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展示会の装飾会社・デザイン会社が生きる道

今日のテーマはマニアックもマニアック、マニアックの極みな産業について。自分がかつて在籍していた業界である「展示会の装飾会社」がテーマです。

言うまでもなくコロナの影響をモロに受けた業界です。展示会が軒並み中止となった状況では展示会のブース装飾を担う会社も売上が立つわけがない。ここ最近は少しずつ展示会も戻り始めたので、ホッとしたような空気も業界内で感じています。

とは言えです。ここで本当に「よかったよかった」で済ませてよいものなのかな?

その課題意識が今日の記事を書くにいたった原動力です。ご興味ある方、もしかしたら当事者の方もごく少数ですがいるかもしれませんね。しばし、このマニアックな産業の課題と未来に向けた展望にお付き合いください。

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01.装飾会社って何するひと?


さて、「展示会の装飾会社」と聞いてもまったくピンとこない方が多いことでしょう。なので、どんな会社なのかをザっとご紹介します。「そんなモン周知の事実やわ」という方は読み飛ばしてフライアウェイしてください。

ここでは特にコロナ前の状況についてご説明しますね。

東京ビッグサイト、幕張メッセ、インテックス大阪などなど全国各地に大規模展示会場と呼ばれる場があります。ここでは毎週のように様々なテーマで展示会が開催されていました。そんな展示会に出展する企業からの依頼を受けて、ブースをデザイン・施工するのが「装飾会社」です。

出展者から直接の依頼を受ける場合もあれば代理店をとおす場合もある。ここでは装飾会社を「デザインする機能を持つ」、「施工に必要な手配をコントロールして現場管理できる」会社だと定義します。広告代理店は私のなかで装飾会社には位置していません。

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自社で資材や職人さんを抱えているタイプの装飾会社もあれば、デザインと現場管理のみに機能を絞っている装飾会社もあります。世にある展示会の装飾会社はだいたい後者がメインです。

とってもマニアックな業界ですよね。もちろん「展示会のブース装飾」が完全に専門である企業ばかりではありません。大きな括りから見れば「空間デザイン」の領域になるビジネスなので、店舗やショールームのデザイン・施工などを事業の柱として持っている企業も多くいます。その一方で、展示会に自社のリソースをガッツリと割いている企業も多く見られます。

大げさな表現と思われるかもしれませんが、展示会は日本の産業を支えている産業と言えます。であれば展示会ブースの装飾会社という産業は、日本の産業を支えている産業を支えている産業と言えます。

早口言葉みたいで何のこっちゃか分からなくなってきました。

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02.展示会装飾会社はいかにして利益を増やしているか


私が装飾業界に入って驚いたことがあります。それは、一つの展示会で複数の出展者のブースを施工することが一般的だったこと。場合によっては競合同士のA社とB社のブースを施工していたりします。

コレが結構衝撃的でした。社会人になって最初に就職したイベント制作会社では一業種(一商材カテゴリ)につき一社との取引とルールを定めていたので、余計にまったく異なる文化に戸惑いました。

このビジネスモデルは装飾会社にコストメリットを生みます。

4小間のブース装飾を請け負ったと考えてみましょうか。ブースを作るためには当然ながら人件費がかかってきます。このブースを作るため施工日に押さえないといけない人員数をまるっと10人だと仮定しましょう。

実際、この10人がいないとブースは完成しません。それぞれに役割があり、それだけ人数が必要となる作業があるからです。しかし、この10人が施工の2日間まるまるブースに張り付いていないとダメなわけではありません。むしろ、ブースに張り付いている時間は2日間トータルで見ると少ないでしょう。

10人いれば、別のブースを建てにいけるのです。だから、複数のブースを受注する方がコストメリット的には優れているのです。簡単に表現すると1つのブースを作るのに必要な人員が10人だったとしても、2つのブースを作るのは15人で済む、3つのブースだと17人で作ることができる。そんなイメージだと捉えてください。

一つの展示会でたくさんのブースを受注すればするほど、グロスで経費を抑えることができる。しかし、顧客側に対してはある程度の「定価」で提供します。つまり、顧客から得られる売上は減らさずに協力会社に対する支払を減らすことができる。結果、装飾会社の粗利は増えていきます。

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しかし、根本的にこのビジネスモデルは顧客に対する価値提供の視点ではなく、自分たちの利幅確保のためのビジネスモデルです。

もちろん、顧客側がそのメリットを享受することもありますが、その価値はあくまでも「価格」という領域に限定されます。

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03.コスト面以外の価値づくりを難しくするビジネスモデルを自ら作り上げた


結局、そんなビジネスモデルを作ってしまうと何が問題なのか。


それは、自らが作り上げた自らの利幅を最大化するビジネスモデルのなかにいるがゆえに、「顧客に提供できる価値」という意味で「コスト以外の価値創出」に目が向かない、価値を生み出せない環境をつくってしまった。ソコが大きな課題だと感じています。

一つの展示会で複数出展者のブースを装飾する。これってすなわち「顧客のビジネスに深入りしません」と宣言しているようなモノです。だって、誰が競合他社を受注する可能性のある装飾会社に自社のコアなコミュニケーションのあり方に踏み入ってほしいものなのでしょうか。

結果、装飾会社に依頼されるデザインの領域は表層的な領域に留まります。装飾会社自身も出展者のコミュニケーションに深入りしようとはしません。現在の展示会装飾会社は、「コミュニケーションをデザイン」しているとは到底言えないような状態なのです。

このビジネスモデルのなかにいるうちは、出展者の本質的なコミュニケーションをデザインすることなど到底できません。なぜなら、出展者に深入りすることができないから。本当に出展者のビジネスに深くダイブするようになるなら、複数の出展者を受注することなど出来るはずがないのです。

コスト面での価値づくりを目指すか、コミュニケーション面での価値づくりを目指すか、この命題は基本的にトレードオフの関係性です。両立させようとしたところで出来るのは「ある程度」です。そして、「ある程度」レベルでは他のコミュニケーション手段に取って代わられる可能性が高いとも思っています。

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04.コロナ騒動よりも、リアルに対する価値の考え方の方が問題


展示会自体に価値があるタイミングならそれでよかったかもしれません。しかし、折からのコロナ騒動によって展示会自体の価値が揺らいでしまいました。価値が無くなるわけではないが、価値のあり方が変質しはじめている気配をフツフツと感じています。

ここにきて展示会もまた開催されはじめてきました。聞こえてくる業界関係者の声は「やっぱりリアルでしか実現できないコミュニケーションがある!」とか「オンラインに取って代わられることはない!」とか、そんな安堵の声です。

この捉え方は危険です。ヤベェのです。

だって、社会は一気にオンラインの価値に気付いた。そして、今までのコミュニケーションをオンラインで置き換える手段を模索しはじめた。いまはまだ「模索しはじめた」段階です。そりゃまだリアルで実現できるコミュニケーションの方に価値があるでしょう。

でも、3年後にも同じことが言えるでしょうか?、5年後は?、10年後は?

オンラインのコミュニケーションはどんどん価値を高めていくのに、リアルの世界にいる私たちが新たな価値のあり方を模索しなければ、その差はどんどん詰まり追い抜かれていく未来が見えませんか?

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「リアルの方に価値がある」には注釈がつきます。それは「※いまだから」という文言です。

コロナになって展示会がストップしたときも危機感を覚えましたが、展示会が戻ってきたときに業界関係者が発した反応の方にさらに大きな危機感を覚えました。いや、それ「今だから」やで。

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05.デザインの考え方が周回遅れ


ちょっと強烈な表現をしますね。展示会のデザインって考え方が周回遅れなんです。未だに「意匠のデザイン」に留まり続けていると感じています。

でも、私たちが本来デザインしなければいけないモノは何なのでしょう。私たちは空間をデザインしているのか、コミュニケーションをデザインしているのか、どちらなのでしょう?

「人間中心のデザイン」なんて、もはや使い古されたワードです。でも、展示会のデザインは未だにそこにすら辿り着いていません。

まぁ、逆に言うとまだまだ展示会のデザインは発展可能性を持っているということでもあるのですが、はてさてその方向に進もうとする人や装飾会社がどれくらいいるのか。

展示会ブースのデザインは基本的に空間に対して展示要素を「はめ込む」作業のような状態になっています。それはさながらパズルのようなもの。

空間があって、そのあと人がくる。これは順番が逆なんです。コミュニケーションがあって、それを実現するに資する空間をつくる。展示会場を見て回ると手段と目的が入れ替わっちゃってるブースのデザインが山ほどありますよ。

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装飾会社は「コミュニケーションのデザイン」に目が向いていない。その証拠を一つ提示してみましょうか。

展示会のブース装飾に関わっている人のなかで「展示会本番3日間の運営経験」がある人、ほぼいません。びっくりするぐらい、いません。いま展示会のデザインを依頼している出展者の方、目の前の担当者が「3日間ベタ付きでブース運営に関わったことがあるか」を聞いてみてください。ほぼ無いと思いますよ。

実際、装飾会社の担当者は展示会の本番のブースを遠巻きに見ているだけです。ブースが効果あったのかも出展者からヒアリングするだけ、あるいは当日の様子を観察するだけ。身体感覚としての経験がそこにはありません。自分でブースを使ったことがない担当者の口から出てくる「効果の出るブース」という言葉のなんと空虚なことか。

本番3日間の運営をフルで経験したことがあればデザインに対する考え方がまったく変わります。その経験をするだけで「場のあり方」に対する考え方が変わるはずなのになぁとヤキモキすることも多いのです。

すべてがそうだとは言いませんが装飾会社の人もデザイナーも、多くは展示会のブースを「作ること」が目的です。でも、出展者の皆さんは「使う」ことが目的です。ここにかなり大きな意識の乖離が存在します。

「展示会の価値」がシンプルに成立していた時代なら、その状態でもよかったでしょう。でも、この状態はいつまでも続かないと感じています。少なくとも今回のコロナは価値観の変革を早めました。顧客に提供できる価値がオンラインに抜き去られてから気付くのでは遅いですよね。

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06.ネクスト展示会の装飾会社


さて、ここまで割と悲観的な言葉を並べましたが、本当にこのままニッチもサッチも立ち行かなくなってしまうのでしょうか。私はそうは思いません。むしろポテンシャルがモリモリ丸な状態なんだと理解しています。

「展示会」という場の価値自体、まだまだ掘り下げることはできるはず。しかし、それは単に「リアルには価値があるんだ!」という今この場に留まる発想ではブレイクスルーも生み出せません。未来の可能性を山ほど考えて、そこから「今なすべきこと」を決めていこうじゃありませんか。

【参考】展示会の新たな価値づくりに向けて

まずは「空間デザイン」という考え方から「コミュニケーションのデザイン」という考え方への転換を図ってみるのが良いと思います。

おそらく、この方向に舵を切る装飾会社は異端児。コミュニケーションを突き詰めると一つの展示会で幾つもブースを請けることが出来なくなるから、従来のような稼ぎ方はできません。

それでも、「このままじゃダメだ」と感じる方が僅かでも業界のなかにいて、勇気をもって変革させていけばそれは新たな価値づくりにつながると思います。

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そうですね、具体的に2つ例示してみましょうか。あくまで「例」ですよ。コミュニケーションのデザインと考えればできることは山ほどあります。


■例1:キャッチコピーのデザイン

「キャッチコピーを掲示する板面のデザインを提案」するのではなく「キャッチコピーそのものを提案」できるようになる。これが一つの到達点かもしれませんね。

本気でキャッチコピーそのものを提案できるようになろうとすれば、顧客に対する理解はもちろん、顧客の顧客に対する理解も必要です。顧客と顧客の顧客がそれぞれどんなビジネスプロセスのなかで、どんなコミュニケーションを取るのか、そこをリアルに理解したときに「展示会」においてはどんなキャッチコピーが掲示されているべきなのか。ここまで考えるとキャッチコピーの提案ができるようになります。

でも、広告コピーに比べて展示会のキャッチコピーはやることがシンプルですよ。そして、展示会においては多くの出展者はキャッチコピーづくりがうまくないので、一定の「刺さり」を作ることができれば効果は出ます。

かなりのブースが「自社の価値を正しく伝えるコピー」なんて作れていません。「そのキャッチコピーじゃなくて、どう考えてもパネルの端っこに書かれてるコピーの方がお客さんに刺さるでしょ」なんて思ったこと、山のごとし。だからこそ、ココをデザインできると強いのです。

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■例2:運営ふくめた誘引(コミュニケーション)のデザイン

例えば「ブースにお客さんを引き込みたい」という、ごくごく当たり前なすべての出展者が抱くだろう要求に対してこれまで何を提案してきましたか?

キャッチコピーの配置?、グラフィックが目立つように?、映像で足を止める?、ブースレイアウトを開放的に?、この辺りはよく装飾会社からの提案にあるやつですよね。

でも、コミュニケーションをデザインするなら「ガワ」にこだわらなくて良いんです。お客さんをもっとも引き込むことができるのが「呼び込み」なら、運営スタッフを1名ブース前に配置して、そのスタッフにポップを持たせた方が良いかもしれません。

大切なことは展示会のルールの範疇であれば「何をしてもよい」ということ。ここに自らが課している制約を外してみましょう。そして、「何をすれば」最も効果が上がるのかを知ることです。どの打ち手が最も効果的なのか、これは実地経験からしか得ることができません。早いうちに経験知を蓄えることだと思います。

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と、二つほど事例を挙げてみました。これはあくまで例です。コミュニケーションをデザインすると考えたときに「成果を導くための最短距離が何なのかをデザインしていきましょう」ってコトが言いたいだけです。

そんな具合で、マニアックな業界についてツラツラと語ってしまいました。自分がかつてドップリ浸かっていて、今も半身突っ込んでいるような状態であるからこそ、余計に産業の未来を思わずにはいられません。

次の時代に自分たちがどんな価値を顧客に提供するのか。そこをもう一度考えてほしいなと、すべての展示会関係者に対して思うところです。新たな価値づくり、ココを探っていきましょう!


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