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2021年9月9日

1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日】9月9日:救急の日

さて、本日の1話は――

「石」

 田部さんが小学校の頃、男子生徒の間で「水切り」が大流行したことがある。
 水切りとは、平らな石を川や池などの水面に投げて、石が跳ねるのを競う遊びだ。
 放課後になると、仲間達で揃って近所の河原まで自転車で乗り付ける。
 そして川に向かって横一列になって石を投げるということを繰り返していた。
 しかし田部さんは、仲間内では余り上手に石を投げることができなかった。
 そこで、少し離れた場所で一人でこっそり練習をしていた。同級生に見つかると気恥ずかしかったからだ。
 水切りには平らな石が向いている。そんなことは知っていたが、まだコツが掴めないので、様々な石を水面に投げては吟味していた。
 石を拾っていると、
「飲め」
 と小さく男性の声が聞こえた。だが周囲を見回しても誰もいない。
「飲め」
 再び声がした。気持ちが悪かったが、何だか手にした石を飲まなくてはならないような気になってきた。
「飲め」
「飲め」
「飲め」
 繰り返す声に、田部さんは手にした石を飲み込んだ。
 一つ。
 冷たくて固いものが、喉の奥を胃のほうへ、ゆっくり下りていくのが分かった。
 続けて二つ目。
 そして三つ目。
 合計三つ飲み込んだ。どれも親指の先よりも少し大きいが、丸くすべすべした小さい石だった。
 飲み込んだ途端に我に返ってぞっとした。慌てて家に戻った。周囲はとっくに日が暮れていた。
 家に帰ると、両親には遅いと怒られた。
 まさか石を飲んでいて遅くなったとは言えなかった。
 夕飯を食べた後で、猛烈に腹が痛み始めた。
 石のことが頭を過ぎった。
 救急車が呼ばれ、田部さんは隣町の総合病院まで搬送された。

 触診の後、医者が首を傾げる。放射線科でレントゲンを撮られた。
 胃の中に異物が写っていた。
 開腹手術をすると、中には拳ほどの大きさの石が詰まっていた。
 だが、飲み込んだはずの小さい石は何処にも見当たらなかった。

――「石」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より

☜2021年9月8日 ◆ 2021年9月10日☞

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