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東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 3/3 2014-10-31 17:55:22



<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>



東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 3/3 2014-10-31 17:55:22



CONTENTS

PART 1 最後の 繊維メーカー

未来の教科書に載る 世界一の異業種コラボ ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正氏インタビュー

PART 2 石の上にも50年 執念で生き残る

PART 3 たとえ赤字でも撤退はあり得ない 東レ 日覺昭廣社長インタビュー

PART 4 「深は新なり」に潜むワナ



第3回は、

PART 4 「深は新なり」に潜むワナ


を取り上げます。


今週の特集記事のテーマは
今年は、東レにとって記念の一年になる。
会長の榊原定征氏が経団連のトップに就任し、
売上高と営業利益が今期、ともに過去最高となる可能性が高い。
世界最大の総合繊維メーカーとして、誰もが仰ぎ見る存在となった。
強さの源泉は長期的な視点に立った素材開発力にあるが、
従来のやり方だけでは市場の変化についていけない面も見えてきた

(『日経ビジネス』 2014.10.27 号 P. 026)
です。



東レ 勝つまでやり切る経営
(『日経ビジネス』 2014.10.27 号 表紙)


初回は、東レが、世界最大の総合繊維メーカーであることが理解できる内容でした。

2回目は、東レには、東レの勝利の方程式がある、ということをご紹介しました。

しかも、それは短期的勝利を狙うものではなく、長期的視点に立って勝利を目指すものである、ということでした。

最終回は、絶頂期を迎える東レに死角はないのか、という点に着目してお伝えしていこうと思います。


PART 4 「深は新なり」に潜むワナ


東レの88年の歴史を一言で語ることは、難しいかもしれません。

ただし、キーワードを並べてみますと、見えてくるものがあります。

私は、次の5つをキーワードに選びました

  • 世界最大の総合繊維メーカー

  • 東レの勝利の方程式

  • 七転び八起き

  • 石の上にも50年

  • 技術力に裏打ちされた製品群と市場独占


『日経ビジネス』取材班が遭遇したキーワードは、深は新なりでした。

取材を進める過程で、何度も同じキーワードに遭遇した。

「深は新なり」

東レ社内で長年語り継がれている、俳人・高浜虚子の言葉だ。1つのテーマを深く掘り下げていくと、新たな発見が生まれる。

この姿勢こそが、今の東レを形作ったと言える。繊維事業が稼ぎ頭であり続けられるのは、研究開発を通じて技術的な限界を深く追究し、新たな用途を提案し続けられたからだ。

「繊維は成長産業」であるという信念を貫いて投資を続けたことで、最後の総合繊維メーカーという独自の地位を手に入れた。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
p. 044 

多くの繊維メーカーが事業転換する一方で、東レは唯一、総合繊維メーカーであることにこだわり続け、繊維事業に投資し続けた結果、勝ち残ったのです。

愚直に、繊維の技術を深掘りし続けた先に、宝を発見したのです。

炭素繊維に代表される新たな成長分野を開拓できたのも、合成繊維の技術を深く掘り下げた結果だ。短期的に収益を稼げない事業であっても、粘り強く研究開発を深めれば革新的素材を生み出せる。
東レの今の業績は、それを雄弁に物語る。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
p. 044
 


炭素繊維を使って東レが試作した
電気自動車「TEEWAVE」
東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27


ここで、1冊の本をご紹介します。
2010年にノーベル化学賞を受賞した、根岸英一さんの『夢を持ち続けよう!』(根岸英一 共同通信社 2010年12月10日 第1刷発行)です。

この本の中に、根岸さんが恩師のハーバート・ブラウン先生(1979年ノーベル化学賞受賞)から直接学んだことが書かれています。

(ハーバート・)ブラウン先生(1979年ノーベル化学賞受賞)から習った一番のポイントは、発見の芽が出てきたとき、どうやってそれを大木に育てるかということです。
 
ああでもないこうでもないと、その芽から出てくるいろいろな可能性を網羅的かつシステマチックに追究する、その姿勢が非常にロジカルでヤマ勘みたいなものは入れません。
 
わたしも実践していますが、そういう手法はブラウン先生から学んだことです。
 
「重要なのは What's going on?、つまり、いま何が起こっているのかを正確に調べることだ」
 
これは耳にたこができるくらい聞かされました。

「それを解明することが第一歩である。推量で短絡的な結論を出してはいけない」と、厳密なファクト(事実)の追究に関しては本当に徹底していました。

『夢を持ち続けよう!』 根岸英一 pp. 69-70 


これは、研究者が立ち向かう研究テーマに対する姿勢を述べたものです。

同様な姿勢で、東レの研究者一人ひとりが、課題に取り組んでいると思われます。

そして、こうした姿勢は何も研究者だけのものではなく、私たち一般人でも、日々取り組んでいる課題に対して、真摯に向き合うべきある、と教えられた気がしました。


東レの話に戻ります。

昔の東レと今の東レの違いは何なのかと言えば、時間に対する取り組み方にある、と思います。

深さを追求する「時間軸」は、今と昔では様変わりしている。提携相手が求めるのは、何よりもスピードだ。東レといえども、のんびり時間を費やして技術を開発する余裕はない。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
p. 044
 

前回ご紹介した、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんは、次のように語っています。

「東レは運命共同体だ」と認める、ファーストリテイリングの柳井正社長からも、スピードに対して注文が付く。

「技術進化や情報伝達のスピードが上がっている。変化に対応するには、2社の力だけでは足りない」。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
p. 044 


東レもスピードの重要性は、十分認識しています。DNAチップのケースがありました。

独自の光ディスク加工技術を活用し、競合の100倍の感度で遺伝子情報を測定できる期待の技術だ。

開発者の新規事業開発部門DNAチップグループリーダーの信正均氏は、「徐々に認知度を高めればいい」と考え、事業化を急いでいなかった。民間で診断ツールとして使われるのは、10~20年後になると想定していたからだ。

しかし、ある研究機関にDNAチップを持ち込むと、担当者の目の色が変わった。

「全く新しいガンの診断ツールになり得るのではないか」

そこからとんとん拍子に話が進み、今年8月には東レのDNAチップを使った次世代ガン診断システム開発の国家プロジェクトが立ち上がった。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
pp. 044-045 



診断ツールに使えるDNAチップ
(写真=陶山 勉)
東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27


私がグールー(思想的指導者)と仰ぐ、大前研一さんは、現代社会を「ボーダーレス」「サイバー」「マルチプル」の3つのキーワードでまとめています。

ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源は、上記3つのキーワードで行き交うようになった、と語っています。

インターネットの普及で、国境を意識することなく、ゆうゆうと超え、複数倍で増えていくというのです。

ヒトにしてもインターネットを介すれば、全世界同時に現在地で、優れた人物から教育を受けられる時代になりました。

いわば、時空間をあたかも移動しているかのような感覚です。

インターネットは物理的な移動に代わって、電脳移動ともいうべき瞬間移動を可能にしました。

モノの移動も、直接人間でなくとも、ラジコンヘリのような「ドローン」(アマゾンやグーグルが試作)を使って、届けることが可能になりつつあります。

もちろん解決しなければならない法律の壁や安全性などの課題はありますが。

カネや情報の移動はインターネットと最も親和性が高いと思います。エンターキーでカネや情報の移動が一瞬のうちにできてしまいます。

こうした時代は好むと好まざるとを問わず、ものすごいスピードで変化しています。

世の中の素早い動きに対し、対応できない企業は淘汰されます。東レも例外ではありません。

短期、中期、長期に製品化する目標を明確化することが不可欠でしょう。

創業から88年、東レを牽引してきたのは、粘り強い研究開発に裏打ちされた技術力の高さと、技術の行方を見極める確かな眼力。そして、競合に勝つまで諦めずに事業を継続し続ける執念深さだ。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
p. 045 



『日経ビジネス』取材班は、強い東レに唯一の懸念材料を提示しています。

将来にわたって同じ成功パターンを踏襲できる保証はない。東レの新たなパートナーは、せっかちな結果を求めるはずだからだ。勝つまでやめない執念深さは、方向性を間違うと、負けを認められない未練にもなりかねない。間違いに気付いた時に、素早く方向転換できるスピード、も、今後は求められるようになる。

執念深さとスピード感。一見すると相反する2つの要素を兼ね備えた時、東レは真の優良企業になる。

東レ 勝つまでやり切る経営 2014.10.27 
p. 045
 


私は、東レは真の優良企業になれる、と確信しています。

最後に、2014年3月14日に日本記者クラブで開催された、日覺昭廣社長の記者会見の模様をご覧ください。

日覺昭廣 東レ社長 2014.3.14 1時間9分32秒

2014/03/16 に公開
Akihiro Nikkaku, President of Toray Industries, Inc.
研究会「成長戦略には何が必要か 現場からの視点」の5回目。
東レの日覺昭廣社長が会見し、「東レにおけるイノベーション
中長期視点での事業開拓」と題して話した。

長い時間をかけ商業化に成功した炭素繊維を例に、
イノベーションの実現には、事業開拓を支える枠組み作り、
経営者の理解と我慢、-担当者の情熱と執念が必要である、と。

司会 安井孝之 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)



🔷編集後記

この特集記事(元記事)が公開されたのは、9年前のことで、アメブロでも9年前(2014-10-31 17:55:22)のことでした。

大幅に加筆修正しました。

現在でも東レについて知っている人はあまりいないかもしれません。
東レと言えば、航空機の機体や自動車のボディなどに使われている炭素繊維が有名です。炭素繊維は軽量で強度が強い素材です。

今回の記事に掲載されているようにファーストリテイリング(ファーストリ)と組んで、高機能・高価値繊維を製造しています。

ユニクロの「ヒートテック」や「エアリズム」は多くの方がお持ちかと思います。

フリースが爆売れしたことは記憶に新しいことです。

どんな相手が入ってきたとしても、東レと我々が運命共同体であることは変わらない。それだけの信頼関係を10年かけて築き上げてきた」(p. 033)
と柳井さんは述べていますが、お互いをベストパートナーと考えていることが分かります。

日覺社長の「市場が存在し続ける限りは、撤退なんてあり得ません」という強い意志と執念のようなものを感じました。

決してあきらめないという精神は東レの中に綿々と受け継がれてきました。
東レは強く逞しい企業です。株式に関して言えば、もっと高く評価されてよいと思っています。

日覺昭廣社長の記者会見の中で、炭素繊維や水処理製品等について詳細に語っていました。


(4,786 文字)


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