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規制サバイバル 厳格化する世界を攻略せよ 2023.01.30 3/3




日経ビジネスの特集記事 63

規制サバイバル 厳格化する世界を攻略せよ 2023.01.30 3/3

<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>

CONTENTS

PROLOGUE 覇権国の規制に揺れる日本

PART 1 各国で“見えないルール”も避ける時代 経済安保、企業活動に網 海外規制の「域外適用」も

PART 2 黙って従うか、抗って変えるか 成長競争に出遅れる 現場に広がる焦燥感

PART 3 ルールと戦う企業が見る景色 規制の最前線に立ち 道を開く企業家の志

EPILOGUE 企業よ、泥を被る苦痛に備えよ 



第3回は

PART 3 ルールと戦う企業が見る景色 規制の最前線に立ち 道を開く企業家の志

EPILOGUE 企業よ、泥を被る苦痛に備えよ


を取り上げます。


弱肉強食の世界で一定の規律を保つため設けられる規制。それは強きを制限する“鎖”であり、弱きを守る“傘”でもある。自由競争を是としてきた戦後の国際秩序は、対立する大国の思惑に左右されて、新たな規制の網に覆われつつある。規制を使いこなせばゲームチェンジャーにさえなれるのだ。


PART 3 ルールと戦う企業が見る景色 規制の最前線に立ち 道を開く企業家の志

ルール活用の巧拙が企業の明日を左右する。

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楽天グループ(医療・通信)
「トップ外交」が新たな扉をこじ開ける

楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、父親が膵臓がんと診断され、国内外を飛び回り治療法を探したそうです。

たどり着いたのが、オバマ米大統領(当時)が12年の一般教書演説で紹介したばかりの「光免疫療法」。三木谷氏は、開発と実用化のライセンスを独占していた米アスピリアン・セラピューティクス(現楽天メディカル)に個人で出資した。

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行動が速いですね。

楽天の三木谷浩史氏(中)にとって医療は「未来を大きく変えるビジネス」だ
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問題は「光免疫療法」の製造承認です。
通常の手続きでは年数がかかってしまいます。

「世界最速でがん患者に提供したい」。周囲にこう檄(げき)を飛ばす三木谷氏に突き動かされ、アスピリアンは15年に米国で、18年には日本でも治験を始めた。

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その結果___。

楽天メディカルは日本法人を通じて「先駆け審査指定制度」「条件付き早期承認制度」といった日本の仕組みを利用し、20年9月には「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸(けい)部がん」を対象に、薬剤の製造販売が承認された。光免疫療法が保険適用になり、がん患者への提供が可能になった。日本が最初の承認国になると薬価が低くなる展開も見えたが、「世界を変える」ことにこだわる三木谷氏にはそれほど大きな問題ではなかったはずだ。

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ロビー活動

主にIT系企業が参加する経済団体「新経済連盟」を設立して代表理事を務める三木谷氏は、与野党を問わず国会議員へのロビー活動に取り組んできた。
政府の産業競争力会議のメンバーでもあったため、ここから官房長官時代の菅義偉前首相と気脈を通じた。「携帯料金の高止まりを是正するのに楽天を利用するよう持ち掛けた」(菅氏側近の自民党ベテラン議員)とされる。

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伝家の宝刀というよりも奥の手を使ったとも言えますね。

楽天グループの喫緊の課題

リーダーシップを発揮し、先頭に立って様々な領域に風穴を開けてきた三木谷氏。だが、振り返れば楽天は傷だらけにもなっている。携帯事業が財務を圧迫し、22年1~9月期は同期間で4年連続の最終赤字に沈んだ。新たに切り開いてきた領域で楽天は果実を手にできるのか。三木谷氏の手腕が改めて問われている。

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Luup(電動キックボード)
関係者を巻き込み“異物”の認知を広げる

電動キックボードは新たな移動手段として期待されています。
ですが、安全性や法改正に対する認識がまだ不十分であると思っています。

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警察は違反行為の取り締まりを強化している
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電動キックボードの法整備が早く進んだ2つのポイント

公道の“異物”とも捉えられていた電動キックボードの法整備はなぜこうも早く進んだのか。ポイントは2つある。まず一つは地方自治体を積極的に巻き込んでいったことだ。

19年4月、Luupは浜松市や奈良市など5つの自治体と実証実験を含む連携協定を締結した。地方の一部地域では、人口減少や高齢化を背景に、近距離の移動手段が乏しくなっている。「課題を解決してくれるなら」と協力には積極的だった。

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もう一つのポイントは業界団体の早期立ち上げだ。19年5月には電動キックボードのシェアリングサービスを目指す数社と「マイクロモビリティ推進協議会」を設立した。

省庁との窓口を一元化することで、コミュニケーションを円滑化することが狙いだった。

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事故が多発するリスク

改正道交法が施行されると、16歳以上であれば免許なしに電動キックボードを運転できる。歩行者ひしめく歩道を走っても制限速度内なら罪には問われない。その副作用は容易に想定される。交通ルールを知らない、あるいは軽視する利用者による事故が多発するリスクがある。
既に足元では違反件数が増えている。警察庁の資料によれば、22年4~6月の検挙・指導警告の件数は692件と、前四半期比で約1.7倍に増加した。22年9月には都内で全国初の死亡事故も起きた。報道によれば、死亡者は酩酊状態で運転しており、駐車場の車止めブロックに衝突、転倒したという。

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事故や違反をいかに防ぐか

事故や違反をいかに防ぐか。講習会などを開いて交通ルールの徹底を促すだけでは足りない。そこで各社はテクノロジーを導入してリスクを回避しようと模索する。

東京都立川市などでシェアリングサービスを展開しているBRJ(東京・港)は、GPSを用いたジオフェンシング機能を電動キックボードに搭載した。指定エリア内に電動キックボードが進入した際、上限スピードを自動的に下げたり、走行自体を停止させたりする機能だ。

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Luupも手をこまぬいてはいない。21年には全地球測位システム(GPS)だけでなく、数cmの精度で位置が分かる準天頂衛星システム「みちびき」まで利用し、キックボードの位置を詳細に割り出す実証実験を行った。
改正道交法では歩道での走行を時速6kmに制限する見通しだ。車両が車道にあるのか、歩道にあるのかを精緻に把握できれば、制限を超えないようにする仕組みなどを導入できる。

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解決すべき課題はまだありますね。
自転車と歩行者の問題もまだ未解決です。自転車専用道路が整備されている地域は限られているため、歩道を走る自転車が絶えません。

自転車は軽車両ですから車道を走らなくてはなりません。車道に車が停止していて、走行が困難な場合などでは歩道を走ることは認められています。


自転車の走行について 警視庁


猛スピードで後方から走ってきた自転車に、歩行者が恐怖を感じた経験は一度や二度ではないはずです。

私も恐怖体験をしました。歩道を歩いていた時、後方から猛スピードで横をすり抜けていったのです。幸い、ショルダーバッグにハンドルが当たっただけですみましたが、身体に衝突したら大怪我をすることもあり得ました。

電動キックボードは車道を走ることが義務付けられているようですが、自転車と同様な事態にならないとは誰も言えないでしょう。


UPDATER(新電力)
「規制後」こそ正念場、独自路線で乗り越える

電力小売業への参入規制が撤廃されたのは16年4月のこと。これを機に新電力は日本の販売電力量の2割を占めるまでに成長した。だが燃料の高騰などを背景に電力の調達が難航し、昨今は撤退や倒産を迫られる新電力が相次ぐ。

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新電力に関係する事柄として必ず出てくるのは太陽光発電です。売電も関わることでしょう。売電価格は低下傾向にあります。

電力調達モデルの転換は不可避だ。そこでUPDATER(東京・世田谷)は電力生産者が分かるブロックチェーン技術を活用し、複数の発電事業者と長期の購入契約を結んでいる。23年度までに、太陽光を中心に最大700カ所程度の中小発電所と契約する計画だ。その規模は発電能力で計4万キロワット規模、年間発電量ベースでは一般家庭約1万2000世帯の需要に相当する。

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AIを活用した予測技術を活用し、固定価格で電力を購入する例

太陽光発電の施工や人工知能を活用した予測技術をフル活用し、再エネの発電設備を持ちたい事業会社から施工を請け負い、長期の固定価格で電力を購入する。既に関東地域で農地に太陽光パネルを置く「営農型発電所」の開発を進めており、関西や中部ではため池の水面に設ける太陽光発電所も計画している。

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撤退した新電力会社は7倍に膨らんだ

●新電力会社の年度別撤退件数 出所:帝国データバンク調査
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新電力で稼ごうと目論んだ企業の多くは、目論見が外れ、撤退を余儀なくされました。


Seibii(自動車整備)
現場の不満を力に変えて業界変革起こす


Seibiiとは?

神奈川県に住む運送業の男性は年明けのある日、自家用車のエンジンがかからなくなっていることに気が付いた。整備工場に直接持ち込むのは難しい。レッカー移動という手段もあるが、コストがかかる。悩んでいたところ目にしたのが、Seibii(セイビー、東京・港)が全国展開する出張整備だった。整備士が現場まで来て修理をしてくれるという。
自宅そばの駐車場までやってきたセイビーの整備士はボンネットを開き、不具合の原因を探る。エンジンと車用オルタネーター(発電機)とをつなぐベルトが切れていることを確認すると、手早く車をジャッキアップし、修理を施していった。要した時間は40分程度だ。

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自動車整備業界にも理不尽な規制が存在します。法制化されたのが半世紀以上前であっても、規制撤廃や規制緩和が進んでいない実態が明らかになっています。

約70年前に成立した道路運送車両法と付随する省令によれば、原動機や制動装置といった、車が「走り」「止まり」「曲がる」ために必要な部品の交換や分解は「特定整備」とされ、地方運輸局長の認証を得た事業場(整備工場)で行う必要がある。項目は多岐にわたり、ブレーキパッドの分解や交換に加え、オルタネーターやスターターモーターの交換にともなう分解なども特定整備に当たる。

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約70年も経てば、車の性能だけでなく、部品の改良もされ、整備士の技術向上は目覚ましかったはずです。

まだ十分に普及しているとは言い難いですが、EV(電気自動車)は部品点数が大幅に減少しています。エンジンではなく、モーターに変わるだけで部品点数が減るだけでなく、整備士の作業時間も減ることでしょう。

定期点検や車検も点検項目が変わり、コンピュータ診断も大きく異なっていると推測できます。


●自動車のアフターマーケット市場規模(兆円) 
注:白字は自動車整備事業の領域。
各金額は概数のため合計は市場全体の金額と一致しない
出所:出張自動車整備推進協会
規制サバイバル 厳格化する世界を攻略せよ 2023.01.30


自動車整備業界も人で不足が深刻化しています。その主な理由は、厳しい職場環境と低い給与だそうです。

自動車整備業界の実態

自動車整備業界は深刻な人手不足に悩む。有効求人倍率は4倍超だ。現場は少人数で多くの車に対応しなければならず、不正車検が起こりやすくなっているという指摘がある。

整備士不足の背景にあるのは厳しい職場環境と低い給与だ。厚生労働省の統計によれば自動車整備・修理従事者の賃金は全産業を下回る。「朝から深夜まで働きづめなのに給与はわずか。家族は養えないと思った」。冒頭の久保田整備士はこう振り返る。厳しい待遇を嫌気して人材は流出し、新たな担い手も育ちにくい環境だ。

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セイビーが整備士の待遇を改善

整備士と顧客とを直接結び付けることで、セイビーの整備士の待遇は向上した。久保田整備士の収入は大幅に増えたという。400人ほどいるセイビーの整備士のうち100人以上は異業種に流出していた「元整備士」だ。専門性に焦点を当て、プロとしての誇りを守ろうとする姿勢を示すことで、業界を去った整備士たちがセイビーに引き付けられている。

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実は大規模な自動車整備事業の市場

●自動車のアフターマーケット市場規模(兆円) 
注:白字は自動車整備事業の領域。
各金額は概数のため合計は市場全体の金額と一致しない
出所:出張自動車整備推進協会規制サバイバル 
厳格化する世界を攻略せよ 2023.01.30


自動車整備市場は5.5兆円、関連市場を含めればさらに膨らむ。自動車インフラの一角を支える巨大な産業の壁は厚い。セイビーは蟻(あり)の一穴を開けられるだろうか。

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EPILOGUE 企業よ、泥を被る苦痛に備えよ

ここからはお2人の識者の意見をご紹介します。
1人は、メディアでよく見かける早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏です。もう1人は、規制改革推進会議議長の大槻奈那氏です。


早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏

どうでもいい規制が多すぎる

「日本経済の復活には企業間で切磋琢磨(せっさたくま)を重ねる必要があるが、どうでもいい規制があまりにも多すぎる。企業は既得権益に浸って競争力を失い、新しい事業を生み出す可能性を手放している」

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は日本にはびこる規制について、こう説く。守るべき規制を拡大解釈し、守らなくていい規制まで設けている環境は、企業同士のなれ合いにつながる。

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「日本企業には、ルールの隙間を狙って有利な陣地をつくる泥臭さが足りない」

入山 章栄[いりやま・あきえ] 
早稲田大学ビジネススクール教授 1972年東京都生まれ。
慶応義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、
2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号を取得し、
米ニューヨーク州立大学バッファロー校
ビジネススクール助教授に就任。19年から現職。
主な著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)。
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規制改革推進会議議長の大槻奈那氏

政府支出が経済に与える影響は低下している

22年10月、政府の規制改革推進会議で議長に就いた大槻奈那氏は、「政府の支出を伴う経済対策は、効果を失いつつある」と語る。

「労働投入量の不足を主因に潜在成長率が低迷しているが、人口は今後も確実に減少する。手をこまねいていると成長率の低下に歯止めがかからない。政府は経済対策に乗り出してきたが、その多くは貯蓄に回ってしまった。政府支出が経済に与える影響は低下している」

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「ゼロリスク志向を捨て、イノベーターのために席を譲るよう大企業に促せるか」

大槻 奈那[おおつき・なな] 
規制改革推進会議議長 ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー、
名古屋商科大学ビジネススクール教授。東京大学文学部卒。
英ロンドン・ビジネス・スクールでMBA、一橋大学で博士号を取得。
証券会社のアナリストを歴任し、
財務省の財政制度等審議会委員なども務める。
2022年10月、規制改革推進会議の議長に就任。
規制サバイバル 厳格化する世界を攻略せよ 2023.01.30


🔴日経ビジネスは最後に次のように述べています。

生き馬の目を抜くような世界で、日本だけがぬるま湯に漬かり続けることはできない

日本は国際社会で相対的に優位な立場を築いてきた。しかし諸外国も規制を巧みに活用して自国の地位向上を図っている。生き馬の目を抜くような世界で、日本だけがぬるま湯に漬かり続けることはできない。

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🔷編集後記

私は規制には3種類あると考えています。1つ目は官製規制、2つ目は業界規制そして3つ目は企業内規制です。

企業内規制は規制というよりも制約や制限といった方が適切かもしれません。

いずれにせよ、なぜ規制が存在するかと言えば、既得権益を守る側の都合によるものや、今までずっと続いてきているので、敢えて変える必要はないという改革反対派の勢力が強いからと考えています。

不合理であっても撤廃や緩和はしないという姿勢を崩しません。

ただし、日本は昔から外圧に弱く、海外から規制撤廃を要求されると受け入れてしまう傾向があります。国内からの規制撤廃要求は断固としてはねのけるのとは対照的です。


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