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AV女優に見る震災の影――山川徹『それでも彼女は生きていく:3・11をきっかけにAV女優となった7人の女の子』(双葉社、2013年)評

東日本大震災をきっかけに、AV(アダルトビデオ)の世界に足を踏み入れ、自らの裸や性行為をさらしてお金を稼ぐようになった女の子たちがいる――。

ルポライターの著者(上山出身)は、被災地をめぐる旅の最中、そんなうわさを耳にする。「東北学」をバックボーンに、上京した若者たちや被災地の人びとのリアルを活写してきた著者がとっさに思い浮かべたのは、1930年代初め、恐慌と凶作で困窮化した東北の農村で、少女たちが、家の借金のために女中奉公や紡績女工、さらには花柳界へと身売りされていったという悲しい現実だった。もし噂が本当なら、東北の悲しき歴史は、豊かになったはずの現代日本でふたたび繰り返されているということになる。

取材を始めた著者は、震災をきっかけにAVに出演したり、性風俗で働きだしたりしていた女性たちに難なく行き当たる。うわさは本当だった。著者は、この胸がふさがれるような現実を、彼女たち自身の言葉で記録しなければ、と思い立つ。本書は、そんなふうにしてまとめられたルポルタージュだ。宮城県や岩手県、福島県出身のごく普通の女の子たち七人の、AV女優として働くようになった経緯やその胸中が淡々と語られている。

ある者は、震災で失職した家族に負担をかけまいと自活可能な賃金に惹かれ、またある者は、震災で価値観を揺さぶられ「今しかできないこと」を求めて、AV女優となっていた。インターネットの就職情報サイトで普通に求人が出ているという。地方在住のまま撮影のときだけ上京すればよいAVの仕事は、彼女たちが、学校や職場での日常と両立できるかなり現実的な選択肢でもあるのだった。

支援の届かぬ場所で、自らの性をさらして生きる人たち。そこに人の逞しさを見るか、それとも世の酷薄さを見るかは人それぞれだろう。だがまずは、そのような人びとが私たちと同じ社会を生きているという現実に目をこらそう。ここにあるのもまた、私たちの社会の自画像なのである。(了)

※『山形新聞』2013年04月21日 掲載

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