短編小説:メスシリンダーと彼女
※百合小説です。
そんなことは分かっている。あの子が私との距離が近いのは「同性」だからだって。
教室で戯(たわむ)れて遊ぶとき。
一緒にアイスを食べるとき。
一緒に登下校するとき。
たまに、あの子が手をつないでくれるのも、きっと、私のことを「親友」や「親しい友達」枠に入れているからだ。
でも私は違う。あの子のことを「好き」なのだった。
「ほら、マキちゃん、またぼーとしてる。うりうり」
こうやってスキンシップしてくる。マキちゃんは私。
肘でうりうりしてくるかと思えば、ぎゅって抱き着いてきたり。
もちろん、されるほうの私は、たまらないのだ。好きすぎて、好きすぎて、逆に押し倒したくなってしまう。
いや、逆でもいい。押し倒されたい。
あの子と一緒のお布団で、ぬくぬくしたい。そうしてずっと、一緒にいたい。
でもそうすることは、彼女が私を「親友だ」と思っていることへの、裏切り行為かもしれない。
彼女の瞳を一日中見ていたいのに、彼女は私より前の席だから、瞳を見ることはできない。
代わりに、綺麗な黒髪ストレートはいつも堪能することができる。
その華奢な細い肩も眺めることができる。
本当は、その体にガシっと抱き着いて、私もうりうりしたいのだ。でも恥ずかしくてできない。いつもされる側だった。
理科の時間、メスシリンダーの目盛りをこちら側から読むようなふりをして、反対側からメスシリンダーを覗いているあの子の瞳をひっそりと観察する。
日本人にしてはやや薄い、茶色い目。大きくてパッチリしている丸い形。とてもかわいい。
目をじっと見ていたら、彼女の目が動いて、こちらを向いて視線が合った。
慌てて視線をそらして、見ていないふりをした。
メスシリンダー。この世界にはオスシリンダーは存在しない。
女の子だけの、女の子同士の秘密の関係。
そうなりたいのに、一歩踏み出せない。
その日の帰り、二人で帰るとき、久しぶりに手をつないで帰った。
普段はじっと瞳を覗き込むなんて、恥ずかしくてできない。目を合わすことはほとんどない。
でも今は、手のぬくもりをこれでもかと、感じていた。
私の彼女への愛は、メスシリンダーの目盛りを超えて、今にも、あふれそうだった。
手をつなぐだけでも、今は、幸せです。
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