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カウンター越しの温かさ。

5月8日(月)
雨のち晴れ来店人数 一名

まじないをかけて作っている。

起きると外は土砂降り、午後には晴れたけど。そしてゴールデンウィーク明けの一発目。コロナ禍も明けて、外出制限のない初の大型連休が終わった。おそらく皆々様、お財布も痩せこけていることだろう。

昨晩のうちに、お通しは仕込んでおいた。今日の豚肉とひよこ豆のトマトワイン煮。豚スネ肉を下味をつけて叩いて、料理酒に一晩つけておいた。トマトワイン煮だからといって、ワインに漬け込まないのがポイントだ。ワインにつけてしまうと風味が赤ワインに持っていかれて、せっかくのスネ肉の味わいや風味を潰してしまう。一晩漬けたのでお肉はとても柔らかい。ほど歯応えもしっかりあってジューシーにできた。ちょっと嬉しかったですよ。ひよこ豆って煮込んでも大して味は染みないのかと思ったら、意外とトマトとワインの旨みがいい塩梅で乗ってきている。でも、ワインを使ってるので、お酒と何に合わせよう…って作った後に思った。バーなんだから、次からはもっとドリンクを意識してお通しを作ろう。でも自分で考えて作るだけならいくらでもできる。それじゃ面白くないから来てくれた人に意見を募っていきたいな。一人で作る空間じゃなくて、みんなで作っていく空間にしたい。

お通しというのは本来、お店側から来てくれたお客様に『うちの味はこんな感じですぁ、どぞっ良かったら味見してみてくだせぇ』というところから始まった習慣らしい。
Twitterで大船の老舗、運ど運屋の三代目からお伺いしたお話。つまりは、お店の味代表という事になる。そんなものを一端の間借りバーテンダーが作らせてもらっている。実に責任重大で身が引き締まった。ご愛嬌のポテトサラダなんて出してる場合じゃない。

そんなこんなで本日のお客様は一名。重みが違うんだよなぁとしみじみ思う。今までは時給でしか働いてこなかった。けれど、歩合給でやらせてもらって感じるのはたった一杯だけでも飲みにきてくれるという有り難さ、そして温かさ。僕がいる空間にいることを望んでくれているという実感は、きっと時給では感じられなかったと思う。決してお金が関係しているから、という現金なものではなく、時間を頂戴していることを改めて感じる。歩合給というのはやったらそれだけの『実感』をいただける。時給は1あるものを大きくする形態だが、歩合給とはある意味0→1の仕事だ。お金のもらい方一つで、こんなにも考えが変わるだなんて思っても見なかった。至極当たり前のことだと思うかもしれない。けど、実際に体感するとこの溢れ出す温かさを、誰かにこっそり教えたくなると思う。大袈裟じゃなくて、ささやかにそっとこの温かさを誰かに。それこそ短かな人に話したくなる温かさ。今までしてきた仕事の中で、一番人の気持ちを受け取って感じてってしてると思う。大袈裟じゃなくて。

そんな思いだから僕が作る一杯には精一杯の感謝と一緒に、今この時間も、この後の時間も『どうか最高の時間でありますように』とまじないをかけて作っている。
なのできっと、いい夜だったと思ってもらえると思う。
閉店後にドアの看板を裏返すたび、いい夜だったと僕が思ってるのだから。


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