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屋形島不可思議紀行~月とソーセージとビール~

吉川さんが訪れた話の続編だが、前編読まなくても読めるけど、よければ読んでほしいです↑

さて、私は人の縁は奇妙なものだと思ってる。他人の本を読んで人生が変わることを経験した人はいると思うが、どの著者もあなたを狙ってそんなことを書いた訳でもないだろうし、なんならある意図で言ってることを受け取った側が違う意味に解釈してしまうことも少なくない。

本じゃなくても、全くの他人の失恋の歌に自分を重ねて悲しくなったり、ある人が言ってることをちゃんと理解しないまま何かを批判したり、人の脳みそはほんっとうに忙しい。

朝食はエッグトーストとコーヒー。まだ付き合い始めて間もない二人は初めての朝を迎えてた。唐突に彼が一言「キミが好き」彼女は頬を赤らめ「私も」と。彼「白身の淡泊なのダメだよね」彼女「・・・」キミは黄身で君じゃない、、、話を元に戻そう。

そんなたとえば何気ない一言を拾って、つぶやいた側の狙いからは全く予想しない感情や思考、さらには行動を変えてしまうことすらある。

屋形島に吉川さんがここを訪れたきっかけのひとつに、ある本の存在があったらしい。当時まだ発売されてない田中泰延さんの「会って話すこと」という著書の告知を私が引用リツイートした。それを見た吉川さんはいろんな人と会って話したいと思ったと聞いた。

もちろんそのときは内容を知らない、もしかしたら別居中の冷え切った夫婦が子供の学費の事で電話ではダメだ、会って話すべきだという内容の本かもしれない。ただタイトルを聞いただけで彼女の脳内には別のアイデアが形成されて一つの行動を促した。

とにかく全く意図しない言葉を縁として、人は行動を変えることがある。ほんとうに縁は妙だ。

実はもう一つ妙な事があった。その「会って話すこと」という本が吉川さんが来島する数日前に届いたことだ。

Y「今回旅してるの、タケシさんのツイートで会って話すことをシェアしてるのみて、これ私に必要なことだって思ったからってのもあるんです」

私「えええ、先日その本届きました!まだ読んでないですが、ほらここに」

Y「ほんとだ!?」

私「なんか不思議な感じですね」

なんか不思議な感じが好きな私は、困ったときやわからない事がある度にこの言葉を使うのだろう。前回の記事を読んでない人はもう一度戻って読んで見て欲しい。どうでもいいから。一応今回も強調しておく。

「なんか不思議な感じですね」

よし、だんだん恥ずかしくなくなってきた。

それはさておき「会って話すこと」のキーワードに触発され、会って話してた私たちの手元に「会って話すこと」の著書があるのだ。これを妙と言わずなんと言おうか。

話は戻るが「会って話すこと」という言葉は、特に当時コロナ禍で人に会いにくかった時期にとてつもなく響いた。リモートワーク、ZOOM会議、オンライン飲み会、一通りやってみて最初は慣れなかったけど、今では特にそつなく使えてる。必要な話はちゃんとそれでも出来る。だが一番重要なんじゃないかと思ったのは不必要とされてる部分だった。

私たちは会って話すとき、どうでもいい話をする。本題から脱線して盛り上がることもあれば、長い沈黙を過ごすこともある。居心地のいいときもあれば悪いときもあるし、その場の雰囲気や他人の感情を肌で感じながら同じ時間を過ごす。よくも悪くも相手ありきというところがある。オンラインでは相手の空気は全く伝わらない。表情も見えにくいし、話をきいてるかもわからない。私もよく話を聞かない。

必要なこと。不必要なこと。不要不急。いつからか人は理論的に意味を感じられないことを不要として切り離した。ここからここまでは不要ですよと。人と会うことは不要なのか。理由があることが必要なのか。私にはわからないし誰かの言ってる必要なことがほんとに必要なのかもわからない。ただ、会って同じ時間を過ごすことでおこる数値化できない経験は私にとって大切だからゲストハウスをはじめたのは間違いない。

SNSは中毒かといわれるくらいやってるかもしれない。ただそれで「繋がってる」なんて思ったことはない。ゲストハウスで話したらみんな繋がるかと言えばそれも違う。気が合うひとなんてそれほどいない。さみしいだけでもないし、むしろ一人でも充実した時間を過ごせる。ただそれとは違う軸で欲求するものが対人にあって、そこで知れるのが妙であり、不思議であり、思いもよらない縁なんだと思う。

実際、吉川さんと会って何を話したか。

正直に言おう。具体的に何を話したかはあんまり覚えてない。お互い好きなジャズの話、真面目な話もちゃんとしたし、くだらない話はそれよりもっとした気がする。その日は満月で、ゲストハウスの縁側からちょうど見えるくらいの角度に差しかかった頃、吉川さんはぼそっと「おなかすいた」と言った。

夜は更けてそろそろ私は家に帰ろうかという時間だったと思う。いそいそと冷蔵庫を開け、残り物のソーセージを二本焼いた。それからビールをもう一本開けて縁側で月を見た。

その日の月は少し青白く見えた。夜風は涼しくコオロギが鳴いていた。

なんか不思議な感じだった。

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