うつ病おじさん 初のゲストハウス

ここ数日は希死念慮が湧き上がってくることがない。
これは私にとっては大いに珍しいことだ。
だが、いつまた希死念慮がふつふつと沸騰してきて、自殺未遂をするかわからない。
言い換えれば、私はいつ死ぬかわからない。

そこで、少し体が動く今の内にやってみたかったことをやってみることにした。

それはゲストハウスに泊まることだ。

34歳にもなって公言することではないが、私は根っからの温室育ちである。
大学生の夏休みもバックパッカーどころか国内旅行にすらでかけなかった男だ。
そんな温室育ちの私にとってゲストハウスは未知なるところだ。
個室のない宿なんて信じられない。

私はリュックを背負って沖縄に旅立った。
ゲストハウスは古びた商店街の一角にあった。
たまたま、ドレッドヘアの外国人が玄関に立ってて、私は思わず心の中で「うぉー」と叫んでしまった。
タトゥーを入れたお姉さんが玄関に出てきて、チェックインをした。
もうすでに私はドキドキだった。
館内のルールについて説明を受けた。
その間も何人かの旅人が私の横を通り過ぎていった。
どうでもいいのだが、なぜこういう人たちってサンダルなんだろう。
いや、バカにしてるわけではない。
ただ、私は「ダイハード」を見て以来裸足に対して抵抗があるので普段過ごしているときですらサンダルは履かない。

私は二段ベッドに案内された。
個室どころか壁すらない。
これなら深夜バスの方がプライバシーがあるレベルだ。
「これがゲストハウスか!」となんだかちむどんどんしてしまった。
早速隣人が話しかけてきた。
彼は中国から旅行に来た人だった。
日本に来るために3ヶ月日本語の勉強をしたそうだ。
「私は日本語が少し苦手」
と言っていたが日常会話ができるなら大したもんだろう。
仮に私が3ヶ月中国語を勉強して、中国に言ってゲストハウスに泊まってコンビニで買い物ができるかと言われると自信がない。

ゲストハウスには他にもアメリカからの旅人や日本人バックパッカーで溢れていた。
どうやら数ヶ月滞在している人もいるそうだ。
沖縄に移住を考えている人が、空き家を探す間滞在などをするらしい。
なるほど。そういう生き方もあるのかと感心した。

ゲストハウスと聞くと常に仲間で集まって飲んでいるイメージがあったので変な抵抗があったのだが、案外皆自由に過ごしていた。
ある意味気が楽だ。

消灯になったのでベッドに横になったが、案の定眠れなかった。
そりゃそうだ。
そういえば旅に慣れた先輩から「寝る前に睡眠導入剤は飲まないほうがいい」とアドバイスされた。
窃盗をする人はそういうのを見逃さないそうだ。
だから、私はゲストハウスに滞在中は眠剤を飲まなかった。
慣れない環境、眠剤無し。
眠れるわけがない。
結局深夜の3時位まで起きていて、さすがにウトウトして二時間くらいは眠ることができた。

翌朝起きて中国人の旅人と朝ごはんを買いに行った。
こういう出会も旅の醍醐味なんだなと思った。

宿に戻って交流室でおにぎりをかじっていると、私より年上のおじさんが料理を作って食べていた。
寝起きの、顔にタトゥーを入れた女の子がやってきて挨拶をしてきた。
温室育ちの私にとってはそれだけで刺激的だった。

ゲストハウス二拍目の夜も同じように眠れなかった。
ていうか、こういう環境下でいびきをかいて眠れる旅人さんたちはやはりタフなんだなと思った。
翌朝、私は寝不足で少し体調が悪かった。
ゲストハウスのチェックアウトは雑だ。
まあ、それがいいのだけど。

慣れない体験に少し疲れたけど、また行きたいと思った。
これがうつ病おじさん初のゲストハウス体験。

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