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【サブスク解禁記念】back numberがもたらすのは、普遍と奇跡ときらめき?

 back number(バックナンバー)。2019年の今、日本人の大半に知られている3ピース・ロックバンド。1stフルアルバム「あとのまつり」は全て失恋に関わる曲で、ソングライティングを担当する清水依与吏さん(以下、敬称略)は、メジャーデビューしてからも楽曲の主題に「恋愛」を置くことが多い。人の心の痛みと、時には喜び、葛藤。恋愛以外でのそれも同様に、等身大で描く。そんな彼らの楽曲は、好きな曲を何度も聴く、日本人のストリーミングを介する音楽の聞き方とマッチするとずっと思っていた。そして先日、LINE MUSICの先行配信期間が終了し、ついにApple MusicやSpotify、AWAなど、各サブスクリプションサービスでベストアルバム『アンコール』までにリリースされた全ての楽曲が配信された。『瞬き』『オールドファッション』などはまだ聴けないけど、ともかく『クリスマスソング』『花束』『ハッピーエンド』などはいつでもどこでも聴きたい時に聴けるようになったわけだ。人生に寄り添う彼らの楽曲を、より多くの人が聴けることを記念して、大学生になり自分のアルバイト収入というものを手にして以来one room(ファンクラブ)の会員を継続している僕なりに彼らを改めて解釈したい。

 back number(バックナンバー)。2019年の今、日本人の大半に知られている3ピース・ロックバンド。1stフルアルバム「あとのまつり」は全て失恋に関わる曲で、ソングライティングを担当する清水依与吏さん(以下、敬称略)は、メジャーデビューしてからも楽曲の主題に「恋愛」を置くことが多い。人の心の痛みと、時には喜び、葛藤。恋愛以外でのそれも同様に、等身大で描く。そんな彼らの楽曲は、好きな曲を何度も聴く、日本人のストリーミングを介する音楽の聞き方とマッチするとずっと思っていた。そして先日、LINE MUSICの先行配信期間が終了し、ついにApple MusicやSpotify、AWAなど、各サブスクリプションサービスでベストアルバム『アンコール』までにリリースされた全ての楽曲が配信された。『瞬き』『オールドファッション』などはまだ聴けないけど、ともかく『クリスマスソング』『花束』『ハッピーエンド』などはいつでもどこでも聴きたい時に聴けるようになったわけだ。人生に寄り添う彼らの楽曲を、より多くの人が聴けることを記念して、大学生になり自分のアルバイト収入というものを手にして以来one room(ファンクラブ)の会員を継続している僕なりに彼らを改めて解釈したい。

 僕は7年前、高校1年生の時に『青い春』で初めて彼らを知った。そして2014年頃にリリースされた『fish』を、クラスの友人から何度も何度も勧められた。歌詞の「頭の中を回る回る」というフレーズ同様、気がつくと僕の頭の中でback numberの曲がぐるぐると回転していた。あの時僕は彼らが生み出す「メロディ」に惹かれていたのだと思う。聴き心地のよさ、だろう。

 大学一年の冬に、アルバム『シャンデリア』のツアーに行ってからツアーはどこかの公演で必ず参戦しているのだけれど、その度に思うことはボーカルの清水依与吏がとてつもない葛藤とともに普遍的な楽曲を生み出している、ということだ。周りに音楽が好きな友人が多くて、彼らはよくback numberをこう斬り捨てる。「どの曲も同じ」と。そりゃあアレンジャーに小林武史氏が付いている楽曲には独特の雰囲気とかあるし、とかそういう話をしたいのではない。「どの曲も同じ」と、まるで楽曲制作マシーンのような印象すら持たれている可能性もある清水依与吏だけど、一度ライブに足を運べば、わかる。人間臭すぎるのだ。

 昨年行われた自身初のドームツアー千秋楽。京セラドーム公演、僕は二日ともにライブに足を運んだ。そして清水依与吏は、二日間とも同じタイミングで、涙を堪えていた。その涙の理由は、ドームツアーを完走できたという達成感とか、そんなものではない。彼は、彼ら自身が言うように「スーパースター」になった今でも、京セラドームのステージのど真ん中で恐怖の感情を吐露していた。初日はよくわからなかったその恐怖の理由が、二日目になって「最近締め切りまでに曲を書けなかった」と言う話で判明していく。セオリーなんてわからない、いつ曲を書けなくなるかわからない恐怖、その全てを吐露する彼の姿。涙を流さないために、必死に瞬きを繰り返していた。そして、そんな感情も、全て背負って、これからも命を削って曲を作っていく––––そう宣言してから歌われた楽曲が新曲『大不正解』だった。

僕らは完全無欠じゃない 原型を愛せる訳でもない その無様に移ろう形を 安い化けの皮を 噛みつきあい剥ぎ取りあって 互いを見付けて来たんだろう 補い合うのなんざご免なんだ さあ好きに踊ろうぜ (大不正解)

 涙を堪えながら歌唱した「僕らは完全無欠じゃない」。カッコいい、と思った。この人はどこまで行っても等身大なんだ。弱いまま、スーパースターになった。そのことすら受け入れて、命を削って歌詞を書き続けているんだと、毎度ライブに通っていたけれどこの時初めて実感させられた。

 普遍的であることは、楽なのか、それとも。この感覚とは長らく僕も戦ってきたつもりだ。「色々なことやってて羨ましい」だとか、そんなことを言われるけれど、僕からしたら普通であるほうがよっぽど難しいし、何より一般大衆にとっての普遍を掴み定義すること、これは相当な難易度だと思う。Mr.Children桜井和寿、槇原敬之、往年のGLAY、など時代に愛された芸術家たちは皆、圧倒的な普遍の感覚を持っている。「時代に愛されること」はつまりその時代の普遍を象徴すること。はみ出すことは思いの外簡単で、波長に合わせることも簡単だ。だけど、普遍を言語化することはあまりにも難しい。そして、本物はそれに長けている人たちなんだ、といつも思う。

  話をback numberに戻せば、上から平和を語るわけでもなく、ある個人の特別な感情を吐露するわけでもなく、日本国民5000万人ほどが思っているけど言葉にうまくできないことを次々と芸術に昇華していっているのが彼らの人気の所以だろう。その表現は、直接的なものから、間接的なものまで。

何かの間違いで 好きになってくれないかな どうにも 君のいない場所は空気が薄くてさ (HAPPY BIRTHDAY)

  最新曲のワンフレーズ、口にするのすらはばかられる言葉でありつつも、「君のいない場所は空気が薄い」と彼にしかできない表現で芸術性も残したり、

橋から見える川の流れは今日も穏やかで 日差しを反射して きらきらと海へ向かっていく (光の街)

  情景描写のみながら、この景色が見える人ってどういう気持ちでどんな状況なのか、と想像を膨らませると全てを掴むことができるフレーズを書いたりと、その表現の幅は本当に広い。

  それもこれも、特別な景色ではなく、日常に当たり前に起こり得る景色だ。僕のシリーズ、「生活とともに生きる」ともダブるけど、結局芸術やきらめきの本質は普通に生きてて目の前で見ることができているのに見落としてしまうものたちなのだと思う。大半の人の生活は忙しくて、そんな小さなことに眼を見張る余裕もないので言語化できないのだけれど、でもみんな、本当は知っている景色だ。だからこそback numberを聴く。自分が実は、あんな景色を見ていたんだ、こんな感情を抱いていたのだと、気づかせてもらえるから。そういう意味での等身大で、代弁者。それが彼らが国民的ロックバンドという地位まで上り詰めた秘密だと、僕は強く思う。

  『逃した魚』のリリースから10年だ。言葉が白く目に見える季節も、もう行ってしまう。そして、悲しい季節である春がくる。そんな春にリリースされるアルバム『MAGIC』は、僕らをどこへ連れていくのだろう。とか考えて、僕たちはついつい、奇跡をどこか遠い場所に求めてしまう。

  きっとそう遠くないところで、魔法にかかっているのだろう。

#backnumber #音楽 #コラム #エッセイ #日記 #文章

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