのに、どちらも器が大きすぎて今後の自転車界は安泰だなと思いました。(笑)
#TDF2024 | 😅 - "Pour commencer désolé les gars pour hier ..."
— francetvsport (@francetvsport) July 10, 2024
🇧🇪 Remco Evenepoel un poil chambreur après l'élimination des Bleus en demi-finale de l'Euro.
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ところで、1級のPuy Mary Pas de Peyrolの下りを見ていて思ったのが、ポガチャル選手とヴィンゲゴー選手の対処の違いです。ポガチャル選手は先頭で独走をしているにもかかわらず後輪を滑らせていた。ということはちょっと無理をしながら下っていたということ。後のインタビューで滑らせてから気をつけて走ったという発言がありました。
ヴィンゲゴー選手はギリギリを攻めることなく、むしろ後続に吸収されて次の上りに入りました。ログリッチ選手に追いつかれて、C.ロドリゲス選手が引くグループにも吸収されています。怪我明けなので落車のリスクを下げたのと、次の上りのために体力を温存したということもあるでしょう。(下りでも先頭を引くとそれなりに消耗します。)30秒というこのタイム差をどう捉えるかで、リスクを負うのか、余裕を持って次のアクションに備えるか、この精神的なところは選手の自信によるところになりそうです。
もう一つのポイントはPuy Mary Pas de Peyrolの下りで、UAEのアシストのアルメイダ選手とA.イェーツ選手がロドリゲス選手に合流していたので、やはりもう少しアシストの使い方を考えていれば違う戦い方があったんじゃないかと思いました。例えばA.イェーツ選手が強かったので、A.イェーツ選手が引いた区間をアルメイダ選手に引かせて、ポガチャル選手がアタックしたらA.イェーツ選手はヴィンゲゴー選手をマーク。そうしていたらもしかしたらA.イェーツ選手はヴィンゲゴー選手と一緒にPuy Mary Pas de Peyrolを越えられていたかもしれない。そのあとは千切られたかもしれませんが、プレッシャーをかけられたのかなと思いました。まああくまで第3者の「たられば」ですが、ちょっともったいなく感じたので。
あとはログリッチ選手の最後の落車については、転んだ後にテレビカメラのモトと絡まっていたようなので、復帰に時間がかかったようです。3kmルール適用でタイム差なしになってよかった。今後のステージでの逆襲に期待したいです。
というわけで第11ステージも劇的な展開のステージになりました。これで総合争いが俄然面白くなってきました。またコース設定者がやるな、と思うポイントは、山岳ステージが続かずまたフラットステージに戻るところです。総合争いはこの結果を見て次の山岳ステージまで悶々とするわけですよ。この間の精神状態は如何なるものか。そして山岳ステージを死ぬ気で走ったスプリンターたちがまたピリピリとスプリントでの勝利を狙うわけです。本当にみんな休む暇がない。(特に総合争いのアシスト選手の苦労を考えると・・・)。
休む暇がないと言えば見る方も大変ですね。「今日は寝て明日結果だけわかればいいや。」という飛ばしステージがほぼない。これは自分がただハマっているだけなのか、今年のツールがいつもと違うのか。11ステージ終わって残り10ステージ。まさに連ドラ1クールを見ているよう。色々なものに翻弄されながら今年のツールドフランスを最後まで堪能しましょう。
今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。
第12ステージも楽しみましょう!
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