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新たなる年刊傑作選――大森望 『ベストSF2020』序

《日本SFベスト集成》があり、《年刊日本SF傑作選》がありました。そして今年《ベスト日本SF》シリーズがスタートします。
大森さんが「思いきり気合を入れてつくった」新シリーズ第1弾。発売を記念して、巻頭の序文を公開致します。

 新たな日本SF短編年間ベストアンソロジー《ベスト日本SF》シリーズの記念すべき第一巻『ベストSF2020』をお届けする。二〇一九年(月号・奥付に準拠)に日本語で発表された新作の中から、「この年のベストSFだ」と編者が勝手に考える短編十一編を収録している。
 ごぞんじの方もいるかもしれませんが、編者は二〇〇八年から日下三蔵氏とともに創元SF文庫の《年刊日本SF傑作選》を編纂してきた。この創元版《年刊日本SF傑作選》は、諸般の事情から二〇一九年に全十二巻で刊行がストップ。区切りがついたおかげで(?)このシリーズは第40回日本SF大賞の候補となり、同賞特別賞を受賞した(大賞は、小川一水《天冥の標》全十巻と酉島伝法『宿借りの星』)。
 そもそもそれほど大きな部数が見込める企画ではないし、手間ばかりかかるからいつまでも続けてはいられない――という理由だったかどうかはともかく、このあたりで終了という判断は納得できる。十二年も続けさせてくれた東京創元社には感謝の気持ちしかない。とはいえ、一定数の読者には最後まで確実に支持されていたし、なにより、日本SFはいま、次々に新たなスターが生まれ、第二の黄金時代を迎えつつある。定点観測的な年次ベスト集刊行がここに来て途切れてしまうのはもったいない。
 そこで、このところ精力的に翻訳SFを刊行し、SF出版の台風の目になりつつある竹書房にダメ元で声をかけてみたところ、「やりましょう!」と快諾を得て、ここにめでたく竹書房文庫《ベスト日本SF》シリーズが開幕する運びとなった。ちなみにSF大国アメリカでは、年間ベストSFアンソロジーが何種類も出ているが、その中でももっとも長く続いているのが、一九八四年にスタートしたガードナー・ドゾア編 The Year’s Best Science Fiction シリーズ(現在、第三十五巻まで刊行されている)。創元SF文庫版《年刊日本SF傑作選》は、かつて創元推理文庫で翻訳されていたジュディス・メリル編の《年刊SF傑作選》にあやかって命名されたが、竹書房文庫版の年次傑作選は、このドゾア版《イヤーズ・ベストSF》にあやかり、「ベストSF+刊行年」をタイトルに採用することにした。ベストを選ぶ対象年はタイトルの年の前年なので、『ベストSF2020』は2019年の傑作選、『ベストSF2037』なら2036年の傑作選ということになる。ややこしくてすみません。
 創元版は、編者が二人ということでバラエティに富んだ内容になった反面、巻を追うごとに、年間ベスト短編を集めるという当初のコンセプトからは少しずつずれていった感は否めない。そこで、新たにスタートする竹書房文庫《ベスト日本SF》に関しては、初心に戻って、〝一年間のベスト短編を十本前後選ぶ〞という基本方針を立てた。作品の長さや個人短編集収録の有無などの事情は斟酌せず、とにかく大森がベストだと思うものを候補に挙げ、最終的に、各版元および著者から許諾が得られた十一編をこの『ベストSF2020』に収録している。創元版と比べて、収録作品数とページ数は減少したものの、精鋭中の精鋭が集まったと勝手に自負している。短歌にお湯を注いで歌を淹れる失われた典雅な趣味の話に始まり、ウルトラスーパーハードな熱力学バカSFや、九種族の存亡をかけた交易に挑むスペース商人オペラなどなど、おそろしく個性的な花々の競演をごゆるりとお楽しみください。

大森 望

 

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