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「労働/生存運動」の活動記録――雨宮処凛『雨宮処凛の闘争ダイアリー』(集英社、2008年)評

むきだしの資本主義経済の下で、不安定な労働/生存環境に置かれた人々(フリーター、派遣労働者、ネットカフェ難民、野宿者、ニート、シングルマザーなど)が急増している。彼らは新自由主義の先進諸国に共通する存在であり、ワーキングプア(働く貧困層)、プレカリアート(不安定なプロレタリアート)とも呼ばれる。

本書は、若者の貧困の現実を取材した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(大田出版)の刊行を契機に「ワーキングプアの逆襲」と称する「労働/生存運動」に奔走する作家・雨宮処凛の一年間(2007年3月-2008年2月)の活動記録である。週刊ウェブ雑誌『マガジン9条』での連載を書籍化したものだ。ではこの「労働/生存運動」とは何か。

国策としての雇用流動化の結果、安定した仕事がない、ゆえに住居が得られない、という若年の「難民化」が進行した。この事実は、正社員に対しては「ああなるのが嫌ならもっと働け」という恫喝として機能し、他方で困窮者の弱みにつけこむ「貧困ビジネス」が跋扈し始めた。しかし、貧困に対処すべき政府は「自己責任論」を持ち出し、政府責任を放棄した。

そうした中、生きられなくなった若者たちが連帯し、各地で「生きさせろ」と立ち上がったのが「労働/生存運動」だ。本書はそうした「現代の米騒動」をつぶさに記述する。フリーター労働組合の結成と街頭デモ、違法派遣会社に対する集団訴訟、山形国際ドキュメンタリー映画祭での『遭難フリーター』上映、反貧困を訴える選挙活動、弁護士や支援者が連携した「反貧困ネットワーク」の結成など、全国各地の運動現場を渡り歩き、それらをつなぎ合わせ、自身もそれを促進し、その様子を臨場感たっぷりに伝える。まさに、彼女のあだ名「ワーキングプアのジャンヌ・ダルク」そのものだ。

若者の運動が実際に社会や政治を変えていく、その興奮や手応えが、読む側にもリアルに伝わってくる現場リポートである。希望は、「運動」だ。(了)

※『山形新聞』2008年08月10日 掲載


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