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恐怖!の運転免許合宿

皆さんどうも、ちんぽこぽん(挨拶のつもりです)。雨降りでも晴れの日でも休みは引きこもり体質の僕です。
このヘッダーの眉毛のない半グレですが、これは一体誰なのか!?と申しますと約十年前の僕です。
トレインスポッティングのユアン・マクレガーに憧れて坊主にしたら見事に半グレになりました。パンピーなんて所詮そんなもんなのよね、うう。
という訳で、今回は免許のおはなし。

僕は免許を取るのが非常に遅かった。二十二歳の終わりにしてようやく免許を取った。
他の兄妹四人は皆、十八になると親がお金を出して免許を取らせていた。けど、僕だけは親から「特別に」愛されていたので「欲しいならテメエの金で取れ!」という虎の子スタイルだった。僕って愛されてるなぁ……!!

金も掛かるし、まぁ元々、車欲しい!とかそういう欲が全くないのも遅れの原因の一つだった。
免許を取った理由は、当時長年付き合っていた目に入れたら痛かった彼女が仕事のストレスからパニック障害になってしまい、電車に乗れなくなってしまったからだ。
「おう!パナソニック障害だかソニックブームだか知らんけど、そんならワシがいっちょブーブー転がしたろやないかい!」とほぼ存在しない男気を出してみたものの、車も免許も無い事に気が付いた。
しかも彼女は僕の男気を気にする事もなく、さっさと車を買ってしまい

「で、あんたは一体いつ免許取るの?」

とまで言われてしまう始末。これは流石に取らない訳にはいかん、と思い立ち合宿免許へ行ったのです。
彼女に申し訳なかったけど、合宿と言えば色んな方面からワイワイと女の子達が来るイメージがあったので、初日の集合地の群馬の片田舎の駅前で僕は一人でドキドキしたりしていた。
もしかして、アンナコト! や コンナコト! があったり!?
しかし、時間になっても黄色い声は一切聞こえて来ず、やって来たのは元高校球児の大学生たった一人。

「ウッス!ジブンハー!橋本ト申シマース!!オナシャーーース!!!!」

と、何とも暑苦しい挨拶をされ、根っからの文化部だった僕は少々引いてしまった。
橋本君はかなりのお喋り好きで、人見知りの僕に構うことなく

「ベラベラウッスベラシャッスベラザーッスのゲッツー満塁ウサギトビ!アリアシタザッスの阪神なんてベラっすよー!!ぎゃはははは!」

と喋り続けていた。
こんな奴と二週間ちょいも二人きりで過ごすのかよ……と駅前でゲンナリションボリケロッグコンボイしていると、ブロンブオンバスン!と異音を放ち、変な色の煙を吐き出しながらボロボロの送迎バンがやって来た。
運転手のお爺ちゃんが「乗ってー!」と一言。大丈夫かよ、この教習所。と思ったが、悲しいかな僕の悪い方の予感というのは大抵当たるように出来ている。

教習所に着くと他の通いの教習生達と共に適正検査を行い、僕は脅威の「-E」判定を出してしまった。
教官が教壇に立ち、大声でこう言った。

「誰とは言いませんが、この中に「-E」判定の者がいます!いいですか!?間違っても、絶対に!免許を取っても車には乗らないで下さい!あなたは必ず人殺しになります!!」

事前に橋本君には判定のことを話していたので、橋本君は僕の隣で「人殺しが隣にいるッス、ブーッ!」と噴き出した。僕は橋本君が硬式ボールにつまづいて死ねばいいのに、と思った。
合宿は夏場だった為、教習中は涼しい場所を求めてガンガンにクーラーの掛かった喫煙所に入り浸っていた。すると、教官が皆、背中を丸めて煙草を吸っているではありませんか。僕は気になって声を掛けてみた。

「教官の仕事って項垂れるほど疲れるもんなんすか?」
「あー、違う違う。俺ら背中に刺青入ってるから、夏になると背中がプツプツ痛くなるんだよ……あー、まいった。いてー……」

どうもいかめしいツラの教官が多いなぁ、とは思ったもののまさかの事実に僕は煙草を落としそうになった。
確かに、背中のワイシャツから透けて素敵でお上品な和風画がうっすらと見えているではないか。
う”う”う”-……と唸る教官に、僕はさらに質問してみた。

「皆さん、今はあの、カタギなんですか?」

その質問に教官達は突然ドッと笑い出した。ハハハハハー!と豪快に笑ってはいたものの、答えを教えてくれなかったのが逆に怖かった。

ーE判定の僕だったが、教習は案外スムーズに進んだ。
一度教習所内で車をポールに激突させライトを破損させたけど、その時教官が全く僕を見ていなかったのでお咎めも無かった。
橋本君は女の教官の足が気になると言い出し、おまけに車内でナンパして断られ、さらに教習中の車内で手を出そうとして「事務所」に呼び出されたりしていた。盗塁失敗である。
路上に出る頃になると後発合宿組も加わり、僕は死んだ魚みたいな目で花火に強制参加させられたりもした。
後発組の中にイケメン美女カップルがいて(しかも性格が良い)、事もあろうに盗塁王橋本が彼女に惚れてしまったのだ。
アドレス交換を拒否され、彼氏に怒られ、彼女の部屋へ押し入ろうとして拒絶され、それでも気が収まらず酒を片手にホテル内をゾンビのように徘徊する橋本君の姿が目撃されるようになった。
ある夜、グデングデンの橋本君が僕の部屋に訪れてこう言った。

「あの彼氏いけ好かないんですよ、だって、カッコイイだけじゃないっすか。俺の方が絶対イケてますよ」
「いや、彼氏君は性格も良いし、おまえはえなりかずきに似ているよ」
「マジッすか!?」
「かなりかずきって感じだよ」
「そんなぁ……」
「なぁ、腹が減ってて目の前に弁当とウンコ並んでたらどっち食べる?」
「ウッス! 自分は弁当っす!」
「だろ? おまえは残念だけど、ウンコなんだよ。諦めなさい」
「えー、マジっすかぁ……」

と、肩を落としていたが現実を教えてやった僕はこれで少しは大人しくなるだろうと思っていた。
「免許取っても車には乗らないでね!」と笑顔で教官に言われつつ、無事卒検も受かり、いよいよ最後の夜を迎えた。
僕は彼女とルンルン気分でメールをしていたのだが、部屋の外では異変が起こっていた。
卒検に落ちた橋本君は暴魔と化し、合宿メンバーにこんなメールを一斉送信していたのだ。

「ハロー!今日の夜、皆で酒盛することに決めました!参加は強制です!集合場所は僕の部屋!よろしく~!」

なんだこれは……と思い、静かにホテルの廊下の様子を伺うと袋に入った大量の酒をぶら下げて歩く橋本君が目に入った。
この頃、橋本君は合宿メンバー達に「うぜえ」と言われまくっていた。何故なら、メンバーの部屋を酒を片手に連日訪れ、女の子が居るとすぐに口説こうとしたり目を離すと手を出そうとしたりしていたからだった。
橋本君は女の子がいると目が据わるのである。
まるで性犯罪者になったえなりかずきのような橋本君の姿に、皆怯えていた。

カップルやその他のメンバー達が僕の部屋に集まり、どうしましょう……と言うので僕は大人として決断を下した。

「今夜はあいつを、皆で無視しよう。責任は俺が取る(明日の朝にはもういないし、どうせ俺には関係ない。ヨシ!)」

皆はそんな意図がある事も知らずにホッした顔を浮かべ、各々部屋へ戻って行った。
そして、恐怖の夜が始まった。
部屋へ誰も訪れない事を察した橋本君は、酒を片手に各部屋を訪ねて回り始めた。厄しか持って来ないクソ迷惑なナマハゲみたいなものである。

「呑む子はいねぇがー!」

と叫びながら部屋をノックし、反応がなければ次の部屋へ。部屋を一巡するとまた最初の部屋へ、と地獄のナマハゲループを繰り出し始めたのである。
流石に僕もイライラし始めて来て、ドンドンと叩かれるドアの前で叫んだ。

「橋本! いい加減にしろよ!」
「いるなら出て来てくださいよー! 呑みましょうよー!」
「うるせぇ! おまえ嫌われてるんだよ! 分かれよ!」

その言葉に、ノックが止んだ。
シーン……と静まり返り、ゆっくりドアを開くと橋本君の姿はもうそこには無かった。
ちょっと言い過ぎたかな、そう思っていると遠くの方からオッサンの叫ぶ声が聞こえて来た。

「ちょ、あんた誰だよ! やめろ、おい!」

なんと橋本君は暴走した挙句、合宿とは無関係の宿泊客を襲い始めていたのだ。
僕はすぐにフロントに電話を掛け、ホテル側に対応を丸投げした。
酷い事を言ってしまった後で、顔を合わせるのが気まずかったのだ。

翌朝僕は合宿所を経ち、その翌日に免許センターで試験を受けた。
「ウルトラ教室」という「これを受けとけば絶対合格間違いなし!」というその日の問題の回答を教えてくれる教室も受講した。そして、落ちた。

二度目はウルトラ教室には行かずにそのまま試験を受け、晴れて合格した。
車を買い、念願叶い彼女を助手席に初めに乗せたかったのだが、買い物に行きたい! と言い出した彼女のお父さんまで一緒について来てしまったので、初の助手席は彼女のお父さんになってしまったりもした。

その頃になり、橋本君から無事卒業し、ようやく免許も取れた旨の報告のメールが入った。
良かったな、と思いながら僕はあの恐怖の暴れ様を思い出し、懐かしい気持ちになった。
もうこれでようやく関係がなくなったけど、頑張れよ。
そう思っていたのだがSNSを経由し、橋本君はまだまだ僕に絡み続けた。しかも卒業から数年後の出来事である。
こいつストーカーかよ!! って思ったけどフォローを許可した途端、彼が買った車の写真とヒップホッパー化したえなりかずき似の男の写真、そしてこんなメッセージが送りつけられてきた。

最近車にハマッてます! この車どう思います? あ、カッコイイのは分かってるんでカッコイイってのはなしで(キャーみたいな顔の絵文字)というか、どこが一番カッコイイと思います? あと久しぶりなんで女の子紹介して下さい。あ、この車に乗せるのが似合う女の子希望 ♪ 俺ってめっちゃカッコよくなったでしょ? 大枝さん越えちゃってると思います。マジでZEEBRA超リスペクトっす!だから女の子紹介してください。東京の女子希望  ♪

僕は「そうですねーーーー!!」と叫ぶ「いいともの観客」の声を頭の中で盛大に響かせて、彼をブロックした。

見境のない奴って基本的にギブアンドテイクの概念が破綻か崩壊してるので、リアルにこういう奴に会ったらあんまり近付かない方が良いと思います。

あー、久しぶりに思い出したぜ、盗塁王。

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