2022年1月9日
【今日は何の日?】1月9日:風の日
寛政7年1月9日は、大相撲の横綱・谷風の命日。死因はインフルエンザでした。第4代横綱・谷風梶之助がインフルエンザで現役のまま亡くなったことを追悼して設けられた記念日なのです。
さて本日の怪談は……
「風邪薬」
熱があった。
だからちょっと朦朧としていたかもしれない。
「薬飲んだほうがいいんじゃない?」
救急箱の中に風邪薬があった。
「水、頼むワ」
家族に一声かけながら風邪薬の錠剤が入った小瓶に指を突っ込んだ。
指先に触れるものがあった。
生温かくて、なんだかぬるりと湿っている。
この感触は錠剤ではない。
「あん?」
指を引き抜いて中を覗いてみた。
血走った目玉が入っている。
目玉はこちらにギロリと視線を向けた。
「わあああああっ!」
ぶん投げた。
壁にぶち当たった薬瓶は、小さな破砕音を立てて砕け散る。
水を運んできた家族がガラス瓶の割れる音に驚いた。
「どうしたの?」
「いや、目が。目が」
砕けた瓶の周囲には白い糖衣錠が散らばっているだけで、目玉は見当たらなかった。
だから、これは風邪を引いて幻覚を見たのだ、ということになっている。
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「風邪薬」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』