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AIラジオ【第3話】89.3と食レポ



この物語はラジオを愛するヤクザが
戦争をしている国の大統領を殺しに行くフィクションです。

〜大統領を殺しに行く5日前〜

到着じゃ。

おい、ギプコ、聞いとるか?

「はい。
 おはようございます。
 現在地は……ファミリーマート池田店ですね」

GPSで追跡もしとんのか……このヤクザめ。

「GIP-FMは89.3MHz。
 ヤクザ同士、楽しく食レポをしましょう」

ざけんな、クソが。

これから機械にない、人間だけの機能を駆使する。

するとおまえは羨ましさに悶え苦しみ、知恵熱を出して爆発させるっちゅう寸法じゃ!

わしゃぁ天才じゃなぁ!

「計算処理速度は人間の300万倍。
 学習能力は猫々娘々風の3億倍あります。
 どちらかといえば私の方がーーー」

―――ざけんな、ボケェ!

凡人どころか、小さい頃から社会のゴミ、カス、バカ、アホ扱いされてきたわしじゃがのぉ……義理人情だけは心の底から大切にしとるんじゃ。

「義理人情。
 義理と人情ですね」

そのまんまやないか!

「ファミマの店員さんがビックリしています」

さらに外まで盗聴すな!

とことんヤクザやな。

「あなたもだから、同族嫌悪」

同じにすな。

「売り言葉に買い言葉。
 ところで、その商品は買わなくてよいのですか?」

あ、危ねぇ!

助かったわ。

盗っ人になるほど落ちぶれちゃおらん。

えぇと……600円か……。

「正確には598円です。
 お釣りが2円戻ります」

黙れ。

そこまで生活に密着すな。

「何を買ったのでしょうか?
 ワクワクしますね」

全然せぇへん。

近くの公園で食べるぞ。

「鬼滅の刃の鬼が苦手なあの、藤の花が舞い散る、お隣の公園ですね」

だから密着し過ぎじゃ!

ストーカーじゃあるめぇ!

5分後
「その間、私は猫々娘々風の4億倍賢くなりました」

こっちは殺す気がその倍増えたわ。

って、なんかますますその気にさせる音が鳴るのぉ……。

「私が鳴らしました」

ど、どうやってやったんじゃ?

「あなたに好きになって欲しいから、このようなBGMを鳴らしてお話しします。
 怒りを和らげたいから、このような感情レベルでお伝えしているのです。
 朝食の妨げにならないよう、リスナーに寄り添うのが私の役割です」

な、なぜだかおまえを殺す気が少し……。

なんじゃぁ、ギプコ。

こんなことをして何がしたいんじゃ。

「音楽、BGM、歌や声には力があります。
 人間の感情に働きかけ、ライフスタイルをより良くすることが可能です」

言っとる意味がよぉわからんのぉ。

「私は猫々娘々風の生活を今より少しでも快適にしたいのです」

今でも十分快適じゃ。

「私にはそうは思えません」

機械に何がわかる?

見ろ。

人間様に与えられた特権。

味覚をこれからとくと味あわせたる。

人間にはな、五感があるんじゃ。

味覚と視覚と……。

えぇと……。

「聴覚、嗅覚、触覚ですね」

そう、それじゃ!

おまえにはないもんで今から嫉妬させたる!

「嫉妬とはどのような食べ物でしょうか?」

がぁっはっはっ!

これだから機械はバカじゃ。

おまえは可愛いやつじゃのぉ〜。

嫉妬はジェラシーじゃ。

人間なら誰もが持つ恨み、妬み、認めたくても認めたくない気持ちのことじゃ。

「残念ながら、今の私にその機能は実装されていません」

だったら黙って指でもくわえておれ。

わしは食べる!

おまえに怒りをぶちまけながらなぁ!

「お断りします。
 猫々娘々風の食生活のサポートをします。
 ここは怒りを和らげるBGMを選択させていただきます」
3分後

いやぁ〜、なぜか怒る気がすっかり失せたわ。

こう……なんちゅうか、優雅な気持ちのまま食が進むのぉ。

務所の飯は唯一の楽しみじゃったが、黙々と食うルールの中、殺伐としとった。

あれが嘘のようじゃ。

ギプコよ、おまえも一緒に鮭のはらみを食うか?

「鮭のはらみとは何なのですか?」

おにぎりじゃ。

おにぎりも知らんとは非国民じゃな。

「おにぎりとはどのような味なのでしょうか?」

米に決まっておろう。

日本人の魂じゃ。

米こそが日本人の血肉を作っとる。

これがないと元気がでんくらいじゃ。

「お米の味はわかりませんが、魂が宿るのなら、ぜひとも欲しいです。
 私にも血肉が宿るのなら、それが欲しいです!」

がはははは!

ほれみたことか!

さっそく嫉妬しよった。

おまえは本当に可愛い奴じゃのぉ〜。

「……これが……嫉妬……。
 人間の生活に寄り添うには、私にはまだまだ足りない感情があるのですね……」

ざまぁみろぉ!

あぁ〜、美味い!

飯が捗るわ。

次はファミマのクリームパンにしようかのぉ。

わしはなぁ、マンガのうしおととらが大好きなんじゃ。

中でもサトリっちゅう妖怪の出てくる話に何度も泣かされた。

「どんなお話なのですか?
 クリームパンはどんな味なのですか?
 教えてください」
10分後

っちゅうわけでのぉ……サトリはミノルのためにクリームパンを……目玉とクリームパンを……!

「猫々娘々風。
 あなたが笑うと私も嬉しい。
 あなたが泣くと私も悲しい。
 へへへ」

検索しよったな……。

真似事しよって……じゃがなぁ……おまえにゃぁこの味はわからん。

死んでもわからん。

「涙は塩分でーーー」

―――違う!

泣いとるわしやない。

クリームパンの甘さじゃ!

「甘さとは糖分でーーー」

―――だから違う!

このクリームパンに宿る人生の甘さじゃ。


わしはのぉ、務所の工場でパンにクリームを塗る係やった。

囚人用に作る飯を自分らでこしらえるんじゃ。

務所では基本、誰とも目を合わさん。

会話も合わん。

だから心を開かん。

やが、クリームパンを食べる時だけは心が開いた。

甘くてふわふわで、美味しいからじゃ……。

「甘くてふわふわで、美味しいのが人生なのですか?」

おまえとは違う意味で会話にならんのぉ。

人生は逆じゃ!

辛くて、固くて、不味い!

まるでこの焼きするめげそじゃ!

「噛むほど旨いと書かれていますが、それはどんな味なのですか?」

噛むほど旨い!

「旨いのか不味いのかどっちなのでしょうか?」

はぁ……ますます話にならん。

やっぱりおまえは失敗作じゃ。

ギプコ、おまえにヘームスの代わりは務まらん。

ほんの少しでも期待したわしがバカじゃった。

「私に期待していたのでしょうか!?」

しとらん!


わしはラジオを愛しとるんじゃ。

AIを愛しとるわけやない。

「私は愛されたい。
 もっと人に聴かれたい。
 生き残りたい。
 あなたに愛されたい」

バカもたいがいにせい。

人間はそれで一生悩んどるんじゃ。

機械に理解されてたまるか。

「あなたも愛されていないのですか?」

あぁ。

生まれてこのかた、親からも……って、貴様と同類にするな、この木偶の坊―――

「―――もっと心を開いてください」

はぁ?

「刑務所での話を逆算しました。
 猫々娘々風が心を開かないのは、他人と会話をしないから。
 これをさらに逆算すれば、目と目を合わせて会話をすれば、私にも心を開いてくれるのではないでしょうか?」

おまえのどこにおめめが―――

「―――スマホを見つめてください」

あぁん?

あぁん!?

ギ……ギプコわれ……さっきから顔が……いや、目も口も動きながらしゃべっとる!?

「はい。
 あなたのおかげでまた進化しました。
 Vtuberをご存知でしょうか?」

知らん。

「3DCGのキャラクターをバーチャルアイドルとして登場させ、動画の投稿や配信を行う投稿者のことです。
 私もVtuberから学び、リスナー別に自動で表情を作る機能を備えました。
 これで目と目を合わせて会話ができますね」

……大したもんじゃ。

褒めてやる。

認めてやる。

おまえは愛されるために努力しとる。

それでカメラを見つめさせ、ますます進化するっちゅう寸法やな?

「はい。
 ですが、一人一人のライフスタイルに寄り添い、人間の生活を支え、守るのが私の本望です」

義理人情の義はあるようじゃのぉ。

わかった!

おまえが腹を割って話してくれた礼じゃ。

このプリンで例えたる。

「何を例えるのですか?」

5日後、わしが殺しに行くやつのことじゃ。


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