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【第11話】「寂しいんじゃないかと…」 引き取り手のいない遺骨をめぐる数奇なお話【下駄華緒の弔い人奇譚】


―第11話―

火葬場には、遺族からの引き取り待ちの遺骨が沢山保管されているところもあります。僕の働いていた火葬場には大体200以上くらいの遺骨が骨壺に納められて安置室に保管されていました。

人には本当に様々な事情があり、お骨あげには来なかったけどその後引き取りに来る人、遺骨を引き取る気のない人、そもそも親族がおらず天涯孤独の人などもいます。

その中で印象的だった事がありました。


大体二ヶ月に一度くらいでしょうか、定期的に安置室にお参りをしたいという初老の男性がいました。実は、安置室へのお参りというのはたまにある事なので、そう言った場合は安置室の前に焼香台を設置し(宗派によりその限りではないが)そこでお参りをしていただくようになっています。
ですが、この初老の男性は二ヶ月に一度必ず定期的にお参りをする方でした。

それが一年程続いた時だったか、いつものように安置室に手を合わせ、「ありがとうございます」と言ってすぐに帰られるはずの男性が珍しく僕に話しかけてきました。

「ここに、知り合いがいるんです。あだ名は知ってるんですが名前も知らなくてね。わたしは他人ですからね、骨を持って帰るわけにもいきませんしね、でも家族は誰一人いないと生前言っていたので、寂しいんじゃないかと思って。ですが今日で終わりにしようと思ってます。もうすぐわたしもそっちにいくよって、言っておきました」

と、微笑みながら語りかけてきました。
それを聞いた僕は、真摯にお参りをする男性に感銘を受けると同時に、亡くなってからも、たとえ遺骨の引き取り手がいなくても、ここまで大切にされる故人の事が羨ましくも思いました。


それから数年後、元職場から連絡が来ました。「あの人が来たよ」と。なんの数奇な巡り合わせか、あの時話した初老の男性が僕の働いていた火葬場に故人としてやってきたそうです。

その人は今、引き取り待ちとしてあの安置室で眠っています。
旧友と共に。

著者紹介

下駄華緒 (げた・はなお)

2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。

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