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[新型コロナウイルス影響インタビュー]第8回 岩手県在住の主婦の場合(3)──死ぬ間際まで後悔していた母親の姿を見て、死に方と生き方が決まった

知人友人に新型コロナウイルスの影響について聞く趣味インタビュー企画。8人目は岩手在住の主婦・ずんこさんの巻。
ますます盛り上がるずんこさんとのLINE呑み。ずんこさんはおいしそうな手料理を肴に南部美人を無限にグビグビ。さすが東北の女は酒が強い! 話はコロナ関係から、これまでの人生の話へ。

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というわけで連載3回目の今回は番外編としてずんこさんの死生観について語っていただきます。
(2)からの続きです。

死生観には母親の存在が強く影響している

たけちゃんのこの連載インタビューシリーズ、めちゃ好きで読んでるんですが、特に第5回の銀座の女将さんの話はおもしろかったですね。特に死生観の話が。私もそういう話、すごい好きなので。死生観について考えてることを深く追求して話せる場って意外とないですよね。そういうことを常々考えてる女将さんがいる店ならお客さんも集まるだろうなと思いました。

──あの女将は元々編集者で思想、哲学に造詣が深くて、文学や芸術に関してもめちゃくちゃ教養あるんですよ。論語の教えがあればこんなコロナ禍の時代でもブレずに生きられるって言ってます。でも一方では、いつ死んでもいいとか早く死にたいとかしょっちゅう言ってるので、前向きなんだかどうなんだかよくわかんないという(笑)。女将の死生観を読んでどう思いました?

難しいことはわかんないけど、私自身、ずっと考えてきたことでもあるんですよ。私の死生観は母親の存在がものすごく影響してます。

──どのように?

高1の時に、母親が末期の乳がんであと何ヶ月ももたないって告げられたんですよ。その時は言葉も出ないほどすごくショックで。涙も出ませんでした。人って本当にショックを受けた時って涙も出ないんだなと思いました。

今目の前にいる母親が数ヵ月後にこの世からいなくなるってことが全く想像もつかなくて。でも具合が悪そうな母を見てると本当にそうなっちゃうかも、そうなったらどうしようとか、頭の中でグルグル考えちゃって。

それまでの母は、料理もお裁縫もとても上手な上に働き者で、毎日お店の商売も農作業も汗だくになりながら毎日頑張って、自分の事は後回し。周りの人の事を心配して生きているような、そんな人でした。躾は厳しかったですがとても優しくもあり、授業参観などで学校に来てくれた母は、とってもきれいで、とっても自慢の母でした。

お母さん

▲お母さんにおんぶされる赤ちゃんずんこさん。赤ちゃんの頃からかわいさ爆発

でもガンを告知されてからの母はずっとものすごーく悔しそうだったんです。私に怒りをぶつけることもあって、正直見ててつらかった……。

大学1年の時に、退学したいと母に言ったことがあったんです。入院費、手術費もかかって大変そうでしたし、私自身、勉強への熱意もなく、将来の具体的な夢といえるものも見失っていたので。

そしたら、泣いて「それはやめてくれ」と。

母としてはせっかく入った大学だからちゃんと卒業してほしかったでしょうし、自分の病気のせいで大学をやめてほしくないって思ったんでしょうね。私は私で合理的に考えたつもりでしたが、母への思いやりに欠けていたかもしれないと思い、卒業まで通おうと思い直したんです。

母はいよいよ死が近いという時期になっても穏やかな悟った状態には全然至ってなくて、つらい、悔しい、なんで死んじゃうんだみたいな感情をずっともってたと思います。

そして、そのまま私が21の時、亡くなりました。50年と2か月と20日の短すぎる人生でした。

母親の死に際の様子が忘れられない

──そうなんですね……亡くなった時はさぞかしショックでしたでしょうね……。僕の母親も、ものすごく苦労して僕を育ててくれて、それを子どもの頃から間近に見てたので、母がこの世からいなくなることを想像するだけで絶望のどん底に叩き落されるような気になります。しかもずんこさんの場合は高1の時にお母さんの余命宣告を受け、21歳の時に亡くしているわけですからね……想像を絶する喪失感だったと思います。

悲しくて毎日泣いてばかりいましたね。ちなみに亡くなったのは私の成人式の数日前。悲しすぎて成人式どころではなかったので行きたくなかったんですが、家族に行け行けと言われて喪服を着て行ったんですよ。でもいまだに行かなきゃよかったなと後悔してます。昨日と同じ世界に生きているはずなのにもう、何もかもが違う景色に見えて……。世の中が何も変わらず動いていて、笑い声まで聞こえることが不思議で、自分がどこに立っているのかさえわからなくなるほど、自分を見失いました。

──大切な人を失うなどしてものすごいショックを受けると世界が全然違って見えるって言いますもんね……。

でも最初は余命数ヶ月って言われたんですが、結局5年もったんですよね。そういう意味ではよかったのですが、その母親の死に際の様子が忘れられないんですよ、今でも。母親のその様子が私のその後の人生や死生観にものすごく大きな影響を与えていて、ものすごく暗い気持ちになる時があるんです。

──例えばどんなふうに?

特に24歳の時に最初の子どもを産んだ時、「こんな時、母がいてくれたら」と、周りの人たちをうらやましく思ったものでした。母の死後すぐ、父は再婚したので家族とは思い出話もほとんどできず、ちゃんと供養してあげられなかったなぁとも。

長女が生まれて24歳の時。津波で今はなき陸前高田の雇用促進住宅2号棟

▲長女が生まれた24歳の時。津波で今はなき陸前高田の雇用促進住宅2号棟にて

死について考えるうちに、どう生きるかを考え始めた

──死生観についてはどのように影響したのですか?

母親の死によって、死についてリアルに考えることが多くなったんです。死ぬってどういうことなんだろうと考え始めて。

死ぬことを考えていると、どう生きるかってことに繋がるじゃないですか。若い頃は悲しいことばっかりでどう生きるかなんて冷静に考えることがなかったんですが、大人になるに従って、考えるようになりました。

死ぬ間際まで後悔していた母親を見て、後悔の全くない人生なんてありえないけど、私は死ぬ時はなるべく後悔のないように生きたいと思ったんです。それは子どもたちのために。私がいつか死ぬ時に、「お母さんは笑顔がない悲しい人生だった」では子どもたちがつらいから、「自分の人生を楽しく生ききった」という最期にしたいんですね。

人の親になったからにはそういうふうに思わせたい。母親は子どもにとって大きい存在じゃないですか。私が死んじゃった後、「よくバカなことを言ってたよね」って3人で笑って思い出してほしいなと。きれいごとかもしれないけれど、それが私の信念です。

2017年12月6日長女と

▲長女と

──なるほど。お子さんたちも結婚してこれから孫が生まれてくるので長生きしないといけないですね。

そうですね。長女は去年いい人と結婚したし、次男も近いうちにいい人と結婚するからよかったです。子どもたちが結婚したり、これから子どもができたりして、子どもたちが私がたどってきた同じ道をたどってるんだなと思うと感慨深いですよね。

そして彼らがどんなおじいさんおばあさんになるんだろうと想像するだけで楽しいです。だから私は、子どもたちがおじいさんおばあさんになるまで長生きしたい。私がヨボヨボのおばあちゃんになる頃は、子どもたちもけっこうなおじいさん、おばあさんになってるから、そしたら子どもたちの人生をちゃんと見届けられたなという感じがして楽しいかなと。だからすぐ死にたいとは思わないですね。ただ、明日死んだとしても、お母さんはおもしろい人生を送ったなと思われるように生きたいと思ってます。

母の分まで長生きしなきゃ

──まだまだ見届けなければならないことが多いですからね。

母親はそれができなくて道半ばで悔しがって死んでいったので、自分は長生きしなきゃと思いますね、本当に。

2015年9月21日に、母親の年齢を越えたんですよ。青空のもと、元気に生きていられることに、本当に心から感謝しました。働き者で厳しくも優しく、きれいだった母が偉大すぎて、私が母より年をとってしまったことがちょっと恥ずかしかったです。これから先はおまけの人生だと思っているんですが、そばにいる母に喜んでもらえるように、自分なりに一生懸命頑張って、これからも笑顔で生きていこうと思いました。

同時に、母の年を越えてからは未知の世界を歩いてる感じです。元気にはしてますけど、時々、不安にもなります。でも、そうやって母も生きていたのでしょうから、私も同じように前向きに生きていこうと思います。

そんなようなことを、2年前の次男の入社式の時に心の中で母に伝えました。もちろん命は永遠じゃないけど、人の心の中にその人の存在は残っているのだから、やっぱり永遠なんじゃないかなぁ。姿、形が見えないだけで、想いはちゃんと伝わっていると思うので。

2015年3月7日

──なるほど。すごく深くていいお話でした。2年前くらいにFacebookにお母さんの三十三回忌法要のことを書いていたのを読んだ時、胸が締め付けられました。特に「お母さんに会いたい」という魂の叫びに涙腺が崩壊しました。若い頃、すごくつらかったのに、それでも立派に3人のお子さんを育て上げて、幸せな家庭を築いてこられたこと、本当に尊敬しますよ。

そう言ってもらえると救われます(笑)。

こういう話って、仲のいい友達とだって深く語り合う機会ってあまりないじゃないですか。こういう話を語りだしても真剣に聞いてくれる人と話すとすごくおもしろいですね。それができる人って貴重ですよね。だからたけちゃんとこういう話ができて私もよかったです。

──こういう話ってよくするんですか?

男友達とはすることがあります。私、友達から「意外と男だよね」ってよく言われます(笑)。

子どもを産んだとたんに生きる意味を見出した

──わかります(笑)。男の方が生物として女性よりも劣っているので、死についてとか何のために生きるのかとかしょうもないことを考えがちなんですよね。女性は生まれながらにして、子どもを産んで育てる、子孫を残すという、理屈じゃない、生物としての使命、存在意義をもってる。だからそういうことを考える必要がないと思うんです。実際に産む・産まないは別として。

確かに私も子どもを産んだとたんに生きる意味を見出した、みたいなところはありましたね。若い頃は暗くて、楽しいことなんて1つもないなと思いつつ生きてきたのに、子どもを産んだ瞬間、これが幸せっていうのかなって。私がいないとこの子は生きられない、子どもが頼れるのは私しかいないと思った瞬間、生きる意味を自然と感じたというか。これが母性というやつか、自分にも母性があったんだと思いました。自己満足なんでしょうけど。

自分の子を産むまで、子どもは嫌いだったんですけどね(笑)。不思議なんですが、自分の子どもが生まれたら、知らない子もかわいい、愛おしいと思うようになったんです。

バリキャリ女性にも憧れる

──子どもを産むことで人生が一変したんですね。よかったですね。

ほんと、それは思いますね。子どもがいなかったらどうなっていたかわかんないです。

でも、その一方で、独身で仕事をバリバリこなしている、いわゆるバリキャリ女性は自立・自律できててすごいなと尊敬するし、経済力をもってる女性にはあこがれますね。私の同級生の中にもバリバリ仕事している人がいっぱいいて、彼女たちの姿を見ると時々ものすごく後悔の念に駆られるんですよ。

私なんて自信があるもの、1つもないですからね。もし私が独身だったらチャランポランもいいところな人生でしょうから。もう少し仕事に対する情熱とか何かを成し遂げたいという熱意があれば、社会に出てちゃんと仕事をしたんだろうなと思うんですけどね。そういうのが足りないので(笑)。

──そうですかね。ずんこさん、芯はしっかりしてると思うのでどんな世界でも普通にバリバリ働けると思いますけどね。それに、ギラギラした気持ちがなかったからこそ、今の優しいご主人と3人の素晴らしい子どもに囲まれて幸せな人生を送れてるんだから最高じゃないですか。

それはそうなんでしょうけど、自信をもって世の中に物申せる女性ってすごいな、うらやましいと思います。

──そんな女はめんどくさいだけですよ(笑)。確かに僕も独身・既婚、子なし・子あり関係なくバリバリ仕事してる女性は大好きですが、そもそも仕事もバリバリして家庭も子育てもちゃんとしてるスーパーウーマンって滅多にいないっすよ。時間は限られてますから。

もし私が働いてたら仕事にすごく時間を費やしちゃって、家庭はおろそかになっていたと思います。だから自分としてもバリキャリ女性を見ててうらやましいなという気持ちもあるけど、結果的にはこれでよかったのかなと。自分が仕事できる人じゃないというのはわかってるので(笑)。

──ちゃんと結婚して3人の子どもを立派に育て上げることの方が人類全体としてはよっぽど価値のある偉業ですよ。

確かにそれだけは自分としても手を抜かずに頑張ったなと胸を張って言えますね。その結果家族みんな、周りから異常と言われるほど仲良くやってるし(笑)。子どもたちも社会に出てちゃんと働いているし、自分たちのコミュニティも築けてますからね。それを見ると安心しますね。

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▲小さかった子どもたちも……(めちゃくちゃいい写真)
▼今ではりっぱな社会人に(仲のよさは相変わらず)

2015年8月17日親子4人で

長女と次男

夫との出会いで人生に光が

──こーちゃんと結婚してよかったですね。

ほんとにそう思ってます。こーちゃんとは大学時代の人生のドン底の時に出会って、それ以降、暗い人生が一変して超明るくなりましたから。とにかくやさしいから救われましたね。こーちゃんて若い頃から幸せオーラを身にまとっていて、この人と一緒になればハッピーエンドが約束されているということがわかったんですよ。

それは付き合っても、結婚してからも変わることがなかった。とにかく懐が深いので、怒るということがまずないんですよね。だから喧嘩にならないんです。

子どもの頃、両親が喧嘩してるのがとてもつらくて。親の夫婦喧嘩を見せつけられると子どもは傷つくじゃないですか。自己否定されたような感じになるので。だから私が親になったら子どもに喧嘩している姿は絶対に見せたくないと思っていたので、そういう意味でもこーちゃんと結婚できてよかったし、感謝してるんです。

──ほんとにこーちゃんと結婚してよかったですね。大事なことなので2回言いました。僕もこーちゃんみたいな人に生まれてきてたら今頃佐々木希似のめんこいやさしい女性と結婚して幸せな家庭を築けていたと思います。


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