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🇯🇵【沖縄】後ろめたい街 @辻 2019

「時間稼ぎさ」私は呟いた。

元日の翌日から、かの有名な「辻」という遊郭街へ車を走らせた。

辻、というところは不思議な空間で、
那覇市内のオフィス街を裏手に数キロ入ると出現する遊郭だ。沖縄らしい角ばったコンクリートの建屋が並び、ポン引きがにこやかに笑顔を向けてくる場所だった。

しかし、辻の近くで私は足留めを食らってしまった。辻に向かうほど、渋滞しているのだ。しかも那覇の遊郭であるここ辻、にもかかわらず歩道には人がびっしりと埋め尽くされており、押し並べて家族づれである。

「初詣か…」

私はステアリングに突っ伏したまま思わず呟いた。皆が辻に向かっているように見えるが、彼らはその先にある神社に向かって歩いているのだ。

そしてしかたなく、子供を近づけたくもない辻を通るより近い道は他にないのだった。

どこも、満車だった。

私は焦った。引き返すことも、進むことも出来ない。時間は刻一刻と過ぎ去るのだ。

と、その時である。あることに気づいたのだ。彼らがこの遊郭に触れたくないならば、入り込んで車を停めるだろうか?

私は舵を切った。
辻に向かうメインストリートから脇に入った。迂回して辻の背中に潜り込んだ。

「あった。やっぱりだ。」

空いていた。
ポッカリとパーキングは空いていた。

周囲は全て古びた遊郭である。そして百メートル程先には先ほどの人々の群れが横切るのが見えた。しかし彼らは、辻の深くに入り込むことはないのだ。どんな事があっても深部に入り込み、車を停め、遊郭を家族で横目にしながら初詣に向かう訳がないのだ。

「お兄さん、どうです?」

若いポン引きがもみ手をしながら近寄ってきた。

ーータケシ

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