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はじめてサウナで「ととのった」日 #かくつなぐめぐる

「書くこと」を通じて出会った仲間たちがエッセイでバトンをつなぐマガジン『かく、つなぐ、めぐる。』。9月のキーワードは「台風」でと「宇宙人」です。最初と最後の段落にそれぞれの言葉を入れ、11人の"走者"たちが順次記事を公開します。

 元々スーパー温泉は好きだった。忙しい日々の中、台風の目のように空いた休日に、自分を甘やかす。
 ただ、サウナ好きではなかった。入りはする。汗が吹き出し疲れが抜ける感覚はある。でも、岩盤浴の方が気持ち良いし、好きだった。一方で、サウナ人気は知っていたので、「何がそこまで人を惹きつけるのか?」と気になっていた。

 そんな時、ドラマ化もされたタナカカツキ氏の漫画『サ道』を読んだ。そこには、サウナの公式がこう記されていた

 「サウナ→水風呂→外気浴」×3

 そして、漫画の中には、修行の果てに辿り着く悟りのような、あるいはドラッグをキメてトリップしているような豪華絢爛な「ととのう」の姿が示されている。ドクター・ストレンジもびっくりなトリップである。
 え、めっちゃ気になる。
 ということで、試してみた。

* * *

 まず、サウナ。いつもは2-3分でギブアップしていたが、今回はじっくりと入る必要がある。
 若い男性から老人まで5人程度が、頭にタオルを巻きつけたり、胡坐をかいたり、様々に座っている。誰も一言も発さない。ただ、パチパチという焚火の音に、やさしいピアノ曲がBGMとして重なっている。
 そして、とにかく暑い。我慢して座っていても、ただ暑さと、滴る汗と、吸う息の熱さしか考えられない。息を吸う、吐き出す。吸って、吐く。繰り返し。いっそ、身体に集中できているという意味ではマインドフルネスとさえ呼べる。サウナ・マインドフルネス。
 いつになく長くサウナを堪えて、誇りを胸に外に出る。

 第二ゾーンが、難関の水風呂。過去好奇心もあり試したこともあるが、腰をつける前に挫折した。だって冷たすぎる。
 だが、今回は違う。「ととのう」を知る、という確固たる目的がある。
 とはいえ、冷たいのも苦手なので、まずは階段状になっている箇所を使い、腰の下まで。次に、一段下がり、お腹までつける。この段階で、足だけの時とは段違いの寒さが体を襲う。「ひぃ」と小さく呻きつつ、更に降りて肩まで。頑張ってとどまってみる。
 その時、ふいに、皮膚の下で、何かが暴れ出すような感覚が生まれる。
 皮膚の表面はサウナで宿った熱と冷たい水の間で痛いぐらいなのに、身体の中では全く違う現象が起こっている。体感としては、身体の内側が膨れ上がって、身体、特に腕がすこし膨れ上がるような感覚。手と足を水にひらひらと浮かべると、より強く感じることが出来る。

 第三ステージは、概念すら知らない、外気浴。要は、水風呂から出て身体を拭いた後、リクライニングチェア等で体を休めること。
 やや暖かい風を感じる。だが、身体が冷え切っているので、どちらかと言えば寒い。それがゆっくりと暖められていくのを感じる。
 やや寒い。風邪を引いても困るので、幾つかある露天風呂の中で温度が低そうなものに使ってみる。じんわりとしたぬくもりが広がる。
 その時、ちいさな電気が体中に走った。まるで、身体の中の血流が全て炭酸水に変わってしまったような感覚。そして、「何か」が手足の端々から、すーっと抜けていく。
 おおおおおおお!? これ? これ? これが、「ととのう」?
 目を閉じる。湯が零れ落ちる音が、海で砕ける波のように聞こえる。感覚が、いつもよりもはるかに鋭敏だ。音にたゆたいつつ、ぼーっと時間を過ごす。

 一週目で覚えた感覚があまりに面白いので、しっかりと2週の追加を繰り返す。その先に待つ感覚を考えれば、暑いサウナも水風呂も辛くない。
 そして、3週目の外気浴。突然、それは始まった。
 バチン、とブレーカーがいきなり落ちたように、頭から何かが抜けていく。身体がぐにゃりとする。「なんだこれ?」。先ほどまで、手足を炭酸水のように感じた流れを小川とするならば、台風でダムが決壊したような激流が頭から流れ落ちていく。その感覚に浸る。
 ああ。これが「ととのう」か。
 終わってみると、映画を見て号泣した後のように、空が青く普段見えない所まで視界が左右に広がっている。頭の疲労も一気に取れた。
 これは――、すごいな。

* * *

 あとで調べた所、「ととのう」とは「サウナ・水風呂の危機的状況から外気浴に移ることで、脳内でアドレナリン分泌と自律神経の副交感優位が両立した状態」らしい。
 つまり、極端に暑いサウナと極端に冷たい水風呂との体温変化で、疑似的に大きな危機を覚えて脳内でアドレナリンが出る。そして、やさしい風であたたまると逆に副交感神経優位、つまりは極端なリラックス状態になる。だが、一気に変化が起こりアドレナリンも血中に残っているため、特別な体験が得られる、とのこと。
 改めて説明を聞くと、「え、脳を誤解させるだけの激しいことやってるの?」と思わなくもない。仮に宇宙人が見たら、「人間、馬鹿なの?」と思われそうな気もする。
 だが過去に味わったことのない特別な体験だった。そして、今後、より探求してみたいと思わされるだけの衝撃だった。既にサウナ本を買ったり、様々な施設の検索などを始めている。

 サウナ沼に落ちたかもしれない。

バトンズの学校1期生メンバーによるマガジン『かく、つなぐ、めぐる。』。
今回の走者は竹林秋人でした。
次回の走者は、たなべさん。更新日は9月22日(木)です。
お楽しみに!

(参考)
『医者が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?』(加藤 容崇)

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