日本が味方で良かった!
知られざる日本の名機
皆さんは、US2という海上自衛隊の飛行機をご存知だろうか。
正確には「飛行艇」という海面からの離発着(正確には「離着水」)が可能な飛行機のことで、主として海難事故の救助機として活躍している。
その大きな特徴が、何と言っても飛行艇としては現在世界一と言われている
4,700キロメートル
もの航続距離である。
冒頭のタイトルである「日本が味方でよかった」という言葉は、2022年6月28日に、沖縄から南東約780キロの太平洋上で、機関が故障して漂流中であったヨットに乗っていたアメリカ人ら3名の救護に向かったUS2がこれを発見救助した際に、助けられたそのアメリカ人が言った言葉らしい。
このUS2が所属する部隊は、山口県岩国市にある海上自衛隊岩国基地だけであり、このアメリカ人らを救助した場所までは、なんと直線距離で
1,600キロメートル
も離れていたのである。
ただその距離も、航続距離4,700キロメートルのUS2からすれば、往復してもまだ1,500キロメートルも余裕がある。
新幹線でいえば東京大阪間が約500キロメートルなので、その往復を軽く4回はこなすといえば、US2がいかに遠くまで飛べるか分かるであろう。
日本は周囲を海で囲まれた海洋国家で、その領海や排他的経済水域を合わせると世界第6位の海域を持っており、その全てをカバーするためには、US2のような優秀な飛行艇が必要なのだろう。
何せ、その広大な海域全てが飛行場として利用できるのだから、飛行艇が必要とされる理由は大きい。
また海難事故というものは、天候がよくない時や、海面が荒れている状態の時に発生するものなので、救助機には波高、つまり波の高さが高い時にも離着水できる能力が要求される。
この性能のことを、波高能力というらしいが、US2は
波高4メートル
までは、離着水可能らしい。
波高4メートルといっても、一般の人には分かりにくいが、よく天気予報で耳にする波浪注意報が波高1.5メートル、波浪警報が波高3メートルで出されるものだ。
釣りをする方なら、釣り船が波高2メートル以上で出港を見合わせることが多いらしいので、波高4メートルというものがいかに海が荒れている状態か分かるだろう。
現在このような高性能の大型飛行艇を持つ国は世界にはなく、ロシアにジェットエンジン搭載のBe-200という飛行艇があるものの、離着水能力や、航続距離、波高能力等あらゆる性能面でUS2にはるかに劣る。
実はこのUS2は、大東亜戦争時に活躍した
二式大艇
という飛行艇が前身となっている。
二式大艇は、当時川西航空機という会社が手掛けたもので、その性能は航続距離ではUS2よりもはるかに長い7,400キロメートルというものであった。
先の大戦時に、日本を無差別爆撃したB29という大型爆撃機の航続距離が6,600キロメートルであったことからしても、当時の日本の航空機産業の技術力の高さが窺い知れる。
終戦後川西航空は、新明和工業と名前を変え、そこで生まれたのがUS2なのである。
終戦後GHQ(占領軍)は、日本の軍事工場を徹底的に叩き潰し、飛行機であれば、模型飛行機ですら作ることを禁止するなど、日本の軍事能力を骨抜きにすることに腐心した。
しかし、新明和工業では、飛行機作りから他の製造部門に仕事を変えながらも、技術者だけは温存していたため、その後飛行艇製作の技術が継承されたのである。
やはり、「技術は人」なのだろう。
一度その技術が途絶えると、その再建は困難なのだ。
ちなみに、2013年に友人とともに太平洋横断にヨットで挑戦したニュースキャスターの辛坊治郎氏は、出発6日目にして浸水事故に見舞われ、その挑戦を断念せざるをえなくなったが、彼らを救護したのも、岩国自衛隊のUS2であった。
最初彼は衛星電話を使って、海上保安庁に海難事故の発生を知らせて救助を求めたが、「3日はかかる」と言われたらしい。
ところが海保からの連絡を受けた岩国基地はUS2を現場に向かわせ、その日の日没間際に現場に到着して辛坊氏らを救助した。
この時辛坊氏は、救助してくれた隊員に「名前を教えて欲しい」と聞いたらしい。
彼としては、一時は死をも覚悟した窮地を救ってくれた命の恩人の名前を心に刻みたかったのかもしれない。
ところがその隊員は、「チームで救助しているので個人の名前は言えない」と答えたそうだ。
すると辛坊さんは、「ではせめてチームの名前だけでも教えて欲しい」と言ったところ、その隊員は自分の飛行服の腕についていたワッペンをはがして渡したそうだ。
下の写真は、その時辛坊氏が受け取ったワッペンと同じものである。
海上自衛隊岩国基地第71航空隊のものである。
命がけで任務を果たしたにもかかわらず、自分の手柄を誇らない。
ただ国家と国民を守るために、多くを語らず、厳しい訓練に耐えて、ひたむきに命がけの任務を果たす。
このような多くの名もなき自衛隊員によって、我々国民は守られている。
本当に日本はありがたい国だ。
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