GigEカメラを他の産業用カメラと比べると?
GigEカメラ(正確にはGigE Vision)以外にも、産業用カメラの規格があります。GigEカメラを他の産業用カメラの規格と比べた場合のメリット・デメリットをまとめておきます。
結局どの産業用カメラ規格が良いのか?
最初に結論(私見)を書いておきますが、現時点ではGigEカメラが総合的に一番バランスが良いです。産業用カメラ選定の際は、「GigEカメラをまず検討し、GigEカメラではダメな場合に別の規格採用を検討する」という進め方が手堅いと思います。
全くの私見ですが、以下の順にオススメです。
• GigEカメラ (GigE Vision)
専用ハード不要、高フレームレート、ケーブル長い
• USBカメラ (USB3 Vision)
専用ハード不要、高フレームレート、ケーブル短い
• CoaXPress
専用ハード必要、超高フレームレート、ケーブル長い
• カメラリンク
専用ハード必要、中フレームレート、ケーブル長い
• アナログ
専用ハード、低フレームレート、ケーブルが長い
他の産業用カメラの規格
GigEカメラで採用されているGigE Vision含め以下の産業用カメラの通信規格があります。他にもありますが、古い規格ばかりで今はあまり使われていない、もしくは廃れつつあると思います。
• USB3 Vision
• GigE Vision
• CoaXPress
• Camera Link, Camera Link HS
それぞれの通信規格については標準化団体JIIAのHPで説明されています。
GigEカメラのメリット
GigEカメラは、目立った大きなメリットはありません。が、逆に大きなデメリットもありません。この平凡さが、産業用途で広く使われている理由だと思います。
メリット1:汎用イーサネット機器が使える
イーサネットケーブルにしろ、POEハブにしろ、メーカが多いので用途、予算、地域に合わせて機器を選択できます。日本で容易に手に入る機器が、別の国では入手が困難またはとても高価ということはあるので、つぶしが効くという意味で大きなメリットになります。
USB3 Visionには同じメリットがありますね。一方で、専用のハードウェアを必要とするCoaXPress、カメラリンクのカメラは選択肢が少ないです。
メリット2:ケーブルを長く伸ばせる
工場によっては、GigEカメラと画像処理用のパソコンを離れた位置に設置したい場合が多くあります。GigEカメラの設置環境が過酷(例えば高温・多湿)でパソコンが同じ場所に置けない場合、設備が巨大でGigEカメラの設置場所の近くに人が近づけない場合、管理・メンテナンスを効率的に行うためにパソコンを一か所に集めたい場合、などが該当します。
融通が利かないと思うかもしれませんが、工場は生産効率を高めることが必達のミッションなので、生産効率を下げるような機器は採用されません。
CoaXPressもケーブルを長く伸ばすことができます。一方で、USB3 Visionはケーブルの最大長は3メートルです。光複合ケーブルなど特別なケーブルもありますが、普及していませんね。
メリット3:開発環境が整っている
単にソフトウェアの開発環境、カメラメーカのサポートという観点では、規格による違いはそれほどありません。GigEカメラの場合、以下が他の規格にはないメリットだと思います。
・ ネットワーク技術者の助けを借りることができる
・ イーサネットに関する情報がWebから入手しやすい
・ 汎用のOSサービス・プロトコルスタックが利用できる
・ WireSharkなどの汎用ツールを活用できる
・ 潰しの利く知識・スキルが身につく
個人的には、ネットワークの専門家と一緒に仕事できることが一番のメリットだと感じています。開発チーム内に相談相手がいるということはとても心強いですね。
USB3 VisonもUSB3.0をベースにしているので同様のことが言えます。一方で、Camera LinkやCoaXPressに関してはWebで検索しても得られる情報が少なく、また書籍などもありません。
GigEカメラのデメリット
当然ですが、GigEカメラにもデメリットがあります。
デメリット1:GigEカメラの接続設定が必要
以下の投稿で詳しく書きましたが、結構ホスト側パソコンの設定が大変です。
デメリット2:フレームレートが低い
GigEカメラは1000Base-Tのイーサネット通信をベースにしています。そのため、1Gbps程度が通信速度の上限になります。
実際ほかの規格と比べると、フレームレートが遅いカメラが殆どです。今は500万画素くらいが産業用カメラのボリュームゾーンですが、今後カメラの高解像度化が進むと大きなデメリットになる可能性があります。
デメリット3:発熱がすごい
GigEカメラは発熱が大きいです。そのため、GigEカメラを壊さないため設置環境によっては冷却用の放熱フィンやファンをGigEカメラに取り付ける必要があります。
放熱フィンに埃がたまったり、冷却ファンが壊れると、GigEカメラが十分に冷却されず故障してしまうので、定期的な点検が必要です。
また、GigEカメラで使われているCMOS受光素子は、高温になるほど画質が悪化するので、温度によって画像処理結果が変わってしまう、結果装置が誤作動する懸念もあります。
デメリット4:レイテンシ、ジッタが大きい
ベースとなるイーサネット通信には、レイテンシやジッタの保証値がありません。そのため、パソコンが撮像を指示してから実際にGigEカメラが撮像を開始するまでに時間が掛かる、また撮像開始タイミングもばらつく、といったことが起こります。
デメリット5:規格に伸びしろが少ない
通信速度が遅いGigE Visionは、10GigE Visionなど後継規格も検討されています。後継規格があれば、将来性も問題ないのでは?と思うかもしれませんが、話はそうシンプルではありません。
一番の理由は、10GigE Visionのベースとなっている汎用規格10GBase-Tが殆ど普及していないためです。今のイーサネットポートが10GBase-Tでは使えないのでサーバ用途では普及が進みそうですが、それ以外の用途への普及は相当時間が掛かりそうです。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
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