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さくらんぼ座(ショートショート)
ジョギングしながら夜空を見上げる。
一番最初に目に止まったのは、隣り合った二つの星だった。
続けてその上に、先に見た二つよりも一回り小さく輝く星を見つける。
これら三つの星を繋げてみる。
小さいものをやじろべえの中心に置くみたいに、への字型に繋げると、何だかその姿がさくらんぼみたいだな、と思った。
今日からこの三つの星たちをさくらんぼ座と名づけることにしよう。
そう決めた瞬間、星の輝きの中から一滴の雫が滴り落ちてきた。
それが夜の道路の上でポトリと音を立てると、一瞬にして甘酸っぱい香りがあたりに満ちた。
それはまるで、さくらんぼの果肉を齧った時や、砂糖漬けにしたときのような、どこか野趣あふれる酸味を帯びていた。
さくらんぼ漬けにされたその空気を、手のひらでそっと包み、家に持ち帰る。空のタッパーに移し、保存する。
次の休日、つまりは明日、作ろうとしていた菓子パンに、この空気を混ぜたら一体どんな感じになるだろうと思った。
空気が劣化しないように、冷蔵庫で保管する。扉を閉める瞬間、タッパーの中が濃密なブラックチェリーのような輝きを見せた。
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