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恐怖の王と人質たちの42時間 梅川昭美と三菱銀行猟銃強盗殺人事件(前編)

算命学とは、古代中国で生まれ、王家秘伝の軍略として伝承されてきた占術。恐ろしいほどの的中率をもつその占いは、生年月日から導く命式で霊感の有無、時には寿命までわかってしまうという。

本企画は、算命学の占い師・幽木武彦が怪奇な事件・事象・人物を宿命という観点から読み解いていこうという試みである。

今回は稀代のシリアルキラー、「三菱銀行猟銃強盗殺人事件」の梅川昭美の命式に迫る!


 1979年1月に、三菱銀行北畠支店(当時)を占拠して鬼畜のような所業を働いたシリアルキラー、それが梅川昭美である。

 事件当時、30歳。

 だがこれが初犯ではなく、実は15歳にして早くも最初の強盗殺人事件を犯していた(「大竹市強盗殺人事件」)。

 最初の事件を起こした当時、広島家庭裁判所の資料には次のような文章がある。

『少年の病質的人格は既に根深く形成されていて、容易に矯正し得ない段階にきていること(鑑別結果)、また少年が今後社会にあれば同様に多種の非行を繰り返し、再び犠牲者の出る可能性があると思量されること(当裁判所○○技官の意見)などを併せ考えるとき、本少年の将来については、非常に多くの問題が残されていると言わねばならない』

※技官名は伏せ字とした

 残念ながら、裁判所の指摘は後年、現実のものとなった。

 初めて犯した忌まわしい事件から16年後。
 梅川は人々を恐怖のどん底に叩き落とし、最終的に死亡者5名(うち1名は梅川本人)を出すことになる悪魔のような猟奇殺人犯として、我々の前に再び姿を現した。

三菱銀行猟銃強盗殺人事件

 事件の発生は1979年1月26日午後2時半ごろ。
 この年は、国公立大学の共通一次試験がはじめて実施された(1月13日)。また事件の5日後、31日には、江川卓が阪神と入団契約。即日、巨人の小林繁とのトレードが成立して世間を騒がせた。
 そんな時代のことである。

 銀行に押し入った梅川は、猟銃(ニッサンミクロ上下二連銃)を二発、天井めがけて威嚇発射。行員らに「5000万円を出せ」と要求した。
 そして現場に突入してから2分後には、電話連絡をしようとした若い行員(20歳)を射殺しようと、ためらいなく二度引き金を引き、行員は即死。もう一発は別の行員の後頭部に当たった。

 事件発生時、一階にいたのは行員34人(男性14人、女性20人)、客17人(男性7人、女性10人)。何人かは無事に脱出したものの、以後1月28日午前8時41分、警察官の一斉狙撃を喰らって梅川が力つきるまで、じつに42時間もの間、彼は人質となった罪もない人々に恐怖の王として君臨した。(死亡は同日午後5時43分)

 梅川が起こした事件の異常性は、当時もスキャンダラスな話題を提供した。
・「責任者は誰や」と行員を一列に並ばせ、「私です」と名乗り出た支店長を「(すぐに)金を出さなかったのはお前の責任や」と即刻射殺。
・ある行員に、別の行員の左耳半分を切り落とさせる。
・女子行員たちの衣服を脱がせ、そのままにさせる。(しかも、まるでストリップを見るがごとく、一枚一枚指示をして楽しみながら脱がせたという)
 

 などなど。
 梅川は行員に自分の代理として要求書を書かせ、警察へのさまざまな要求を行った。
 その一通の「追伸」として、ある男子行員は「(犯人は)極悪非道そのもの」というメッセージを書いてきたという。

 42時間にもわたる籠城の最後は、警察による犯人射殺という衝撃的な形で幕を下ろした。

 そうした終わりかたをせざるを得なかった凶悪事件は、この事件のほかには1970年5月12日の「瀬戸内シージャック事件」、1977年10月15日の「長崎バスジャック事件」しか存在しない。

 まさに異例中の異例とも言える、類を見ない人質事件だった。

梅川昭美という男

 梅川は、生まれつき色白で虚弱な男だったという。
 父46歳、母42歳のときの子供。幼少時代は細面のかわいらしい顔立ちだった。
 だが父親は脊髄を患い、両脚を悪くして勤めをやめた。女癖が悪く、愛人の家に寝泊まりして暮らしていたこともあったそうだ。
 一方の母は小学校も出ていなかったが、しっかり者として有名だった。
 夫婦仲がこじれてしまったため、梅川が小学五年生のころ、両親は離婚。梅川は父に引きとられたが、わずか半年で母のもとに帰り、以後、彼を不憫に思った母親は我が子を溺愛。わがまま放題に育ててしまうことになる。

 その結果、中学生になると梅川は「なぜうちだけが貧乏なんじゃ!」と母に当たり散らすようになった。
 無力な母親を引きずり回し、刃物を突きつけ、首を絞めるなどの異常な行動をとったりするようになっただけでなく、やがてその暴力は家庭の外にも向かい、非行に走るようになった。
 教師や母親の手には負えない存在になっていった。
 そして、とうとう暴発。
 15歳にして初の強盗殺人事件(「大竹市強盗殺人事件」)を起こし、少年院に送致。だがその後も更生に至ることはなく、後年、稀代のシリアルキラーとして日本暗黒犯罪史にその名を残すことになる、闇深い獣道を歩く人生になった。


 そんな梅川の宿命とは、いったいどんなものだったのだろう。

 驚くのは、梅川が「石門-天将」という特徴的な星の配置を持つことだ。

 主星(人体図の真ん中の星。性格の半分前後を占める)が「石門星」で、中年期の星が「天将星」という星の配置は「石門-天将」と呼ばれる。(ちなみに梅川の場合、人生の初年期の傾向は「天胡星」、中年期は「天将星」、晩年期は「天馳星」で推しはかることができる

 主星が石門星(和合・協調の星。社交性豊かで政治力を持つ)で、中年期の星(右下の位置に入る星)が天将星(「親分の星」「リーダーの星」。とてもエネルギーが強い)というこの組みあわせは、政治家の星、事業家の星、宗教家の星とも呼ばれるスペシャルな組みあわせ。
 カリスマ性を必要とする人間になるにはぜひともほしいと言われているものだ。

 たとえば政治家であれば、元総理大臣の安倍晋三や立憲民主党の小沢一郎、実業家ならパナソニック創業者で伝説の事業家・松下幸之助、現役バリバリなら楽天の三木谷浩史などがこの星をこの配置で持っている。
 宗教家としては、修験道の歴史上二人目となる「大峯千日回峰行」をやり遂げた大阿闍梨、塩沼亮潤もそうである。

 エネルギッシュで、親分肌
 集団のトップに立ってなにかをしてもおかしくはないような、そんな「もってる」宿命だ。

 だがそうであるにもかかわらず、実際の梅川は「もってる」宿命とは真逆の人生を歩んだ。

 なぜか。

 半分はやはり「(「石門-天将」以外の)宿命」
 もう半分は、いつも言っていることだが「環境」だと私は思う。

 これは十大主星だけにした梅川の人体図。
 人体図の縦線、または横線で「相生」し、貫索星、あるいは石門星で止まるものを「芳順局」と言い、梅川はこれに入局する。

 説明しよう。
 梅川の場合は横線が、

①金生水  車騎星(金) → 龍高星(水)

 金性から水性が生まれる。刀につく水滴のイメージだろうか。

②水生木  龍高星(水) → 石門星(木)

 水が木を生む。水なしで木は育たない。水こそ樹木の生命の源である。

 ――のように、五行(木火土金水)の関係で、車騎星(金)から龍高星(水)、龍高星(水)から石門星(木)へと流れて止まっている(こうして、ある五行がある五行を生みだす関係を「相生」と言う)。

 このように、

①縦線、あるいは横線で星が相生の連鎖をし……

②最終的に貫索星、あるいは石門星(つまり「木性」)で止まるもの

 を「芳順局」と言うのである。

「芳順局」とはどういうものか。ズバリ――初年期に幸運なら一生幸せ。逆に初年期が不幸だと、一生不運がついて回りやすい。

 考えようによっては、なんともいや~な宿命だ。

 上で紹介したとおり、幼少期の梅川は決して幸福とは言えなかった可能性がある。
 それでも不幸な境遇に錬磨され、鍛えられて鍛えられて強くなっていくのが「石門-天将」という考え方もできるが、梅川はそうはならなかった。

 なぜか。
 環境だ。

 天将星を鍛えるには、甘やかしてはならない。小さいころから鍛えて鍛えて鍛えぬかなければ、この星は思うように輝かない。
 だが梅川の母親は、彼をとことん甘やかしてしまったという。

 これでは天将星は宝の持ち腐れだ。腐ってしまう。しかもただでさえエネルギーが強いため、正常に消化されないエネルギーの持って行き場に困ることにもなる。

 運勢も関係している。

 2歳からはじまる「大運」(10年ごとに変わる)第一旬、梅川は「乙卯」だった。

 日干支との関係に注目してほしい。
 天干が同じで地支が「卯酉の冲動(=180度対極同士になる関係。卯は3月、酉は9月)」。この組みあわせは、いわゆる「納音(なっちん)」である。

 最初の大運で納音が発生することを「初動納音」と言い、「初動納音」が発生する人は、もっとも働き盛りのころ大運天中殺的な現象を起こしやすいと言われている。
 つまり、ものすごく落差の激しい人生か、波瀾万丈の人生になりやすいのである。

 こんな宿命と運勢、そして環境が、幼い日の梅川に不気味な時限爆弾をセットした。

 そして15歳のとき、梅川は「大竹市強盗殺人事件」を起こし、それから16年後、いよいよ三菱銀行北畠支店へと猟銃で武装し、乗りこんだのである。

 次回後編では「大竹市強盗殺人事件(1963年)」「三菱銀行猟銃強盗殺人事件(1979年)」、それぞれの年の梅川の運勢をご紹介したい。

 今回も算命学は、「奇妙な偶然」の薄気味悪さを私たちに見せてくれる。

-後編へつづく-

参考資料:
書籍『野獣の刺青/福田洋』(光文社)
書籍『三菱銀行事件の42時間/読売新聞大阪社会部』(新風舎)
書籍『破滅/梅川昭美の三十年』(幻冬舎)
書籍『封印されていた文書 昭和・平成裏面史の光芒 Part1/麻生幾』
映画『TATTOO<刺青>あり/高橋伴明監督』

                                                  (ご注意)
  本連載は実際に起きた犯罪事件を扱っており、様々な命式や人体図が出てきますが、それらの命式や人体図を持つ人がすなわち犯罪傾向にあるという意味では全くございません。持って生まれた宿命以上に取り巻く環境が重要であり、運勢は流動的なものです。逆にどんなに立派な宿命を持って生まれたとしても環境が悪ければ宿命は歪んでしまいます。持って生まれた宿命を生かすも殺すもその人次第(環境、生き方)であり、運命は変えられることを教えてくれるのもまた算命学であります。宿命から危機と傾向を知り、よりよく生きるための占術と捉えていただければ幸いです。

著者プロフィール

幽木武彦 Takehiko  Yuuki

占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト」。