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#18 「チャイの国」インドでのスターバックスの試行錯誤

筆者はインドのバンガロール在住だ。特段コーヒーに詳しいというわけではないが、コーヒーが好きで毎日のようにコーヒーショップや、インドのデリバリーサービスでコーヒーをオーダーしている。

インドに住む前は、インドに対して「チャイの国」という印象を持っていたが、バンガロールにはコーヒーチェーンも多くある。もちろん、スターバックスの店舗も多く見る。

現在のインドのコーヒー市場、および勢力図はどのようになっているだろうか。特にグローバルブランドのスターバックスはどうだろうか。
本記事では、インドのコーヒー事情について考察していきたい。

【弊社紹介】
弊社(株式会社hoppin)はUXコンサルティング事業、および中国・インドのUXリサーチ事業を行う企業である。参考:会社サイト
後者について、具体的には、中国・インドの優れたUXを提供するサービスを、現地ユーザやサービス提供企業の役職者へのインタビュー調査を通して分析し、日本企業への示唆を出している。
また筆者の滝沢は上海に2回居住したことがあり、2023年現在はインドのバンガロールに居住している。参考:筆者執筆のYahoo!ニュース



インドにおけるコーヒー文化と近年の市場の盛り上がり


インドというとよく想起されるものとして「チャイ」があるだろう。
確かにインドには、「Chai Point(チャイポイント)」「Chaayos(チャイオス)」などのチャイのチェーン店がある。


チャイポイント(出典:ENTRACKR


また、ローカルなお店や道端のスタンドではよくチャイを売っている。
ミニサイズのコップ(50mlくらい)で提供されることが一般的で、例えばバンガロールだと10-20ルピー(約18-36円)で飲める。

筆者の家の近くのスタンド(屋台のようなお店)で提供されているチャイ。
以前は10ルピー(約18円)だったが最近行ったら値上がりして15ルピー(約27円)になっていた。



インドに住んでいると、インドにはチャイ文化が根付いていると感じる。
だが一方で、南インドでは「フィルターコーヒー」というミルク入りの甘いコーヒーを飲む習慣もある。

出典:Cook With Manali

レストランなどでは、何度か容器を移し替えて少し冷ましてから提供してくれることもある。見ていて楽しい。


また、所得が伸びてきたことなどもあり、昔よりコーヒーのチェーン店or消費量が増えてきているようだ。

統計によると、インドのコーヒー市場は現在8億800万ドル(日本円で約1300億円)とされており、2025 年まで年間8.9%の伸び率で成長すると予想されている。 (参考

日本のコーヒー市場が2017年時点で2兆9,000億円台であることを考えると(参考)、市場規模としてはまだまだ小さい。まさに「これから」の市場だろう。




現在の勢力図:都市でのスタバの存在感はあるがローカルチェーンも急伸


現在のインドのコーヒーチェーンの中では、インド発の「Cafe Coffee Day」が1,384店舗(2023/2/21現在)と圧倒的な店舗数を誇る(参考)。

スターバックスはインドの財閥のTATAと組んで2012年から参入しており、現在は341店舗2023/5/9時点での記事)。筆者が住むバンガロールやデリーなどの都会においてはよく目にする印象だが、「Cafe Coffee Day」に比べると店舗数はだいぶ少ない。

ちなみに、インドの人口が同じくらいの中国だとスターバックスは6,000店舗以上日本でも1,846店舗(2023年6月末)。これらの国と比べるとまだまだ開拓余地が大きい市場であることがわかる。

筆者がたまに行くバンガロール中心部のスターバックスコーヒー




最近勢いがあるのはやBlue TokaiThird Wave Coffeeなどの新興チェーン店だ。高品質な豆を売りにしている彼らは、現在急速に店舗を増やしている。

Third Wave Coffeeは2013年創業。2023/9/22時点で公式サイトには80店舗が掲載されている。

バンガロールにあるBlue Tokaiの店舗
Blue Tokaiはコーヒー豆も多く販売している。


筆者はよく家にデリバリーして飲んでいる。コップのデザインも素敵である。



Third Wave Coffeeは2013年創業。公式サイトには「店舗数は90以上」と記載がある(2023/9/22確認)。


Third Wave Coffeeはバンガロール発のカフェなので、バンガロールには多くの店舗がある。
バンガロールにあるThird Wave Coffeeの第一号店の店内。

筆者の友人のインド人に聞いてみたところ、Third Wave Coffeeは食べ物のメニューが豊富なことが人気の理由の一つなのではないか、と数人が言っていた。
確かに、Third Wave Coffeeは食事のメニュー数はスタバと比べると多い。あくまで軽食ではあるものの、レジ横のケースに入っているパンなどのメニューが中心のスターバックスよりは充実している印象だ。

フムス&ピタ(パン)のプレートとパンケーキのメニュー
Third Wave Coffeeで最近スタートしたというベーグルシリーズ
ベーグル、さすがに写真ほどのボリュームはなかった…。でも美味しい。


筆者はスターバックスにも行くものの、せっかくインドにいるのだから…という気持ちもあり、スタバと比べると、Third Wave CoffeeとBlue Tokaiの店舗に行って仕事をしたりデリバリーでオーダーしたりすることの方が比較的多い。


また、2022年8月には、カナダのコーヒーチェーン店「Tim Hortons(ティムホートンズ)」がデリーにインド初の店舗をオープンした。今後3年間で100店舗以上を展開する計画を打ち出している。

つい先日(2023年9月)、バンガロールにも店舗をオープン。筆者はオープン2日目に行ってみたのだが、多くの若者で賑わっていた。

オープン2日目のバンガロールのティムホートンズ、コラマンガラ店
オープン2日目だからか、店内は風船などで飾り付けられていた






伸びる市場においてのスタバの工夫


新興コーヒー店の伸びを見ていると、一見するとスタバがうまく行っていない、もしくは押されているようにも見える。
ただ、現時点では悲観的になることはなさそうだ。

2023年度、スターバックスのインド売上高は、10年前(2012年10月)にインドに店舗を構えて以来初めて10億ルピーを突破した。10億8,700万ルピーとなり、2022年度比で71%増加した。(参考

スターバックスは店舗網の拡充に意欲的だ。2022-23年度は71店舗をオープンして新たに15都市に進出した。年間の新店舗オープン数では過去最多だ。これで店舗がある都市数は41となった。


タタ・スターバックス(インドのスターバックス)のCEOのSushant Dash氏は「競争を無視することはできない」と述べつつ、「しかし、より重要なのは、自分の得意なことをすることであり、それを一貫して、消費者の要求通りにやっていれば、正当なシェアを獲得できる」と自信をのぞかせた。(参考


そんなインドのスターバックスは、どのようにシェアを獲得していくつもりなのだろうか。

最近では、ローカライズ施策をいくつも行なっている。

例えば、インドのスターバックスは今年に入ってからショートサイズ(240ml)よりもさらに小さい、177mlの「ピッコ」サイズを導入した。

ピッコサイズ。筆者の手のひらに収まるくらいのサイズである。

一般でMサイズに当たる、スターバックスの「トール」は350mlなので、ピッコサイズはその半分程度ということになる。

トールサイズ(右)と比べてみるとかなり大きさが違うことがわかる。

これは、以下の2つの理由があると考えられる。
①インドではチャイを少量カップ(50ml程度)で飲む文化がある
②安価なオプションを提供するためだと考えられる。


②について、スターバックスは他のチェーン店に比べると相対的に高い。

例えばバンガロール中心部のカフェで、ホットのカプチーノをスターバックスのショートサイズ(250ml)相当のサイズの商品で比較すると

  • Cafe Coffee Day:195ルピー(約349円)

  • Blue Tokai:190ルピー(約340円)

  • Third Wave Coffee:199ルピー(約357円)

  • スターバックス:231ルピー(約414円)

というように、スターバックスが頭ひとつ抜けて高いのである。

ちなみに、スターバックスの店頭表示価格は「220ルピー」となっていたが、それは税抜表記だった。
この記事を書くために改めて店舗にも足を運び購入し、値段を確認する中で、上記の4つのチェーンの中だとスタバのみ税抜表記であることに気づいた。安く見せたいという意図があるのだろうか。



筆者がよく飲むホットのフラットホワイトだともう少し価格差があり、Cafe Coffee Dayとは100円程度差があった。(同じくスターバックスのショートサイズ相当のサイズの商品で比較)

  • Cafe Coffee Day:200ルピー(約358円)

  • Blue Tokai:190ルピー(約340円)

  • Third Wave Coffee:239ルピー(約428円)

  • スターバックス:268ルピー(約480円)


というわけで、スターバックスにおいて(量は少ない代わりに)安価な選択肢ともなっているピッコサイズだが、どの飲み物でも注文できるというわけではない。
現時点では6種類のメニュー(カプチーノ、カフェラテ、ココア、フィルターコーヒーと2種類のチャイ)のみである。

赤枠で囲った部分のメニューのみ「ピッコ」サイズが注文できる


ピッコサイズの開始をアピールする看板


ピッコサイズのドリンクが125ルピー(約225円)でオーダーできる
というキャンペーンが9/23-24に行われた。※税・配送費別




ちなみに、このピッコサイズ導入を以てして「インドのスタバの低価格路線」と報じられることもあるが(参考)、必ずしも全体的な値下げ等、「低価格に寄せている」というわけではない。

裾野を広げるために、あくまで低価格の商品「も」作った、と捉えるのが良さそうだ。先述の通りピッコサイズがあるのは一部のメニューだし、全体としては依然として相対的に高価格だ。
例えば、この前飲んだスタバの季節限定ドリンクは425Rs(約700円)と日本基準から考えても安くはない価格だった。



またインドのスターバックスは「ピッコ」サイズの導入以外に、メニューのローカライズも行なっている。
具体的には、インドの文化を取り入れた、以下のメニューの販売を行なっている。

  • チャイ(マサラチャイ、カルダモンチャイ)

  • フィルターコーヒー

  • ミルクシェイク(チョコレート味、バニラ味、ストロベリー味)

フィルターコーヒーは先述の通り南インドでよく飲まれている飲み物だ。
またあまり知られていないが、ミルクシェイクもチャイと同様、インドの伝統的な飲み物である。

筆者には甘かったミルクシェイク



伸びる市場におけるインドのスターバックスの試行錯誤に注目だ。



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