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他者の想いを正しく伝えるということ。

先日、初めてインタビュー内容を文章に起こすお仕事をさせていただきました。話手の言葉を正しく文章化する難しさを実感するとともに、インタビュイーと読者に誠実でありたいと思いました。

何を書いたらいいのかわからない

そもそもの始まりですが、私は今年の夏頃から社内報の編集チームに加わりました。社内報といっても小さな職場内新聞のようなもので、幹部からのメッセージや職場のイベント告知、プロジェクトの報告、転勤の挨拶がほとんどです。

そんな中、定年後再雇用という形で再スタートを切られる方(Aさん)にご挨拶をいただくことになりました。
上司からAさんへのリクエストは「なんでもいいので何か一言ください」。校了日に急に決まった企画だったので、期限は当日午前中まで。
上司から用紙を渡されたAさんは、ペンを握ったまま途方に暮れていました。お昼になっても、私の手元には辞令交付式の写真のみ。挨拶の文章は一向に届きませんでした。

絶対に掲載したい

校了の時間があるので、気長に待つことは出来ません。声をかけようかと思っていた矢先、申し訳なさそうな表情でAさんが私の席までいらっしゃいました。手には白紙。
「伊東さん、ごめんなさい。何を書いたらいいんか、わからへんのですわ。こんなん書いたことないから」
デスクワークを生業にしている人なら日頃からメールや書類作成で文章に親しんでいるのでしょうが、Aさんは現場一筋何十年という職人さんです。仕事でメールを使う機会もまったくありません。突然、自分の気持ちを書いてと言われても、何をどう書いたらいいのかわからなかったのです。

「なんでも言われてもなぁ…口でやったらいくらでも喋れるんですけど」
「それなら、思いつくまま話してください。私が文章にします」

内心焦っていた私はつい勢いあまってそんな提案をしました。
校了まで時間がないし、掲載するならこの号しかなかい。なにより難病を抱えながら定年退職せず、再雇用という新たな一歩を踏み出したAさんの想いを職場の皆に知らせたかったのです。

想いを伝えるために

急遽設定されたインタビューで、Aさんは色々とお話ししてくれました。弊社に勤めて40年以上。仕事もプライベートも日頃の明るい姿からは想像できないような苦労をされていて、再雇用に対する思いも簡単なものではありませんでした。

昔を思い出しながらぽつりぽつりと紡がれる言葉を拾い集めて、行ったり来たりしながら、パソコンに打ち込んでいきます。Aさんは話すことが好きですが、言葉で表現することがどちらかというと得意ではありません。
語ってくださった思いを、明るさに隠された思いを、遜色なく伝えるためにはどんな文章にするべきか。必死に考えながら記事にまとめました。

完成した記事をAさんはとても気に入ってくださいました。職場でも多く読まれているようで、「記事を読んで〇〇君が声をかけてくれた」と嬉しそうに教えてくださいます。うまくできるか一か八かでしたが、チャレンジしてみて本当に良かったです。

最後に

私は素人なので、本職の方がどのようにお考えかはわかりません。ただ、インタビューは創作してはいけないと感じました。これは「Aさんの言葉」であって私の「作品」ではないので、私というフィルターを通さない「Aさんの言葉」を伝えなくてはならないと。

動画と違って文字情報は、言葉選びや語尾ひとつで意図するところやニュアンスが変わってしまいます(動画も切り取られたら同じですが…)。そして読み手には、どんなものでも「Aさんの言葉」として伝わってしまいます。誤解を生まないためにも、インタビュアーの想像ではない内容を読者に届けなくてはならないと思います。

以上、いち社内報編集者の戯言でした。


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