#18 「チャイの国」インドでのスターバックスの試行錯誤
筆者はインドのバンガロール在住だ。特段コーヒーに詳しいというわけではないが、コーヒーが好きで毎日のようにコーヒーショップや、インドのデリバリーサービスでコーヒーをオーダーしている。
インドに住む前は、インドに対して「チャイの国」という印象を持っていたが、バンガロールにはコーヒーチェーンも多くある。もちろん、スターバックスの店舗も多く見る。
現在のインドのコーヒー市場、および勢力図はどのようになっているだろうか。特にグローバルブランドのスターバックスはどうだろうか。
本記事では、インドのコーヒー事情について考察していきたい。
インドにおけるコーヒー文化と近年の市場の盛り上がり
インドというとよく想起されるものとして「チャイ」があるだろう。
確かにインドには、「Chai Point(チャイポイント)」「Chaayos(チャイオス)」などのチャイのチェーン店がある。
また、ローカルなお店や道端のスタンドではよくチャイを売っている。
ミニサイズのコップ(50mlくらい)で提供されることが一般的で、例えばバンガロールだと10-20ルピー(約18-36円)で飲める。
インドに住んでいると、インドにはチャイ文化が根付いていると感じる。
だが一方で、南インドでは「フィルターコーヒー」というミルク入りの甘いコーヒーを飲む習慣もある。
レストランなどでは、何度か容器を移し替えて少し冷ましてから提供してくれることもある。見ていて楽しい。
また、所得が伸びてきたことなどもあり、昔よりコーヒーのチェーン店or消費量が増えてきているようだ。
統計によると、インドのコーヒー市場は現在8億800万ドル(日本円で約1300億円)とされており、2025 年まで年間8.9%の伸び率で成長すると予想されている。 (参考)
日本のコーヒー市場が2017年時点で2兆9,000億円台であることを考えると(参考)、市場規模としてはまだまだ小さい。まさに「これから」の市場だろう。
現在の勢力図:都市でのスタバの存在感はあるがローカルチェーンも急伸
現在のインドのコーヒーチェーンの中では、インド発の「Cafe Coffee Day」が1,384店舗(2023/2/21現在)と圧倒的な店舗数を誇る(参考)。
スターバックスはインドの財閥のTATAと組んで2012年から参入しており、現在は341店舗(2023/5/9時点での記事)。筆者が住むバンガロールやデリーなどの都会においてはよく目にする印象だが、「Cafe Coffee Day」に比べると店舗数はだいぶ少ない。
ちなみに、インドの人口が同じくらいの中国だとスターバックスは6,000店舗以上、日本でも1,846店舗(2023年6月末)。これらの国と比べるとまだまだ開拓余地が大きい市場であることがわかる。
最近勢いがあるのはやBlue TokaiやThird Wave Coffeeなどの新興チェーン店だ。高品質な豆を売りにしている彼らは、現在急速に店舗を増やしている。
Third Wave Coffeeは2013年創業。2023/9/22時点で公式サイトには80店舗が掲載されている。
Third Wave Coffeeは2013年創業。公式サイトには「店舗数は90以上」と記載がある(2023/9/22確認)。
筆者の友人のインド人に聞いてみたところ、Third Wave Coffeeは食べ物のメニューが豊富なことが人気の理由の一つなのではないか、と数人が言っていた。
確かに、Third Wave Coffeeは食事のメニュー数はスタバと比べると多い。あくまで軽食ではあるものの、レジ横のケースに入っているパンなどのメニューが中心のスターバックスよりは充実している印象だ。
筆者はスターバックスにも行くものの、せっかくインドにいるのだから…という気持ちもあり、スタバと比べると、Third Wave CoffeeとBlue Tokaiの店舗に行って仕事をしたりデリバリーでオーダーしたりすることの方が比較的多い。
また、2022年8月には、カナダのコーヒーチェーン店「Tim Hortons(ティムホートンズ)」がデリーにインド初の店舗をオープンした。今後3年間で100店舗以上を展開する計画を打ち出している。
つい先日(2023年9月)、バンガロールにも店舗をオープン。筆者はオープン2日目に行ってみたのだが、多くの若者で賑わっていた。
伸びる市場においてのスタバの工夫
新興コーヒー店の伸びを見ていると、一見するとスタバがうまく行っていない、もしくは押されているようにも見える。
ただ、現時点では悲観的になることはなさそうだ。
2023年度、スターバックスのインド売上高は、10年前(2012年10月)にインドに店舗を構えて以来初めて10億ルピーを突破した。10億8,700万ルピーとなり、2022年度比で71%増加した。(参考)
スターバックスは店舗網の拡充に意欲的だ。2022-23年度は71店舗をオープンして新たに15都市に進出した。年間の新店舗オープン数では過去最多だ。これで店舗がある都市数は41となった。
タタ・スターバックス(インドのスターバックス)のCEOのSushant Dash氏は「競争を無視することはできない」と述べつつ、「しかし、より重要なのは、自分の得意なことをすることであり、それを一貫して、消費者の要求通りにやっていれば、正当なシェアを獲得できる」と自信をのぞかせた。(参考)
そんなインドのスターバックスは、どのようにシェアを獲得していくつもりなのだろうか。
最近では、ローカライズ施策をいくつも行なっている。
例えば、インドのスターバックスは今年に入ってからショートサイズ(240ml)よりもさらに小さい、177mlの「ピッコ」サイズを導入した。
一般でMサイズに当たる、スターバックスの「トール」は350mlなので、ピッコサイズはその半分程度ということになる。
これは、以下の2つの理由があると考えられる。
①インドではチャイを少量カップ(50ml程度)で飲む文化がある
②安価なオプションを提供するためだと考えられる。
②について、スターバックスは他のチェーン店に比べると相対的に高い。
例えばバンガロール中心部のカフェで、ホットのカプチーノをスターバックスのショートサイズ(250ml)相当のサイズの商品で比較すると
Cafe Coffee Day:195ルピー(約349円)
Blue Tokai:190ルピー(約340円)
Third Wave Coffee:199ルピー(約357円)
スターバックス:231ルピー(約414円)
というように、スターバックスが頭ひとつ抜けて高いのである。
筆者がよく飲むホットのフラットホワイトだともう少し価格差があり、Cafe Coffee Dayとは100円程度差があった。(同じくスターバックスのショートサイズ相当のサイズの商品で比較)
Cafe Coffee Day:200ルピー(約358円)
Blue Tokai:190ルピー(約340円)
Third Wave Coffee:239ルピー(約428円)
スターバックス:268ルピー(約480円)
というわけで、スターバックスにおいて(量は少ない代わりに)安価な選択肢ともなっているピッコサイズだが、どの飲み物でも注文できるというわけではない。
現時点では6種類のメニュー(カプチーノ、カフェラテ、ココア、フィルターコーヒーと2種類のチャイ)のみである。
ちなみに、このピッコサイズ導入を以てして「インドのスタバの低価格路線」と報じられることもあるが(参考)、必ずしも全体的な値下げ等、「低価格に寄せている」というわけではない。
裾野を広げるために、あくまで低価格の商品「も」作った、と捉えるのが良さそうだ。先述の通りピッコサイズがあるのは一部のメニューだし、全体としては依然として相対的に高価格だ。
例えば、この前飲んだスタバの季節限定ドリンクは425Rs(約700円)と日本基準から考えても安くはない価格だった。
またインドのスターバックスは「ピッコ」サイズの導入以外に、メニューのローカライズも行なっている。
具体的には、インドの文化を取り入れた、以下のメニューの販売を行なっている。
チャイ(マサラチャイ、カルダモンチャイ)
フィルターコーヒー
ミルクシェイク(チョコレート味、バニラ味、ストロベリー味)
フィルターコーヒーは先述の通り南インドでよく飲まれている飲み物だ。
またあまり知られていないが、ミルクシェイクもチャイと同様、インドの伝統的な飲み物である。
伸びる市場におけるインドのスターバックスの試行錯誤に注目だ。
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